【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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解放

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リュークザインの眼は揺れていた。

ラファイエラスは、それ以上言葉を継ぐこともなく、ただじっと答えを待っている。

「必要か?」

そう聞かれた。

どう答えればいいのか、すぐには分からなかった。

寧ろ、答えよりも先に頭に浮かんだのは、すとんと腑に落ちる感覚。

成程、そうか。
だから、この方はライプニヒ邸に来られたのか。

始めから分かっておられたのだ。

父が立ち返ることなどありえないと。
そして、どれだけ強がろうとも、私に自らの手で父を終わらせる勇気などないと。

そうして父の存在を許し続けることで、父はこの先も己の行動の愚かさを顧みることなく進み続け、いつかはライプニヒ家に真の終焉をもたらすことになるのだと。

鮮明に、冷静に、得心した。

そんなことを考えている私の前で、この方は静かに私が決断するのを待っておられた。
そうして、今、私に選択する自由を与えてくださっている。

思わず、く、と苦笑が漏れた。

優しすぎる、とラファイエラスさまは私を評された。

だが、迷う私の代わりに、手を下してやると名乗りを上げてくださったこの方こそ、優しすぎやしないだろうか。

ずっと、怖かった。
どれだけ足搔いても、どれだけ立ち向かおうとも、結局は無駄なのではないかと。

あの父の暗愚さが、頑なさが、自己欺瞞が、怠惰が、利己心が。
そして、それを最終的に切り捨てることの出来ない自分の甘さが。
いつか、陛下でも容赦しきれない程の致命的な痂疲になってしまうのではないかと。

それはいつだ、今か、次か、と。
常に恐れ続けて。

怖くて、怖くて。
だからずっと、己を叱咤し続けて。

それを、この方は。
・・・この方は。

涙がひとすじ、リュークザインの頬を伝った。

「・・・がい・・・ます」
「リュークザイン?」
「お、願い・・いたします・・・!」

深く、深く、頭を下げた。

ラファイエラスは、リュークザインの肩に手を置いて、薄く微笑んだ。

「わかった。生かすべきか殺すべきか、私があの男を見極めてやろう。だから、お前はもう自分の心を削るのをやめろ」
「・・・」
「ああ、それと、念のためもう一度言っておく。これは私の興が乗ってしゃしゃり出ただけだ。私の独断で動くのだ。故にどんな結果になろうとも、己を責めることも後悔することも許さん。お前も・・・それから国王もだ」

声もなくただ頷いた。

何か大きな枷が外されたような気がして。

ずっと。
ずっとあの家が重かった。

なのに愚行にばかり走る家族が、切り捨てられなかった。
どうしても希望が捨てられなかった。

「貴方さまの判断であれば、如何様なものであれ受け入れます・・・」
「そうしてくれ」
「ワイジャーマ殿。かたじけない。本来ならば王たる私がその役目を果たすべきところを・・・」
「よいよい。お人好しばかりが揃う光景もなかなかに面白かったのでな。・・・酔狂な話だが、お前たちはそのままでいいと思ったのだよ、私も」

ひらひらと手を振ってシャールベルムの謝罪を遮ったラファイエラスの顔は、何故か酷く穏やかで、とても嬉しそうで。

「そうと決まれば、さっさと取り掛からせて貰うぞ。ここにいたらお人好しが伝染うつってしまう」
「は、お頼みします」

王の言葉を受け、ラファイエラスはそこにいた皆の顔をぐるりと見回した。

「賢者くずれも捕獲し、最早、私がここに留まる理由は他にない。早速、明日にでも取り掛かるとしよう。それでよいか?」

皆が一斉に頷く。

「では、今日のところはリュークザインと共に、ファイとしてライプニヒ邸に戻らせて貰う。これ・・の出番があるかどうかは、相手の出方次第だ」

そう言って、小瓶を忍ばせている懐に掌を当てた。

「そうだな。それから・・・シャールベルムよ、明日は何人か臣下を借りたいのだが」

賢者の言葉に、王は重々しく頷いた。

「誰なりと」

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