【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
111 / 256

不敵な男

しおりを挟む
カトリアナの挨拶の言葉の後、エレアーナは、ケインバッハと共に祝福を述べに行った。

「おめでとうございます。王太子殿下、そして、カトリアナさま」

幸せそうな二人の姿に、エレアーナたちも自然と笑みが溢れる。
何よりこの二人は、エレアーナが最も信頼し、最も幸せになってほしい友人でもあるのだから。

「ありがとう。まぁ、告白のきっかけは、ちょっと間抜けだったけどね」 

そう言って恥ずかしそうに笑うレオンは、いつもと同じ穏やかな空気を纏っていて。

「来年には、アリエラさまがわたくしのお義姉さまになられます。そうなると、カトリアナさまとも義理の姉妹になれるのですね。大変、光栄に思っておりますわ」

そう言いながら、ちらりと会場後方で談笑している兄たちに視線を投げる。

「そうか。来年なんだ。忙しくなるね」
「そうですね。兄などは待ちきれないようで、今からそわそわしておりますわ」

そう言って苦笑する。

「ふふ、社交界でも噂になってたものね。『氷の彫像』が、愛しの婚約者の前でだけは微笑むってさ」
「そうなのですか? わたくしは笑顔の兄しか存じませんので、そちらの噂の方が信じられないのですが」
「そっか。アイスケルヒは妹の君にも随分と甘かったんだっけね。でも実際、彼の笑みはなかなかお目にかかれないものだったんだよ」

そして、ふと思い出したように付け加えた。

「なかなかお目にかかれないといえば、ケインがエレアーナ嬢にだけ見せる甘々の顔もそうだよね」
「え?」

レオンハルトが視線をケインへと移す。

「基本、無表情のケインが、エレアーナ嬢の前だと赤くなったり、照れたり、微笑んだりってころころ表情が変わるもんね」

くすくすと笑いながら揶揄うが、ケインはあまり自覚がなかったようで、きょとんとしている。

「・・・そんなに違うのか? 俺は」
「社交界のご令嬢たちがこぞって嘆くほどにはね」

そう言うと、おもむろに隣にいたカトリアナの腕を取り、その手の甲に唇を落とす。

「レ、レオンさま?」
「おかげで一部のご令嬢たちの執念が僕に向けられて、ほとほと困ってたけど、もう僕には愛しいカトリアナがいる。これからは思う存分、カトリアナとの時間を楽しむことにするよ」
「王太子殿下だって、カトリアナさまへ向ける表情は他とは全く違いましてよ?」

ふふ、と笑いながらエレアーナが指摘する。

「もともとお優しい方なのは存じ上げておりましたけれど、カトリアナさまに向ける眼差しには、他の感情も込められているようですわ。愛しさとか、熱情とか、労わりとか、独占欲とか、それはもう、いろいろと」
「まぁ、独占したいというのは確かだろうね。本音を言えば、こんなところにいるよりも、カトリアナと二人きりで過ごしたいもの」
「おやおや、こんなところとは酷い言い草ですな。ようやく射止めた愛しい婚約者のお披露目会ですのに」

脇からひょいと会話に加わったのはベルフェルトだ。

「お披露目といってもね、お前たちみたいに純粋に祝福してくれる者たちばかりでもないからね」

本音を滲ませた言葉に、その場にいた者たち全員から苦笑が漏れる。

「大丈夫ですわ、殿下。そのような者たちのためにお気を害する必要もありません。わたくしには、お二人が幸せになる未来しか見えませんもの」
「ありがとう。同じ言葉をそのまま君たちに返す。君たち二人の将来も、幸せしかない筈だよ」

こうしたやり取りに対して、ベルフェルトは大袈裟に溜息を吐きながら口を開いた。

「これはこれは。未だ婚約者もいない独り身のオレとしましては、焦燥感が募るばかりの会話にございますな」
「よく言うよ。あえて相手を選ばないくせに。叔父上が心配してたんだぞ、ベルフェルトは一向に身を固める気配がないって」

実際、ベルフェルト・エイモスは非常にモテる。
無造作に流した紫の髪と濃紺の眼が非常に印象的な美形で、背も高く、中世的な顔立ちながら色気も滲み出ていて、その色気にやられたご令嬢たちからは、遊びでもいいからお付き合い願いたいと、引きも切らずに声がかかる。

そして、ベルフェルトも敢えて選択しているのだ。
決して一人には定めない、浅く広い男女の付き合いを。

「はは、バレましたか。空を舞う蝶々の美しさは自由に愛でていたい主義なものでね。こればかりは、どれだけミハイルシュッツさまがお嘆きになろうと改めるつもりはありません。当分、自由にさせてもらいますよ」
「まったく、お前という男は・・・」
「せっかく多くの美しい蝶が私のもとに飛んできてくれるのですよ。楽しまなくては勿体ないでしょう。なぁに、結婚でしたら、別に三十や四十になってからでも遅くはありませんからね」

レオンハルトが困ったように笑う。

叔父から聞いているのだ。
エイモス家当主としての表向きの顔とは別の、諜報員としての立場故に、敢えて特別な存在を作らずにいることを。

シャルムにより負わされた怪我がようやく治りかけた頃、ブルンゲン・エイモスは地下牢に閉じ込められた賢者くずれとの接触を図ろうとし、息子ベルフェルト自身の手で処分、、された。

その後、当のベルフェルトからの願いで、諜報機関の表向きのトップをリュークザイン・ライプニヒに、裏の取りまとめ役としてベルフェルト・エイモスが立つことになった。

敢えて汚れ役を買って出るベルフェルトをミハイルシュッツは痛く心配しており、処遇を変えようと何度も声をかけるのだが、ベルフェルト自身が一向に耳を貸さない。

特定の相手すら決めないほどの徹底ぶりで、これではいつまでたってもベルフェルトが幸せになれない、とミハイルシュッツだけでなく、シャールベルムも気をもんでいるのだ。

「ご心配はいりません。なにも一生結婚しないとは言っておりませんよ?」

そう言って不敵に笑うベルフェルトを、相変わらず人の上をいく男だ、とレオンハルトは思うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...