178 / 256
お似合い同士
しおりを挟む
「相変わらず仲の良ろしいことね」
サロンからレオンハルトが去った後、お茶会の場は一時騒然としていた。
目の前で王太子と婚約者の熱愛ぶりを見せつけられ、様々な反応を見せた令嬢たちだったが、それぞれが落ちつくまでにはそれなりの時間が必要だった訳で。
それでも、リュークザインから受けていた噂話の収集は無事に完遂した。
招待客が帰った後、最後まで残っていたのがホストであったカトリアナ、そしてその友エレアーナとシュリエラだった。
そしてシュリエラが冒頭の言葉を発したのだった。
「お恥ずかしいところをお見せしまして・・・」
揶揄うような口調に、カトリアナも赤くなって恥じ入っている。
「いいえ、寧ろちょうどよかったのではありませんか? 先ほどの様子ですと、まだ王太子殿下を狙っているご令嬢もいらっしゃったようですし」
ぴしゃりと断言したシュリエラにカトリアナが「え?」と目を丸くする。
「それが心配で殿下もわざわざいらしたのでしょう?」
「・・・そうなんでしょうか」
「そうに決まってるじゃありませんか。ねえ、エレアーナさま?」
今いちピンと来ない様子のカトリアナに、シュリエラが横のエレアーナに同意を求める。
それにエレアーナはふふ、と笑んで同意を示す。
「まあ、とにかく良かったですわ。これでくだらない嫉妬も止むといいですけど」
「お気遣いありがとうございます。シュリエラさまはお優しいのね」
にこにことお礼を告げられ、シュリエラが思わず眉根を寄せる。
「・・・別に、わたくしは貴女を気遣ってこんなことを言ってるわけではありません。いまだ未練がましい令嬢方がみっともなくて見るに堪えないだけですわ」
「ふふ、それでもですわ。わたくしが勝手に嬉しくなっているだけですのよ」
「・・・そう。それなら別に構いませんけれど」
強気で意地っ張りなシュリエラの言動も、カトリアナにとっては可愛くて仕方ないらしい。
そんな様子をエレアーナは微笑ましく見守っていたが、ふと目をやれば、扉の向こうから夫が顔を覗かせていることに気づいた。
「ケインさま。どうかなされたのですか」
「ああ、レアナ」
薄い笑みを浮かべて、ケインは妻の元へと歩み寄る。
「仕事が早く終わったから、一緒に帰れるかと思って来てみたんだ」
「嬉しいですわ」
「お茶会は無事に終わったのか?」
「ええ。とても楽しかったです」
嬉しそうに微笑むエレアーナを見て、ケインバッハも「それは良かった」と笑みを零す。
と、そこへもう一人、マスカルバーノ家の従者が扉向こうから現れた。
それに気づいたカトリアナが皆に辞去の挨拶をして去っていった。
「シュリエラさまは、まだご用事がありますの?」
「いいえ、別に・・・」
「ああ、彼女は俺が送ることになってます」
エレアーナの問いにシュリエラが答えようとしたとほぼ同時に、それまで壁と化していたアッテンボローが返答した。
「・・・そういえば貴方はずっとそこにいらしたのよね。静かすぎて存在を忘れてましたわ」
「護衛なんでね、今のは誉め言葉として受け取っておこう。そしてここからは君の婚約者として責任もって君を家まで送らせてもらうよ」
食い気味の返答に冷ややかに答えるシュリエラをものともせず、アッテンはにこにこと言葉を継いだ。
「さあ、姫君。お手をどうぞ」
「・・・」
しばしの間、差しだされた手をじーっと見つめていたシュリエラだったが、いつまで経っても手を引っ込める気配がないのを見て、諦めたようにはあ、と溜息を吐くと、のろのろと手を重ねた。
気恥ずかしさを隠すように仏頂面をするシュリエラと、それが楽しみで余計にちょっかいをかけるアッテンボローと。
ちぐはぐなのに、妙にぴったりにも思える二人が去っていく後ろ姿を眺めつつ、エレアーナはぽつりと溢した。
「何を思い悩んでいたのかは存じませんが、踏ん切りがついたようで良かったですわね」
「アッテンボローのことか?」
「ええ。お辛そうでしたもの」
その言葉に、ケインバッハも深く頷く。
「そうだな。想いを堪えるのは辛いからな」
何かを思い出すように呟いた夫の顔を、エレアーナは静かに見上げた。
「・・・だが、どうやらあいつは一度吹っ切ったら押しが強いタイプだな」
「ふふ、そのようですね」
「本当に、お似合いの二人ですわ。あ、お似合いと言えば、カトリアナさまたちもですね」
思い出しただけで、くすりと笑みが溢れてしまう。
不思議そうな表情のケインに、エレアーナは先程のお茶会での出来事について話した。
「そんなことが・・・」
「とても素敵でしたのよ。カトリアナさまが頬を染めて殿下の良いところをそれはもうたくさん仰りはじめて、それを後から現れた殿下が後ろから抱きしめられましたの。まるで物語のような光景でしたわ」
「そうか」
ケインバッハは顎に手を当てて、エレアーナの言葉にじっと耳を傾けている。
「周りのご令嬢方もそう思ったようですわ。皆さん歓声を上げておられましたから」
「成程、分かった」
神妙に頷くケインに、エレアーナがきょとんとした顔で聞き返す。
「ケインさま? あの、分かったとは何を?」
「君が喜ぶのはどんな事かが分かった。参考にする」
「えと、あの、ケインさま?」
時々もの凄い天然ぶりを発揮する夫が、一人頷き、納得する様子を見て、もしかして、とエレアーナは思ったのだが。
「よし、レアナ。次のお茶会はいつ開く予定だ?」
果たして、ケインの問いは予想通りのもので。
思わずくすりと笑ってしまったエレアーナだった。
サロンからレオンハルトが去った後、お茶会の場は一時騒然としていた。
目の前で王太子と婚約者の熱愛ぶりを見せつけられ、様々な反応を見せた令嬢たちだったが、それぞれが落ちつくまでにはそれなりの時間が必要だった訳で。
それでも、リュークザインから受けていた噂話の収集は無事に完遂した。
招待客が帰った後、最後まで残っていたのがホストであったカトリアナ、そしてその友エレアーナとシュリエラだった。
そしてシュリエラが冒頭の言葉を発したのだった。
「お恥ずかしいところをお見せしまして・・・」
揶揄うような口調に、カトリアナも赤くなって恥じ入っている。
「いいえ、寧ろちょうどよかったのではありませんか? 先ほどの様子ですと、まだ王太子殿下を狙っているご令嬢もいらっしゃったようですし」
ぴしゃりと断言したシュリエラにカトリアナが「え?」と目を丸くする。
「それが心配で殿下もわざわざいらしたのでしょう?」
「・・・そうなんでしょうか」
「そうに決まってるじゃありませんか。ねえ、エレアーナさま?」
今いちピンと来ない様子のカトリアナに、シュリエラが横のエレアーナに同意を求める。
それにエレアーナはふふ、と笑んで同意を示す。
「まあ、とにかく良かったですわ。これでくだらない嫉妬も止むといいですけど」
「お気遣いありがとうございます。シュリエラさまはお優しいのね」
にこにことお礼を告げられ、シュリエラが思わず眉根を寄せる。
「・・・別に、わたくしは貴女を気遣ってこんなことを言ってるわけではありません。いまだ未練がましい令嬢方がみっともなくて見るに堪えないだけですわ」
「ふふ、それでもですわ。わたくしが勝手に嬉しくなっているだけですのよ」
「・・・そう。それなら別に構いませんけれど」
強気で意地っ張りなシュリエラの言動も、カトリアナにとっては可愛くて仕方ないらしい。
そんな様子をエレアーナは微笑ましく見守っていたが、ふと目をやれば、扉の向こうから夫が顔を覗かせていることに気づいた。
「ケインさま。どうかなされたのですか」
「ああ、レアナ」
薄い笑みを浮かべて、ケインは妻の元へと歩み寄る。
「仕事が早く終わったから、一緒に帰れるかと思って来てみたんだ」
「嬉しいですわ」
「お茶会は無事に終わったのか?」
「ええ。とても楽しかったです」
嬉しそうに微笑むエレアーナを見て、ケインバッハも「それは良かった」と笑みを零す。
と、そこへもう一人、マスカルバーノ家の従者が扉向こうから現れた。
それに気づいたカトリアナが皆に辞去の挨拶をして去っていった。
「シュリエラさまは、まだご用事がありますの?」
「いいえ、別に・・・」
「ああ、彼女は俺が送ることになってます」
エレアーナの問いにシュリエラが答えようとしたとほぼ同時に、それまで壁と化していたアッテンボローが返答した。
「・・・そういえば貴方はずっとそこにいらしたのよね。静かすぎて存在を忘れてましたわ」
「護衛なんでね、今のは誉め言葉として受け取っておこう。そしてここからは君の婚約者として責任もって君を家まで送らせてもらうよ」
食い気味の返答に冷ややかに答えるシュリエラをものともせず、アッテンはにこにこと言葉を継いだ。
「さあ、姫君。お手をどうぞ」
「・・・」
しばしの間、差しだされた手をじーっと見つめていたシュリエラだったが、いつまで経っても手を引っ込める気配がないのを見て、諦めたようにはあ、と溜息を吐くと、のろのろと手を重ねた。
気恥ずかしさを隠すように仏頂面をするシュリエラと、それが楽しみで余計にちょっかいをかけるアッテンボローと。
ちぐはぐなのに、妙にぴったりにも思える二人が去っていく後ろ姿を眺めつつ、エレアーナはぽつりと溢した。
「何を思い悩んでいたのかは存じませんが、踏ん切りがついたようで良かったですわね」
「アッテンボローのことか?」
「ええ。お辛そうでしたもの」
その言葉に、ケインバッハも深く頷く。
「そうだな。想いを堪えるのは辛いからな」
何かを思い出すように呟いた夫の顔を、エレアーナは静かに見上げた。
「・・・だが、どうやらあいつは一度吹っ切ったら押しが強いタイプだな」
「ふふ、そのようですね」
「本当に、お似合いの二人ですわ。あ、お似合いと言えば、カトリアナさまたちもですね」
思い出しただけで、くすりと笑みが溢れてしまう。
不思議そうな表情のケインに、エレアーナは先程のお茶会での出来事について話した。
「そんなことが・・・」
「とても素敵でしたのよ。カトリアナさまが頬を染めて殿下の良いところをそれはもうたくさん仰りはじめて、それを後から現れた殿下が後ろから抱きしめられましたの。まるで物語のような光景でしたわ」
「そうか」
ケインバッハは顎に手を当てて、エレアーナの言葉にじっと耳を傾けている。
「周りのご令嬢方もそう思ったようですわ。皆さん歓声を上げておられましたから」
「成程、分かった」
神妙に頷くケインに、エレアーナがきょとんとした顔で聞き返す。
「ケインさま? あの、分かったとは何を?」
「君が喜ぶのはどんな事かが分かった。参考にする」
「えと、あの、ケインさま?」
時々もの凄い天然ぶりを発揮する夫が、一人頷き、納得する様子を見て、もしかして、とエレアーナは思ったのだが。
「よし、レアナ。次のお茶会はいつ開く予定だ?」
果たして、ケインの問いは予想通りのもので。
思わずくすりと笑ってしまったエレアーナだった。
24
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる