【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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「おはよう、カトリアナ」

ルナフレイアの護衛のもと、マスカルバーノ家の馬車から降りてきた愛しい婚約者に、レオンハルトが声をかけた。

王城の入り口で自邸の護衛とアッテンボローとが交代するのはいつもの事だが、レオンハルトにこうして出迎えられるのは初めてだ。

カトリアナも驚きを隠せないまま口を開く。

「おはようございます、レオンさま。あの、どうかなさいましたか?」

心配そうに見上げるカトリアナに、レオンハルトは柔らかい微笑みを返す。

「ちょっとカトリアナと話がしたくて。勉強が始まる前に少しだけいいかな?」
「ええ、勿論ですわ」

そうして、登城の時にいつもカトリアナが使用する部屋に揃って入る。
だが、レオンハルトは話よりも先に、まずカトリアナをぎゅっと抱きしめた。

「え? あ、あの? レオンさま? み、皆さまがいらっしゃいますよ?」
「・・・護身用具は身につけてるよね?」

耳元で囁かれた言葉の意味を理解して、赤く染まっていた頬に陰りが出る。

「・・・はい。肌身離さず、常に身につけております」
「そうか」

更に少しだけ、カトリアナを抱きしめる手に力が籠る。

「カトリアナ」
「はい」

レオンハルトは、小さく息を吐いた。

「君の警護のことで、相談したい事があるんだ。少し変更を加えたくてさ」





カトリアナへの話が終わると、レオンはその額に軽く口づけを落とし、部屋を出た。
そして自分の執務室へと足を向ける。

今日は、朝までライナスが寝室前の警護に当たっていたため、個人警護に復帰するのが午後からとなっている。
それで、普段とは違う護衛が就いていた。

時々あることなので、全く知らない顔でもない。
何かあった時の対応も、ライナス同様心得ている。

だから今朝も。
普段とは違うことが起きても、ライナスがいる時と同じ対応が出来る訳だ。

執務棟に足を踏み入れる。
午前中、まだここには、仕事がある者たちしかいないのが普通で。

侍女や下女ならともかく、令嬢がここに用がある筈もない。

なのに何故か、前方の廊下から一人の令嬢が歩いて来て。
レオンハルトとすれ違おうか、という瞬間に「あ・・・」と倒れ込む。

まったく。
こんな手が今更通用してたら、ここの廊下は令嬢たちで溢れ返ってるよね。

そう思いながら、レオンハルトはすっと身を引いた。

レオンハルトの胸元目がけて倒れ込んだ令嬢は、目標が後ろに下がったためにそのまま床へと倒れ込む・・・ところを、飛び出した護衛騎士がさっと支える。

「大丈夫ですか、ご令嬢」

一応の礼儀として、騎士は気遣いの言葉を述べた。
どんな魂胆だったのかなど、百も承知の上で。

「あ、あの、申し訳ありません・・・わたくしったら」

当てにしていた場所に飛び込めなかった失望を綺麗に押し隠し、その令嬢は微笑んだ。
騎士もその辺はよく心得たもので、最低限の手を貸すのみで、すぐに距離を取る。

「こんな朝から執務棟に何の用事かな? もしかして、優秀さを買われて、ここで仕事を任されているのかい?」

言葉に刺は含ませるも、声音は柔らかいままだ。
物事を深く考えないタイプであれば、それに気付かないまま心配してもらえたと勘違いする者もいるかもしれない。

「父に届け物がございまして・・・」
「具合の悪いご令嬢に使いをやらせるとは、随分と気の利かない家族だね。人の上に立つ仕事を任せるには不適格だな。どこの部署に務めている?」

自分の行動が裏目に出たことに漸く気づいたらしく、その令嬢の顔色がさっと変わる。

「あ、いえ、あの、わたくしが勝手にした事ですので・・・どうか父にはご内密に・・・」

そう言うと、足早に去って行った。

その後ろ姿を見ながら、レオンは溜息を吐く。

「あんな古典的な手法がまだ通じると思ってるとはね・・・」

婚約者が決まってからは大分落ち着いたものの、前はこんな事は日常茶飯事だった。

でも、もういい加減、やめてほしい。
僕の目には、カトリアナしか映っていないというのに。

ただでさえ、今日のレオンハルトは機嫌が悪い。
昨夜の物盗り騒ぎで、寝不足なのは勿論だが、それよりもカトリアナの身辺が心配だった。

それで朝から、警護体制の変更を相談に行っていたのに。

変更内容を告げた時の、カトリアナの驚いた顔。
頑張ります、と頷いて見せてくれた愛らしい笑顔。

デサイファミスの皆が、よくやってくれている事も知っている。
対応策だって、万全に万全を重ねている事も。

ああ、でも。
早く終わるといいな。

無事に、何の憂いもなく。
横槍も、邪魔者もない、穏やかな日々を過ごしたいな。

その時は、のんびりゆっくり、カトリアナの膝まくらを思い切り堪能するんだ。
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