【完結】私、実はサレ妻でした。

水沼早紀

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⑪私たち、離婚します。

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「……え?俺が……円香の名前を?」

「そうよ。あなたは一度だけ、私以外の名前を呼んだのよ。……その時私、どんな気持ちだったと思う?」

 私は夫に投げかけた。

「私は一体あなたにとって何だったのかって、そう思ったのよ。……こんなに惨めなことは今までなかった。あなたに浮気されていると知っても尚、離婚したくないって思った。……でもやっぱり、無理だった」

 私はソファにうなだれるように座った。

「浮気してるも知って、一度はあなたを許そうとも思った。……でもやっぱり、惨めになるだけだった。例えばあなたを許しても、あなたはまた同じことをするかもしれない。そう思ったら、やっぱり許せなかった……」
 
 私はあなただけに愛されていると思っていたのに、あなたに裏切られたことで私はさらに惨めになった。
 子供を二人抱えて、私は生きていかなければならない。
子供たちに楽しく生きていってほしいから、私はクヨクヨする訳にはいかないの。

「私は母親よ。でもそれ以前に、私は女なの。……心も精神的にもズタズタにされて、崩壊寸前なのよ?あなたにしてみたら、そんなのはほんの一握りでしかないかもしれない。 でもね私は、やっぱりあなたに愛されたかった……」

 その気持ちは本当に変わらない。 大好きな人を奪われて、精神的にもズタズタにされて。
 私にはもう、あなたと一緒に生きる意味なんてないの。

「……実乃梨、俺はお前をそこまで追い詰めていたなんて、思ってなかった。 本当に……本当に申し訳ない」

「やめて……! 謝られた数だけ、私は惨めになるのよ?あなたに裏切られたことで、私たち家族はいつもみたいに接することが出来なくなる。……子供たちの幸せを考えたら、この選択が一番いい選択だと思ってる」

 その方が、子供たちだって幸せになれると思ってる。

「……俺は実乃梨を……実乃梨のことを、本気で愛してる。それは今も変わらない」

 夫は私の前に座り、静かに話し始めた。

「……でも実乃梨がそれでものすごく傷付いたことで、俺への気持ちがなくなってしまったのなら……それは仕方のないことだと思う。 俺がしたことは、実乃梨の言う通り最低なことだと思ってる」

 今更なんなの……。なんで今そんなこと言うの……。

「実乃梨が俺を嫌うのも、仕方のないことだと思ってる。……俺は実乃梨にウソを付いて、円香と旅行に行ったりしたし。実乃梨を抱いた時も、俺は円香の名前を呼んでしまったみたいだし……。俺は実乃梨のことを愛してるけど、その気持ちにウソはないけど、でも俺の気持ちをぶつけてしまうことで実乃梨への負担になるなら……。離婚、するよ」

 そして夫は、そう言って悲しそうに笑ったーーー。

「……ごめんね、あなた。至らない妻で、本当にごめん」

 浮気されるということは、された私にも原因があったということ。……少なからず私にも反省するべき所が、あったということ。
 
「いや、悪いのは俺だ。……俺が全部悪いんだ。実乃梨は何も悪くない。 俺が……俺のせいで……」

 ーーー夫の悲しそうな表情が、頭に焼き付いてしまいそうだった。

「……そうね。全部あなたのせいだから……」
 
「実乃梨……離婚届、後で書いておくよ」

 夫は立ち上がると、そのまま寝室へと向かっていった。

「……何で、何で……」

 何で私たちはこんなことにならないといけないの?
 この前まで幸せな家族だったのに。なのに、突然こんなことになって……。



◇  ◇ ◇



「空斗、流斗、ちょっとここに座ってもらってもいい?」

 そして私たちは、ついに離婚することを決めた。

「ママ、どおしたのお?」

 空斗が不思議そうに、私に問いかけてくる。

「あのね、二人にちょっと話があるの」

「おはなし?」

「うん。聞いてくれる?」

「うん」

 私たちは子供たちに、離婚することを話した。

「あのね……実はパパとママね、お別れすることになったの」

「おわかれ?」

「そう。ママとパパは、これから別々に暮らすことになったんだ」

 子供たちにそう言うと、空斗は「なんでえ?」と不思議そうに聞いてくる。

「ママとパパ、もうあえないのお?」

 流斗も私にそう問いかけてくる。

「会えなくはないけど……。毎日は一緒にいられないの」

「えぇ……。パパともうあそべないの?」

 空斗と流斗のその悲しそうな表情が、私の胸を余計に辛くした。

「……ごめんな。空斗、流斗」

「そんなのやだっ! ぼく、パパともっとサッカーしたいっ!」

「ぼくもっ!はなれるのはやだっ!」

 こうなることは、私も夫も想定していた。……でもやっぱり、辛い。
 これが現実なんだと思い知らされる。

「ママ!パパとおわかれなんてやだっ!」

「やだっ! なんでおわかれしちゃうの?」

「……ママとパパは、もう一緒にいられないんだ。ごめんね」

 こんなことを子供たちに言うのは、残酷すぎる。……でもやっぱり、言うしかない。

「二人とも、これからはママと一緒に住もうね。じぃじとばぁばのお家で、みんなで一緒に暮らそうね」

「えぇ……」

「ママと、じぃじとばぁばと?」

「そうだよ」

 子供たちにはやっぱり……父親は必要だと思う。
 でもやっぱり、残酷すぎるかな……。子供には苦だよね、こんなの……。

「パパはどこにいくの?」

 と空斗が夫に問いかける。

「パパはここにいるよ。ここに住むから」

「ママ、パパとはまたあえるよね?」

「あえるよね?ママぁ」

 空斗と流斗はパパっ子だから、パパに会えないのがよほど寂しいのかもしれない。
 また一緒にサッカーしたり、おもちゃで遊んだりしたいに決まってるよね……。

「……そうね。また会えるよ」

「ほんとお?」

「本当だよ」

 子供には父親が必要なのは、私だって分かっている。
 そんなことは充分分かっているのよ、私だってーーー。

「パパはひとりでさみしくない?」

「そうだな……。そりゃあ寂しいよ」

 私だって、夫との日々を思い出すと泣きたくなる。楽しい思い出もたくさんあるから、忘れられる訳はない。
 夫との思い出も、子供たちとの思い出も、私にとっては全部宝物なの。……全部全部、宝物。
 大切な物しかないから、だからこそ辛いの……。

「ぼく、ママとパパとみんなでいるほうがたのしいよ」

「ぼくも! ママもパパも、だいすきだよ」

 子供たちからそんなことを言われた私は、堪えていた涙が抑えきれなくなった。

「ママぁ……?」

「ママ、だいじょーぶ?」

 子供たちからの愛の言葉は偉大で、気が付けばとめどなく涙が溢れてきた。
 
「ごめんね、二人とも……」

「ママ、なかないで」

「ママ、なかないで」

 子供たちが私のそばに来て、慰めてくれる。

「空斗、流斗。パパは離れてても、お前たちのことが大好きだぞ。お前たちはパパの大切な宝物なんだからな」

「パパ、ぼくもパパのことだーいすき!」

「ぼくも!パパもママもだいすき!」

 子供たちがこんなに私たちを愛してくれている。だからこそ私たちは、子供たちに寂しい思いをさせてはいけないんだ。
 子供たちには笑っていてほしい。 ずっと元気でいてほしい。

「二人とも……ママと一緒にいてくれる? 一緒にじぃじとばぁばとみんなで住んでくれるかな?」

「ぼく……パパがいないのは、さみしい」

「ぼくも……。ママとパパが一緒がいい」

 そっか、それが子供たちの望みなんだ……。やっぱりみんなで一緒じゃないと、二人は許してくれないんだ。
 子供たちにとって、別々になるのって相当辛いことなんだなって思った。 ママとパパと一緒じゃないと、ダメなんだ……。

「……二人とも」

「やだよ……。ぼく、はなれちゃうのはやだよ」

「ぼくもやだもん!……ママとパパと、いっしょにおでかけしたいもん」

「空斗……流斗……」

 やっぱり私たちは、家族なんだ……。子供のことを一番に考えるべきなんだ。
 私たちが離れちゃうことこそ、二人にとっては一番辛くて、一番悲しいことなんだ……。

「ごめんね、二人とも……。でもね、ママたちはもう決めたことなんだよ」

「どうして?ママはもう、パパのことすきじゃないの?」

 そう聞かれると、私はうまく答えにくい。

「……ううん、そんなことないよ」

「パパもママのこと、すきじゃないの?」

 流斗が夫にもそう問いかけている。

「パパもママのこと、好きだよ。 でも一緒にいれなくなってしまったんだ。分かってくれるか?」

 子供には、こんなの残酷すぎる気もした……。

「空斗、流斗。パパとはお別れしてもね、ちゃんと会えるよ? 毎週週末には会えるから」

「ほんとお?」
 
「うん、本当だよ。パパとたくさん遊べるよ」

「やったあ! サッカーできるね!」

 私は夫との離婚を成立させるために、一つ条件を付け加えた。
 【毎週必ず子供たちのために時間を作ること】

 それが離婚する条件にした。 夫婦としての関係が終わってしまっても、私たちがあの子たちの親であることに変わりはないから。
 だからせめてその贖罪として、これからは子供たちのために時間を使ってほしいとお願いした。
 私のことは愛さなくてもいいから、せめて子供たちのことは愛してほしい。 私は夫にそうお願いをした。

 それが私たちが、唯一家族としていられる理由だから。
 全ては子供たちのため、それだけのためにーーー。
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