【完結】私、実はサレ妻でした。

水沼早紀

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⑩浮気の真相、固まった決意

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「ねぇあなた? あなたいつからこの人と浮気してた?」

「………」
 
 私が浮気について問い詰めると、夫は突然何も言わなくなった。

「黙ってないで何か答えなさいよ! いつから浮気してたのよ?」

 テーブルを両手でバンッ!と叩いて、夫の顔をのぞき込んだ。

「……一年前、からだ」

「そう……。一年前からなのね」

 私のその言葉に夫は、再び口ごもってしまった。

「あなた4月10日、本当はこの女と浮気してたよね。私たちとバイキングに行こうって約束してたのに、急に取引先との接待が入ったからって言って、あなたそっちに行ったわよね? あの日あなた本当は、宍倉円香と浮気するためにウソを付いたのよね?私、知ってるのよ!」

 そんな夫に、私は再び問い詰めた。

「……っ! な、何言ってんだよ!?あれは本当に、接待だったんだ……!」

「はあ?今更言い訳なんてすんなって言ったでしょう!?……ねぇ知ってる?あなたの書斎からね、あの日のラブホテルのレシートが出てきたのよ。日付は4月10日、私たちとバイキングを食べに行くと約束していた日の、ラブホテルのレシートよ?」

 そんなにウソを付いてまで、あなたは宍倉円香と密会したかった訳? 私たち家族を裏切ってまで、宍倉円香とセックスがしたかった訳?
 そんなの許される訳がないでしょ? あなたはどこまでクズなの?どこまで最低なの?

「……すまない、実乃梨」

 だけど夫は、私に謝罪してきた。

「それは何の謝罪なの? 私を裏切ったことを認めるっていう謝罪?」

 そう問い詰めると、夫は「……ああ、そうだ。本当に済まなかった」と謝ってきた。

「あなたは謝って許されるとでも思ってるの?……あなたは私たち家族よりも、宍倉円香という女の方を優先したのよ。分かる?」

 子供たちはパパと行けなくて残念だったと言っていた。
あの子たちは優しいし賢いから、パパがお仕事で行けないのだと理解して、それでもわがままを言わなかった。
 一緒に行きたいと思っていたけど、それだって仕方のないことだと理解していた。
 そんな子供たちを裏切って、悲しませて……。とことん許せない。

「……本当に、本当に申し訳ないと思ってる」

 夫の表情からは、何にも見えなかった。

「申し訳ないと思ってるなら、何で浮気なんてしたの? しかもあなた、宍倉円香に指輪まであげてたんでしょ?私、知ってるのよ」

「……指輪のことも……知ってたのか」

「当たり前でしょ?それも全部、知ってるわよ!……もしかしてあなた、彼女に私と離婚するから一緒になろうとか言ったりしたの?」

 もしそうなら、本当にクズすぎる。クズすぎて、本当にムカつく。
 ……私があなたと結婚したのは、間違いだったかもしれないわね。

「それは……っ」

「……あらそう。やっぱり言ったんだ?」

「違う。そんなことは言ってない! 円香が、円香が俺に離婚してくれって、ずっと言ってたんだよ……。俺と結婚したいからって……」

 そう言われても、私は夫のことをもう信用出来ないから、それすらもウソに聞こえる。

「……そんなの信じられない」

「本当だ!俺はアイツに、何も言ってない……!」

「そんなこと信じろなんて……。無理言わないでよ」

 あなたは私を裏切った、それが事実なの。それ以上のものは何もない。
 あなたが浮気をした。あなたが私たち家族を裏切った。あなたが私を壊したことが事実なの。

「……本当に、本当に済まなかった……」

「何度謝られても、私は許すつもりはないから。あなたのしたことは、私たちへの裏切り行為だもの。……私たちの関係をこんな風に壊したのは、あなた自身よ」

「分かってる……。許してほしいとは思ってないよ……」

 夫のその表情からは反省の色が見えているのか、私には分からなかった。

「あなた……どうして浮気なんてしたの? どうして……?私あなたに何かした? 私は一生懸命あなたに尽してきたつもりだったのに……。私の何がイケなかったの?」

 と夫に問い詰めるが、夫は何も言ってくれそうになかった。

「……黙ってないで何か答えなさいよ!?」

 私は怒りからか、夫の胸ぐらを掴んで問い詰めていた。

「実乃梨……君は何も悪くない……。悪くないんだ……」

「はあ?悪くないなら、何でなのよ!」

 私が悪くないというのなら、何で……。

「……最初は円香の方から、俺に声をかけたきたんだ」

 夫はゆっくりと、口を開き始めた。

「円香があのカフェで働いてることは、俺も前から知ってたし、カフェで前から何回か話したこともあった。……円香は彼氏にフラレて落ち込んでると言っていた。 そしたら突然、円香が俺に慰めてほしいって言ってきて……。俺は最初断ったんだ。けど、円香が一晩だけでいいからそばにいてほしいって、俺に頼み込んできて……」

「……それで浮気したってこと」 

 私の勘ではまず、宍倉円香が彼氏にフラレたなんてウソ。 あれは多分、夫に近付くための口実だ。
 自分が弱っている所を見せれば、心の優しい夫は必ず慰めてくれる。……きっとそういう魂胆だったんだと思う。
 夫を手に入れたい円香が全部仕組んだ罠で、夫はすっかりそれに騙されてしまったってことなのかも。

「……そしたら円香、その時の俺たちの音声を録音してたんだ。 そのことで俺を脅してきて……」

「……脅す?」

 え、どういうこと……?

「実乃梨にこのことバラされたくなかったら、私の言うこと聞けって……。それが円香との関係を、続けることだったんだ……」

 ……何言ってるのか、全然分からない。宍倉円香が脅してたなんてそんなの、信じられない。
 話をでっち上げるのはやめて……。そんなことされても、私の心は変わらない。

「……そんなの信じられない。あなただってそれに同意してたんでしょ? 脅されてなんて、そんなの信じられないわ」

「本当なんだ……! 円香は俺を支配してたんだ。円香に関係を終わらせたいと言ったら、実乃梨に全部バラすと言ってきたんだ。……だからこの関係を続けることしか、俺にはなかった」

 そう言っていた夫だったけど、私にはイマイチ信用できなかった。
 そんな話を信用できるほど、私は騙されない。

「円香に指輪をプレゼントしたのも……円香にせがまれたからだ。……この前円香と旅行に行ったのも、円香に連れてってくれと言われたからなんだ……」

「……そんな話、信じられない。だって一泊25000円の部屋に泊まってたんでしょ? 私は家計のために生活を切り詰めてたのに、あなたはそんな高い部屋に浮気相手と泊まり込んだのよね?……しかもその部屋で、あんな風に円香のこと抱いてたじゃない。あんな写真見せられたら、誰だってムカつくに決まってる」

 夫にそう言うと、夫は「……だよな、信じられないよな」と言ってきた。

「開き直らないでよ!……私がこれまで、どれだけ辛かったか分かる?私がどれだけ傷付いたか分かってる? あなたのせいで、私は心も身体も全部ズタズタに傷付けられたのよ!?」

 でもやっぱり、浮気は浮気だ。いくら円香から脅されていたとはいえ、浮気は浮気。
 私の中にあるその答えは、一生変わらない。浮気したことは許すつもりはないし、これからだって夫のことは信じない。

「……ごめん。本当にごめん、実乃梨……。傷付けてごめんな」

 夫はグッと唇を噛み締めていた。今にも泣きそうな表情をしていた。

「……私たち家族は、幸せだったと思ってたよ。私の理想の家族が出来上がっていたと思えてきてたのに……。あなたが全部壊した。 あなたのせいで、私たち家族は……。もう終わりね」

 やっぱり私は、あなたを許せない……。私はあなたともうやっていけない。
 子供たちにはなんの罪もない。だけどあなたと家族としてもう一度やり直すことなんて、私には出来ない……。
 そんなに忍耐強くない。私は強くないから、そんなに割り切れないの。

「……実乃梨、頼む。もう一度だけ、俺にチャンスをくれないか」

「チャンス……? 無理よ、もう無理」

 あなたは、自分が何言ってるのか分かってるの……?
 もう一度やり直したいだなんて、おこがましいにも程がある。

「信じてもらえないかもしれないけど……俺は本当に、実乃梨のこと愛してるんだ。実乃梨とこれからも夫婦として、家族として、本気でやり直したいって思ってる」

「……やめて。もう何も聞きたくない」

 あなたの言葉は、ウソだらけ……。もう何も信じない。

「実乃梨……」

「あなた……。これにさ、サインしてくれる?」

 私は引き出しからサイン済みの離婚届を取り出して、夫の目の前に置いた。

「……え、これって……」

「見れば分かるでしょ?離婚届よ」

「そんな……っ」

 あなたとはもう離婚よ、もう家族でも夫婦でもない。

「私たちを裏切ったことの代償は大きいわよ。……私たち離婚、しましょう」

「実乃梨……」

 離婚届を目の前に突き付けた時の夫の表情は、すごく動揺していたーーー。

「あなた前に私を抱いた時……円香って言ったの覚えてないでしょ」

「え……?」

「あなた私の名前じゃなくて、私のこと一度だげ円香゙って呼んだのよ。……その時の私の気持ちが分かる?」

 あんなに苦しいと思ったことはなかった。
 私のことを別の女の名前で呼ぶなんて……。ものすごく辛かった。
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