【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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誰と誰が踊りましょう

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シュリエラたちを見送った後のこと。

「シュリエラ嬢が今年デビュタントってことは、もしかしてエレアーナ嬢もそうなのかな?」

レオンハルトの問いに、エレアーナが肯いた。

「はい、わたくしとシュリエラさまは同い年ですので」
「あれ? じゃあ、カトリアナ嬢も?」

隣の令嬢に同じ質問をすると、カトリアナはふるふると首を横に振った。

「わたくしはエレアーナさまたちよりも一つ下でございますので、来年になります」
「そっか、来年ね」

ふむ、と肯く。

「それじゃ、今から来年のデビュタントのダンスを予約しておこうかな」
「はい?」

眩いばかりの笑顔でダンスを申し込むレオンハルトの隣で、カトリアナがぴしり、と固まる。

「駄目?」

カップを持つ手が空中では止まったままのカトリアナに、ちらりと意味ありげに視線を流しながら問いかける。

「まぁまぁまぁ、もちろん駄目な筈がありませんわ! ねぇ、カトリアナ?」

目をきらきらさせながら、アリエラが代わりに答える。
その言葉に、レオンハルトは「よかった」と嬉しそうに頷いた。

「夜会でご令嬢たちに囲まれるのも辛いんだよ。誰でもいいって訳でもないしさ。ケインはエレアーナ嬢が今年から参加するようになるからいいだろうけど」

いきなり話を振られ、ケインたち二人は赤面する。
だが、やはり彼らもその話題は気になってはいたようで、チャンスとばかりにケインバッハはエレアーナの方に向き直った。

「・・・その、エレアーナ嬢」
「はい?」
「君のデビュタントの時には、俺にエスコートをさせてもらえると嬉しいのだが」

何故か自信のなさそうな表情に、エレアーナの口元が、ふ、と緩む。

「勿論ですわ、ケインさま。有り難くお受けいたします」

ぽっと頬を染めながら約束を交わす二人を、微笑ましく見守る目、冷ややかに見つめる目、羨ましそうに眺める目と、それぞれで。

そんな空気を気にもせず、レオンハルトはカトリアナとの約束を取り付けて上機嫌になっていた。

「ああ、よかった。今年一年、何とかしのげれば、来年からは安心だ」
「来年からはって、その、あの・・・」
「ん?」

焦るカトリアナに、微笑みながら首を傾げる。

「踊るのはデビュタントの時だけではないのですか?」
「ええ、なんで?」

軽く聞き返したレオンハルトの答えに、カトリアナだけでなく、横で聞いていたアリエラたちも驚いた。

「なんでって、それは・・・」
「カトリアナ嬢は、そんなに僕と踊るのが嫌なの?」

少し拗ねたような口調で聞き返す。

「い、嫌な筈はありません。ですが、殿下と踊りたいご令嬢がたくさんおられるでしょうし・・・」
「そりゃたくさんいるけどさ」

眉根が少しだけ寄せられる。

「さっきも言ったよね? 誰でもいい訳じゃない。僕は自分が踊りたいと思う人と踊りたいんだ」

カトリアナが目を大きく見開く。

「まぁ、君が嫌だって言うんなら、諦めるしかないけどさ」
「いえ、決してそんなことは・・・」
「そう? ならいいよね」

その笑顔は少し意地が悪そうで。
でも、その顔は、どこか見覚えがあって。

そうだわ、これは前によく、エレアーナさまをからかう時に見せた表情・・・。

そう思って、ちらりとエレアーナに視線を走らせる。
やはり、あちらも覚えがあるようで少し眉を下げながら微笑んでいるのが分かる。

なるほど、ケインバッハさまの手前、もうエレアーナさまをからかう訳にはいかなくなったってことね。
でも、殿下だったら、からかう相手くらい、別に私じゃなくてもいるでしょうに。

まぁ、最近よくお話しする機会があったから、私だと手っ取り早かったのかもしれないけど。

と、その時、ふとある考えが閃いて。

ーーそうだわ。折角ですもの。

「それでは折角ですから、わたくしが殿下と踊らせていただく時には、是非ここにいる皆さまも一緒に踊っていただきたいですわ。ケインバッハさまはエレアーナさまと、そしてアイスケルヒさまはお姉さまと」
「・・・」
「ちょ、カトリアナ?」

慌てた声を上げる姉を無視して、カトリアナは話を続ける。

「せっかくのデビュタントですもの。お願いできませんか? アイスケルヒさま、ケインバッハさま」
「俺は、もちろん構わないが」
「・・・私も、別にそれで構わない」
「ア、アイスケルヒさま?」
「・・・なんだ、私では不足か?」

驚くアリエラに、アイスケルヒは少しぶっきらぼうに聞き返す。
それにアリエラは、かぶりを振って。

「ですが、アイスケルヒさまは今まで誰とも・・・」
「君の妹君のたっての頼みだ。これくらい訳もない」

訳もない、氷の貴公子のその言葉に、アリエラはぽかんと口を開けたまま。

少しの間の後、アイスケルヒは言葉を継いだ。

「・・・その、君が嫌でなければ、だが」

そう言ってアリエラから顔を逸らしてしまったアイスケルヒを、アリエラはしばらく黙って見つめている。
そして、ようやく我に返ると、頬を朱に染め小さな声でおずおずと呟いた。

「・・・嫌なはずなどありませんわ。喜んでお受けいたします」

その言葉に、アイスケルヒの顔までもが赤く染まる。

周囲が空気を読んで二人の世界に浸らせてあげようと口を閉じた時、場にそぐわない情けない声が室内に響いた。

「あの~、オレのこと忘れてません? 酷いじゃないですか、カトリアナ嬢。デビュタントの時のダンス、オレも人数に入れてくださいよ~」

うっかり数に入れ忘れたライナスからの抗議の声に、カトリアナがしまった、という顔をする。
いかにもライナスらしいとぼけた行動に、レオンハルトは苦笑を返すしかなくて、

「・・・ああ、そうだな、ライナス。折角だから、その時はライナスもシュリエラ嬢と踊らせてもらうといいよ」

主君の言葉に安堵するライナスの姿に、その場の皆が笑顔に包まれた。
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