【完結】私、実はサレ妻でした。

水沼早紀

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⑨突き付けた証拠

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「パパ~あそぼっ!」
 
「おう!じゃあキャッチボールでもするか」

「わぁーいっ!」

 その次の週末、夫に子供たちを預けて、私は宍倉円香の働くカフェに行くことにした。
 この目でしっかり、宍倉円香の顔を見てくるの。そして私は、あなたを更に追い詰めてあげるの。

「パパ、子供たちのことよろしくね」

「おう! 行ってらっしゃい、ママ!」

「ママ~。いってらっしゃい!」

 夫と子供たちには、ママ友とランチに行ってくると伝えていた。
 私は宍倉円香の働くカフェに向かった。

「いらっしゃいませ~」

 カフェ・ベリーズは、ランチ時を少し過ぎていたせいか、少しばかり空いていた。

「お一人様ですか?」

「はい」
 
 宍倉円香ではない店員さんが、私を席に案内してくれた。

「ご注文お決まりになりましたら、こちらのボタンで及お呼びください」

「はい」
 
 運ばれてきたお冷を飲みながら、私はメニューに目を通した。
 
「……いた」

 宍倉円香だ。……やはり写真で見た通りの女性だ。
 体はスレンダーで、胸も大きめ。ロングカールでピンクブラウンの髪。
 間違いなく、宍倉円香だ。 間違いなく、夫の浮気相手だ……。

「……あなたが、宍倉円香」

 夫と情事を交わした、宍倉円香。
 私は近くに宍倉円香がいることを確認し、宍倉円香をボタンで呼んだ。

「お待たせしました! ご注文お決まりですか?」

 何も知らない宍倉円香は、私の元に注文を取りにやってきた。

「すいません。カフェラテ一つと、ミックスサンドを一つお願いします」

 と注文すると、宍倉円香は「かしこまりました」と注文を繰り返した。
 ……と思ったのだけど。

「……えっ?」

 宍倉円香は私の顔を見るなり、表情を変えた。驚いているような、そんな表情だ。

「あの……。何か……?」

 ねぇ宍倉円香さん。どうして私の顔を見て、表情を変えたの?

「……あ、いえ! カフェラテ、アイスでいいですか?」

「はい。お願いします」

「かしこまりました。……少々、お待ちください」

 宍倉円香は少し眉間にシワを寄せていた。 そして私の顔を見て、宍倉円香は表情を変えていた。
 ……もしかして彼女は、私のことを知っている?
 
「だとしたら……」

 だとしたら、宍倉円香の表情が変わったのも頷ける。……あの人は多分、私が妻だということを知っている。
 だから私を見て、きっと驚いていたんだ。……それしか、考えられない。

「お待たせ致しました。カフェラテでございます」

 そう思っていた時、宍倉円香がカフェラテを持って私の元にやってきた。

「あ、ありがとうございます」

「ミックスサンド、少々お待ちください」

「はい」

 そしてお盆を持っているその手から見えたのは、夫からもらった思われる指輪であった。
 ……やっぱり、指輪している。 夫がプレゼントした、指輪を。
 
「あの、宍倉円香さん」

「え!?……な、なんで私の名前を?」

 宍倉円香は、不思議そうに私に問いかけてくる。

「だってそこに書いてあるじゃないですか?宍倉円香って」

 私がそう言うと、宍倉円香は「あっ……」と驚いたような表情を見せた。

「宍倉円香さん。ここはいいお店、ですね」

「あ、ありがとうございます。……では失礼します」

 宍倉円香は、慌てたように離れていった。

「……あの態度、やっぱりおかしい」

 やっぱり宍倉円香は、私のことを知っているーーー。



◇ ◇ ◇



「すいません。お会計お願いします」

「お待たせしました。お会計ですね」 

 食事を終えた後、私は会計を済ませカフェを出た。
 
「……よし」

 私は帰りにスーパーに寄り、夕飯の食材を買って帰った。

「ただいま~」

「あ、ママだっ!」

「ママ~!おかえりっ!」

 帰ってきた私を出迎えたのは、元気な子供たちの笑顔だった。

「ただいま、みんな」

「おかえり、ママ。早かったね?」

「う、うん。 ママ友の子供が、急に具合悪くなっちゃって……。それで早めにね、切り上げることにしたの」

 私は宍倉円香に会いに行ったなんて疑われても困るから、そうウソをついた。

「そっか。 でもちょっとは、気晴らしになったんじゃないか?」

「ま、まあね。……楽しかったよ」

 楽しかった訳がない……。宍倉円香に直接会って、宍倉円香が魅力的な女性だということは、よく分かった。
 だからこそ、余計に腹が立った。 ものすごく、ムカついた。  

「そっか。良かったな」

「……うん。 あ、夕飯すぐに作るね」

「あ、ありがとうママ」

「うん」

 ねぇあなた、あなたはどうして宍倉円香と浮気なんてしたの……。
 どうして宍倉円香なんかと、浮気したの?……あなたには、私という妻がいるじゃない。
 ねぇ、どうして?私じゃ満足出来なかった? 私があなたに何かした?
 
「……っ」

 無性に腹が立って、私は俯いて唇を噛み締めた。

「ママ、子供たちがアイス食べたいって」

「え? あ、じゃあ一本だけにして」

「分かった。バニラ味でいい?」

「うん」 

 子供たちがアイスを食べたいと言っているらしいので、一本だけあげることにした。
 
「ほら、アイスだよ」 

「アイス~!」

 夕飯の肉じゃがを作りながら、私は考えた。 いつ離婚しようか、と。
 まだ離婚はしないと決めていたけど、それでも早く離婚したい気持ちがあるから。 
 私はもう負けない、私は強くなる。そう決めたんだからーーー。

「みんな、夕飯出来たよ~」

「わぁーい!」

「おなかすいたっ!」

「はい、食べる前には手を洗うよ~!」

 子供たちにそう言うと、子供たちは「はぁーい!」と返事をして、洗面台の方へと走って行った。

「では、いただきます」

「いただきまぁーす!」

「いただきまぁーす!」

 子供たちはよほどお腹が空いていたのか、勢い良く肉じゃがを食べ始めた。 

「うん、おいしいっ!」 

「ママ、おいしい~!」

「な、美味しいな?」

 子供たちも夫も、私の作る料理をいつも美味しいと食べてくれる。
 その光景だけを見たら、それは楽しい家族像に見えるのだ。 なんてことない、いつもの風景だけど。
 ーーーそれももうすぐ終わる。 私たちは、離婚するの。別々の道に進むんだ。

 ねぇあなた、私はあなたを絶対に許さない。 私たち家族を、私を深く傷つけたこと、絶対に許さないからね。
 あなたは私の心まで、ズタズタにしたんだから……。

「ママ、パパ。おやすみなさぁーい」

「おやすみなさーい」

「はーい。おやすみなさい」

 子供たちが寝室に行ったのを確認して、私もお風呂に入ることにした。

「実乃梨、何か手伝おうか?」

「……ううん、大丈夫」

 ねぇあなた、私はあなたと離婚するわ。 必ず離婚して、あなたと縁を切ってみせる。
 子供たちのことも、絶対に渡さないからーーー。

 そしてそれから数日後の夜、私はついに動き出したーーー。



「……ねぇ、あなた」
 
「ん?どうした?」

 私はついに、確信に迫るべく夫に浮気の証拠を見せ付けることにしたのだった。

「あなたにね、大事な話があるの」

「話?……うん、分かった」
 
 夫はそう返事をして、私の前に座った。

「実乃梨、話って?」

「……ねぇあなた。これが一体どういうことか、私にも分かるように説明してくれる?」

 そして私は、探偵事務所からもらった数々の浮気の証拠を、夫の前にばら撒いたーーー。

「……え」
 
 その証拠たちを見て、夫の表情は変わった。 そして驚いていた。

「これ、どう見てもあなたよね?惚けても無駄だから。……知ってるのよ私、あなたが宍倉円香と浮気していたこと。 それと宍倉円香と不倫旅行に行ってたこともね、全部知ってるのよ」

「な……なんで、これっ……!?」
 
 あなた、驚いたでしょう? まさか浮気がバレていたなんて、想像もしてなかったでしょう?
 ざまあみなさい、あはたはもう終わりよ。……あなたは私たちを裏切ったんだから。
 許されると、思わないでねーーー。

「ねぇあなた。私たちのこと裏切ったこと、私は絶対に許さないよ。 あなたが私という妻がいながら、他の女にうつつを抜かしてたなんて……。そんなのが許される訳、ないでしょう?」

 私は夫にそう突き詰めた。 言い訳なんてさせないし、させる訳がない。

「違うんだ!これは……っ!」

「言い訳なんて聞かないわよ?……こんなにも証拠があるのに、何を今更言い訳するって言うの?」

 夫は私の言葉に、慌てた様子でいた。 何も言えないのか、ただ私を見つめていた。
  
「ねぇあなた。宍倉円香とのセックスは、気持ち良かった?」

「え……」
 
「この写真見てよ。あなたと宍倉円香が、厭らしく抱き合ってる写真よ。……本当に気持ち悪いわね、この女と浮気しておいて、その身体で私を抱くなんて……。本当に腹立たしい、ムカつくのよ!」

 私はもう、正気ではいられなかった。 なんとしても離婚するためには、こうするしかないと思った。
 子供たちのためにも、私たちの幸せを守るためにも。
 こうするしか、なかったーーー。
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