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リュークザインの見合いについて その8
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広間に戻ってきたラエラとベルフェルトの姿に気づき、リュークザインが安堵の表情を浮かべる。
そのあからさまな態度に、ベルフェルトは思わずといった風に苦笑した。
・・・この様子では、もう既に心を掴まれているようだな。
まぁ、この令嬢に関しては気持ちが分からないでもないが。
そんな事を考えながら、意地の悪い笑みを浮かべて軽口を叩く。
「なんだ、リューク? なんとも情けない顔をしているな。そんなにラエラ嬢の帰りを待ちわびていたのか?」
「揶揄うな。婚約者となる女性を心配するのは当然の事だろう」
「成程、成程。まぁ、そういう事にしておいてやろう」
はは、と笑い声をあげる姿にリュークが思わず眉を寄せると、ベルフェルトは宥めるように言葉を続けた。
「そう怒るな。お前の言い分も尤もだ。こうも素晴らしい女性が側から消えてしまっては、確かに気が気ではないな」
そう言いながら、リュークの隣に並ぶラエラに、賞賛を込めた眼差しを送る。
「お褒めにあずかり恐縮ですわ」
それにラエラは軽い会釈と笑みで答えて。
つい先ほど会ったばかりの二人からなんとも気安い空気が流れているのを感じて、リュークは理由も分からず自分の感情が波立つのを感じた。
いち早くその感情の揺れを察したベルフェルトは、リュークの肩を軽く叩いた。
「そろそろ邪魔者は消えるとしよう。リューク、君はどうやら得難い女性を手に入れたようだな。おめでとう。全身全霊で大切にしてやりたまえよ」
「・・・? ああ、勿論そのつもりだが」
「それならいい。ではな」
会場の人混みへと紛れていくベルフェルトの後ろ姿を目で追っていると、隣から感心したような声が聞こえてきた。
「お噂通りの方ですのね、ベルフェルトさまは。切れ者でいらっしゃる」
まただ。
感情が揺れる。
「・・・そうだな。大事な親友だ」
自分はどうしてしまったんだろう。
この気持ちの正体は、一体なんだというのだ。
「・・・魅力的な男だろう? ベルは令嬢方からも大層、人気があるからな」
「そのようですわね。ほら、ご覧になって。もうあんなに沢山のご令嬢方に囲まれてますわ」
くすくすと笑うその姿に、どうしてかラエラをこの場からすぐに連れ去りたい気分になって。
「ラエラ嬢。すまないが、もう帰ってもいいだろうか」
そう口にして、挨拶もそこそこに会場を後にした。
帰りの馬車の中、ラエラが気遣わしげに様子を伺っている事に気付きつつも、リュークは夜会を抜け出した事の上手い言い訳を見つけられずにいて。
「お加減でも悪いのですか?」
長い沈黙を破って、ラエラが声をかける。
「いや、どこも悪くない・・・が」
「・・・が? どうされたのです?」
「・・・よく分からない。貴女をあの場からすぐにでも連れ出したかった。それだけだ」
ラエラが首を傾げる。
不安になったのか、眉を挟めて。
「・・・わたくし、なにか粗相をしましたでしょうか?」
「そうではない。ただ、嫌だったのだ。貴女が・・・ベルフェルトを見ているのが、どうにも・・・気に入らなくて」
馬鹿な事を口走っている。
そんな事は十分わかっていた。
これは条件が合った者同士の政略結婚だ。
なのに、こんな。
こんな感情をぶつけられても、ラエラ嬢が困るだけなのに。
固く握りしめたリュークの手に、何かが触れる。
ラエラの手。
ラエラの手が、リュークのそれに重ねられて。
「ラエラ嬢・・・?」
「わたくしのせいでご不快な思いをされたのですね。申し訳ありません」
「いや、違う。そうではない。・・・ただ・・・」
一瞬、躊躇する。
「・・・私も、あれくらい魅力的な男だったら良かったのだが・・・」
「リュークザインさま?」
「・・・」
ラエラはリュークザインを見つめているが、リュークはどうしても目を合わせることが出来ず、視線を彷徨わせる。
「・・・聞かなかった事にしてくれ」
「それは出来ません」
きっぱりと断られた事に驚いて、思わずラエラに目を向ける。
「今のお言葉は、きちんと訂正させていただかねばなりませんもの」
「訂・・・正?」
呆気に取られ、言葉をただ鸚鵡返しする。
「リュークザインさまは、とても魅力的な方でいらっしゃいます。ベルフェルトさまとも、王太子殿下とも、他のどの殿方とも比べようがありませんわ。わたくしが心から尊敬する素晴らしいお方でございます」
「・・・は?」
予想外の言葉に、リュークは大きく目を見開く。
「何を言って・・・。いや、ありがとう。慰めてくれているのだな」
「慰めなどでは決して・・・」
「いや、嬉しいよ。他でもない貴女にそう言ってもらえるのは」
リュークの顔に、ぎこちない笑みが浮かぶ。
「リュークザインさま。わたくしは・・・」
「見合いで出会った者同士だというのに、馬鹿なことを言いだしてすまなかった。どうか呆れないでほしい。たとえ政略結婚でも、君のような女性に出逢えたことは幸運だと思っているのだ。ベルの言う通り、君は本当に・・・得難い女性だから」
「リュークザインさま・・・」
「・・・ラエラ嬢。触れてもいいか?」
躊躇いがちに伺いを立てられ、言葉を継ごうとしていたラエラの動きが止まり、頬が上気する。
「・・・勿論ですわ」
その言葉に安堵の息を漏らし、リュークはそっと手を伸ばして掌で頬を包んだ。
そして柔らかく目を細める。
「君の肌は、柔らかいな」
「・・・そうでしょうか」
「ああ。そしてとても滑らかだ」
愛おしむように、優しく指の腹で目尻を撫でる。
「・・・まだ婚約の正式な発表も済ませていないというのに、こんなことを言うのは性急すぎるという事は分かっているのだが」
「はい?」
「式を早めたい」
「式、ですか?」
「ああ、私たちの結婚式だ」
結婚式、という言葉に、ラエラが驚いて息を呑む。
その眼は微かに揺れていて。
「・・・それは、どういう・・・」
「貴女がいい。私の妻となる女性は貴女がいいんだ」
リュークザインは、ラエラの眼を真っ直ぐに見て、そう告げた。
そのあからさまな態度に、ベルフェルトは思わずといった風に苦笑した。
・・・この様子では、もう既に心を掴まれているようだな。
まぁ、この令嬢に関しては気持ちが分からないでもないが。
そんな事を考えながら、意地の悪い笑みを浮かべて軽口を叩く。
「なんだ、リューク? なんとも情けない顔をしているな。そんなにラエラ嬢の帰りを待ちわびていたのか?」
「揶揄うな。婚約者となる女性を心配するのは当然の事だろう」
「成程、成程。まぁ、そういう事にしておいてやろう」
はは、と笑い声をあげる姿にリュークが思わず眉を寄せると、ベルフェルトは宥めるように言葉を続けた。
「そう怒るな。お前の言い分も尤もだ。こうも素晴らしい女性が側から消えてしまっては、確かに気が気ではないな」
そう言いながら、リュークの隣に並ぶラエラに、賞賛を込めた眼差しを送る。
「お褒めにあずかり恐縮ですわ」
それにラエラは軽い会釈と笑みで答えて。
つい先ほど会ったばかりの二人からなんとも気安い空気が流れているのを感じて、リュークは理由も分からず自分の感情が波立つのを感じた。
いち早くその感情の揺れを察したベルフェルトは、リュークの肩を軽く叩いた。
「そろそろ邪魔者は消えるとしよう。リューク、君はどうやら得難い女性を手に入れたようだな。おめでとう。全身全霊で大切にしてやりたまえよ」
「・・・? ああ、勿論そのつもりだが」
「それならいい。ではな」
会場の人混みへと紛れていくベルフェルトの後ろ姿を目で追っていると、隣から感心したような声が聞こえてきた。
「お噂通りの方ですのね、ベルフェルトさまは。切れ者でいらっしゃる」
まただ。
感情が揺れる。
「・・・そうだな。大事な親友だ」
自分はどうしてしまったんだろう。
この気持ちの正体は、一体なんだというのだ。
「・・・魅力的な男だろう? ベルは令嬢方からも大層、人気があるからな」
「そのようですわね。ほら、ご覧になって。もうあんなに沢山のご令嬢方に囲まれてますわ」
くすくすと笑うその姿に、どうしてかラエラをこの場からすぐに連れ去りたい気分になって。
「ラエラ嬢。すまないが、もう帰ってもいいだろうか」
そう口にして、挨拶もそこそこに会場を後にした。
帰りの馬車の中、ラエラが気遣わしげに様子を伺っている事に気付きつつも、リュークは夜会を抜け出した事の上手い言い訳を見つけられずにいて。
「お加減でも悪いのですか?」
長い沈黙を破って、ラエラが声をかける。
「いや、どこも悪くない・・・が」
「・・・が? どうされたのです?」
「・・・よく分からない。貴女をあの場からすぐにでも連れ出したかった。それだけだ」
ラエラが首を傾げる。
不安になったのか、眉を挟めて。
「・・・わたくし、なにか粗相をしましたでしょうか?」
「そうではない。ただ、嫌だったのだ。貴女が・・・ベルフェルトを見ているのが、どうにも・・・気に入らなくて」
馬鹿な事を口走っている。
そんな事は十分わかっていた。
これは条件が合った者同士の政略結婚だ。
なのに、こんな。
こんな感情をぶつけられても、ラエラ嬢が困るだけなのに。
固く握りしめたリュークの手に、何かが触れる。
ラエラの手。
ラエラの手が、リュークのそれに重ねられて。
「ラエラ嬢・・・?」
「わたくしのせいでご不快な思いをされたのですね。申し訳ありません」
「いや、違う。そうではない。・・・ただ・・・」
一瞬、躊躇する。
「・・・私も、あれくらい魅力的な男だったら良かったのだが・・・」
「リュークザインさま?」
「・・・」
ラエラはリュークザインを見つめているが、リュークはどうしても目を合わせることが出来ず、視線を彷徨わせる。
「・・・聞かなかった事にしてくれ」
「それは出来ません」
きっぱりと断られた事に驚いて、思わずラエラに目を向ける。
「今のお言葉は、きちんと訂正させていただかねばなりませんもの」
「訂・・・正?」
呆気に取られ、言葉をただ鸚鵡返しする。
「リュークザインさまは、とても魅力的な方でいらっしゃいます。ベルフェルトさまとも、王太子殿下とも、他のどの殿方とも比べようがありませんわ。わたくしが心から尊敬する素晴らしいお方でございます」
「・・・は?」
予想外の言葉に、リュークは大きく目を見開く。
「何を言って・・・。いや、ありがとう。慰めてくれているのだな」
「慰めなどでは決して・・・」
「いや、嬉しいよ。他でもない貴女にそう言ってもらえるのは」
リュークの顔に、ぎこちない笑みが浮かぶ。
「リュークザインさま。わたくしは・・・」
「見合いで出会った者同士だというのに、馬鹿なことを言いだしてすまなかった。どうか呆れないでほしい。たとえ政略結婚でも、君のような女性に出逢えたことは幸運だと思っているのだ。ベルの言う通り、君は本当に・・・得難い女性だから」
「リュークザインさま・・・」
「・・・ラエラ嬢。触れてもいいか?」
躊躇いがちに伺いを立てられ、言葉を継ごうとしていたラエラの動きが止まり、頬が上気する。
「・・・勿論ですわ」
その言葉に安堵の息を漏らし、リュークはそっと手を伸ばして掌で頬を包んだ。
そして柔らかく目を細める。
「君の肌は、柔らかいな」
「・・・そうでしょうか」
「ああ。そしてとても滑らかだ」
愛おしむように、優しく指の腹で目尻を撫でる。
「・・・まだ婚約の正式な発表も済ませていないというのに、こんなことを言うのは性急すぎるという事は分かっているのだが」
「はい?」
「式を早めたい」
「式、ですか?」
「ああ、私たちの結婚式だ」
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その眼は微かに揺れていて。
「・・・それは、どういう・・・」
「貴女がいい。私の妻となる女性は貴女がいいんだ」
リュークザインは、ラエラの眼を真っ直ぐに見て、そう告げた。
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