120 / 256
色のある眼
しおりを挟む
「野暮なことを聞くようだが、お前はまだ特定の相手は決まっていないのか?」
「ええ、残念ながら」
「意外だな」
ベルフェルトの返答に、シュリエラが問うように眉を上げる。
「そう睨むな、オレはてっきりライナスバージあたりと付き合っているのかと・・・」
「あり得ませんわ」
最後まで言い終えないうちに、ばっさりと切り捨てられる。
「これは手厳しい」
「そういう意味ではありません。わたくしを恋愛の対象として見ておられない方を、わざわざお相手の候補に入れる訳がないでしょう?」
「ほう?」
ベルフェルトは、面白そうに目を瞬かせた。
「ライナスバージはお前を恋愛の対象として見ていない、と」
「その通りですわ。そして、それはわたくしにとっても同じです」
目立つ容姿の二人がくるくると優雅に踊りながら話題にする内容とは到底思えないのだが、ベルフェルトは十分に興味をひかれたようだ。
「つまり、お前にとってもライナスバージは恋愛対象ではない、と、そういう事か」
「そうですわね」
「アレは、結婚の相手としてはなかなかに良いであろうに」
「仰る事は分かります。確かに、ライナスさまはお優しくてお強い方、そして見目も整っていらっしゃいますわ。それに、今やカーン騎士団長を凌ぐ実力もつけつつあると評判です。でも、それとこれとは別ですわ」
「別なのか」
面白そうに問い返すと、シュリエラは大まじめに頷いた。
「ええ、別です。ライナスさまはわたくしにとっては兄のようなもの。そうですね、ベルフェルトお兄さまと同じ立ち位置なのですわ」
「なるほど。ということは、お前はオレも対象外だと言うのだな。悲しいことだ」
「心にもないことを仰らないでくださいな。当然でしょう。ベルフェルトお兄さまの目には、色がありませんもの」
「色?」
「ええ。わたくしを見る目に、何の色も含んでおりません。そして、それはライナスさまも同じ。色も欲もありません。そんなお二人を候補に入れるだけ無駄でしょう?」
にっこりと微笑みながら説明され、一瞬、ぽかんとした表情を浮かべたものの、すぐにぷっと吹き出した。
「そうか。分かっていたか」
「勿論ですわ。相手の気持ちも考えずにひとりで突っ走って、周りに迷惑をかけるのはもう御免です」
「はは、成程。立派な淑女に成長したものだ」
「お褒めいただき恐縮ですわ」
あくまでも、つんと澄ました表情を崩さないシュリエラに、笑いをこらえるのも必至なようで。
くすくすと笑いながらも、ステップを踏み間違えることもなく華麗に踊り続ける二人に、自然と周りからの視線も集まっていく。
その時ベルフェルトは、ふと、自分たちに注がれる視線の中で、他とは異なるひとつの視線に気が付いた。
「シュリエラ」
「なんでしょう?」
「見つけたぞ」
ふ、と微笑みながらそう囁くが、まったく意味の分からないシュリエラはただ黙って眉を寄せた。
「お前のいうところの、色のある目だ」
「はい?」
「お前をじっと見つめている男がいるぞ」
「ご冗談を」
「冗談ではない。ほら」
そう言って、ベルフェルトは、くるりと大きくターンをした。
ベルフェルトとシュリエラの位置が入れ替わり、ベルフェルトの肩越しに一人の男の姿が目に入る。
「・・・」
「見えたか」
「・・・ええ」
「知り合いか?」
「会った事はあるにはありますが、知り合いと言えるかどうか・・・」
「あの男に自覚があるかどうかは知らんが、あの視線、お前に興味があることだけは確かだな」
「そうでしょうか」
「そうだとも」
今ひとつ信じきれないという返答に、ベルフェルトの口角が意地悪く上がる。
「なんだ、自信がないのか、シュリエラ? 賭けてもいいぞ。オレと踊り終わった後、あの男は必ずお前のところにダンスを申し込みにやって来るとな」
「ベルフェルトお兄さま」
「おっと、お兄さまと呼ぶのは、ここでは最後にしてくれ。あらぬ誤解を招きたくはないからな」
「ついうっかり。申し訳ありません」
「よし、いい子だ。そら、もうじきダンスが終わるぞ。お前は美しい。そんな不安そうな顔をするんじゃない」
ベルフェルトの安定したリードでシュリエラは最後まで美しく踊りきり、周囲からは自然と拍手が湧き起こった。
ベルフェルトに手を引かれ、ホールの端に移動して、飲み物で軽く喉を潤していると。
果たして、ベルフェルトの予告通り、目の前に先程の男性が進み出た。
ベルフェルトは傍で笑みを深くした。
その人の背の高さに、シャンデリアの光が僅かに遮られ、シュリエラの顔には薄く影がさして。
本当に偶然、二回ほど出くわしただけ。
それを、知っている人だと言っていいものかどうか。
出会いとも呼んでいいものなのか。
その答えは分からないけれど。
「こんばんは、美しい方。アッテンボロー・ガルマルクと申します。次に貴女とダンスを踊る栄誉を、どうか私に与えてはくれないでしょうか」
深い深い海のような美しい濃紺の髪をした男は、そう言って恭しく手を差し出した。
「ええ、残念ながら」
「意外だな」
ベルフェルトの返答に、シュリエラが問うように眉を上げる。
「そう睨むな、オレはてっきりライナスバージあたりと付き合っているのかと・・・」
「あり得ませんわ」
最後まで言い終えないうちに、ばっさりと切り捨てられる。
「これは手厳しい」
「そういう意味ではありません。わたくしを恋愛の対象として見ておられない方を、わざわざお相手の候補に入れる訳がないでしょう?」
「ほう?」
ベルフェルトは、面白そうに目を瞬かせた。
「ライナスバージはお前を恋愛の対象として見ていない、と」
「その通りですわ。そして、それはわたくしにとっても同じです」
目立つ容姿の二人がくるくると優雅に踊りながら話題にする内容とは到底思えないのだが、ベルフェルトは十分に興味をひかれたようだ。
「つまり、お前にとってもライナスバージは恋愛対象ではない、と、そういう事か」
「そうですわね」
「アレは、結婚の相手としてはなかなかに良いであろうに」
「仰る事は分かります。確かに、ライナスさまはお優しくてお強い方、そして見目も整っていらっしゃいますわ。それに、今やカーン騎士団長を凌ぐ実力もつけつつあると評判です。でも、それとこれとは別ですわ」
「別なのか」
面白そうに問い返すと、シュリエラは大まじめに頷いた。
「ええ、別です。ライナスさまはわたくしにとっては兄のようなもの。そうですね、ベルフェルトお兄さまと同じ立ち位置なのですわ」
「なるほど。ということは、お前はオレも対象外だと言うのだな。悲しいことだ」
「心にもないことを仰らないでくださいな。当然でしょう。ベルフェルトお兄さまの目には、色がありませんもの」
「色?」
「ええ。わたくしを見る目に、何の色も含んでおりません。そして、それはライナスさまも同じ。色も欲もありません。そんなお二人を候補に入れるだけ無駄でしょう?」
にっこりと微笑みながら説明され、一瞬、ぽかんとした表情を浮かべたものの、すぐにぷっと吹き出した。
「そうか。分かっていたか」
「勿論ですわ。相手の気持ちも考えずにひとりで突っ走って、周りに迷惑をかけるのはもう御免です」
「はは、成程。立派な淑女に成長したものだ」
「お褒めいただき恐縮ですわ」
あくまでも、つんと澄ました表情を崩さないシュリエラに、笑いをこらえるのも必至なようで。
くすくすと笑いながらも、ステップを踏み間違えることもなく華麗に踊り続ける二人に、自然と周りからの視線も集まっていく。
その時ベルフェルトは、ふと、自分たちに注がれる視線の中で、他とは異なるひとつの視線に気が付いた。
「シュリエラ」
「なんでしょう?」
「見つけたぞ」
ふ、と微笑みながらそう囁くが、まったく意味の分からないシュリエラはただ黙って眉を寄せた。
「お前のいうところの、色のある目だ」
「はい?」
「お前をじっと見つめている男がいるぞ」
「ご冗談を」
「冗談ではない。ほら」
そう言って、ベルフェルトは、くるりと大きくターンをした。
ベルフェルトとシュリエラの位置が入れ替わり、ベルフェルトの肩越しに一人の男の姿が目に入る。
「・・・」
「見えたか」
「・・・ええ」
「知り合いか?」
「会った事はあるにはありますが、知り合いと言えるかどうか・・・」
「あの男に自覚があるかどうかは知らんが、あの視線、お前に興味があることだけは確かだな」
「そうでしょうか」
「そうだとも」
今ひとつ信じきれないという返答に、ベルフェルトの口角が意地悪く上がる。
「なんだ、自信がないのか、シュリエラ? 賭けてもいいぞ。オレと踊り終わった後、あの男は必ずお前のところにダンスを申し込みにやって来るとな」
「ベルフェルトお兄さま」
「おっと、お兄さまと呼ぶのは、ここでは最後にしてくれ。あらぬ誤解を招きたくはないからな」
「ついうっかり。申し訳ありません」
「よし、いい子だ。そら、もうじきダンスが終わるぞ。お前は美しい。そんな不安そうな顔をするんじゃない」
ベルフェルトの安定したリードでシュリエラは最後まで美しく踊りきり、周囲からは自然と拍手が湧き起こった。
ベルフェルトに手を引かれ、ホールの端に移動して、飲み物で軽く喉を潤していると。
果たして、ベルフェルトの予告通り、目の前に先程の男性が進み出た。
ベルフェルトは傍で笑みを深くした。
その人の背の高さに、シャンデリアの光が僅かに遮られ、シュリエラの顔には薄く影がさして。
本当に偶然、二回ほど出くわしただけ。
それを、知っている人だと言っていいものかどうか。
出会いとも呼んでいいものなのか。
その答えは分からないけれど。
「こんばんは、美しい方。アッテンボロー・ガルマルクと申します。次に貴女とダンスを踊る栄誉を、どうか私に与えてはくれないでしょうか」
深い深い海のような美しい濃紺の髪をした男は、そう言って恭しく手を差し出した。
22
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる