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土曜朝の電車
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「あれっ松山さんじゃないですか!今ここにいるってことは徹夜明けですか、お疲れ様でーす!」
妙に明るい中村の声が、自分一人しかいないオフィスに響いた。
「中村こそ、土曜日なのに休日出勤か、お疲れ。」
「営業なんで、土日もオーナーさんとの打ち合わせっすよ。そんなことよりさっき、これから帰る金目チャンと下ですれ違いましたよ!ずっと二人でオフィスに残ってたんですか。怪しいなぁ」
「怪しいとはなんだよ」
「ムキになっちゃって!駄目じゃないっすか、女の子一人、松山さんと残っているなんて」
やたら絡んでくる中村が徹夜明けの身には少々うざったく、軽く拳で小突いた。
「あ~暴力反対~」とふざけ半分の口調をしながらも、中村は自分の仕事の準備を始めた。
まぁ、中村の言うことも一理ある。俺は帰りの電車の中で先ほどのやり取りを思い出していた。
アイツは少々おどけた節はあるが、うちの会社の中でもそこそこ優秀な若手の営業マンだ。中村の言う通り、世間一般から見れば、年若い女性と俺のようなオッサンが会社でずっと二人きりなのはやはり良くはないだろう。
俺は電車の席で足を組んで座り直した。
土曜日の朝早い電車は平日の喧騒とは打って変わり、乗客は俺のような徹夜明けのサラリーマンか一晩中飲み明かして居眠りをしている若者しかいない。静かに響く電車の音が心地よい。俺は年のせいで以前より無理のきかなくなった目を閉じて、ぼんやりと続きを考えていた。
金目は、よく喋りよく笑う快活な最近の若い女性たちとは少し違う(これでは女性に対して失礼な物言いになるが)。冷静で、少々寡黙だが、仕事に対してとても真摯だ。納得いくものを作るためならどんなに身を削ってでもやり遂げようとする。入社したての頃こそ少し危なっかしかったが、今や会社にとってなくてはならない戦力だ。
設計の仕事は過酷だ。何枚も何枚も図面を作っても、クライアントの気分によってすべてやり直し、なんてこともしょっちゅうある。新人が入っても耐えられずすぐに辞めてしまうことが多い中、金目は3年も文句ひとつ言わずに黙々とこなしている。
そんな金目を人として好ましくは思うが、断じて中村が言うような感情を抱いているわけではない。大体、今年42歳にもなる子持ちやもめが何か思うことがあるなんて、逆に金目に失礼じゃないか、、、
今更ながら、おちゃらけた中村の言い方に、少し腹が立ってきた。
こういうことを徹夜明けに考えるのは良くない。今から保育園へ預けている娘の凛香を連れ帰って、午後は二人で公園にでも遊びに行こう。凛香、きっと怒っているよなぁ、この一週間ほとんど相手にしてやれなかったから。母親がいない分、俺がもっと手をかけて育ててやらなきゃいけないのになぁ、、、
俺は腕を組んで座り直し、これから過ごす娘との休日を考えながら、下車するまでの間しばし眠ることにした。
妙に明るい中村の声が、自分一人しかいないオフィスに響いた。
「中村こそ、土曜日なのに休日出勤か、お疲れ。」
「営業なんで、土日もオーナーさんとの打ち合わせっすよ。そんなことよりさっき、これから帰る金目チャンと下ですれ違いましたよ!ずっと二人でオフィスに残ってたんですか。怪しいなぁ」
「怪しいとはなんだよ」
「ムキになっちゃって!駄目じゃないっすか、女の子一人、松山さんと残っているなんて」
やたら絡んでくる中村が徹夜明けの身には少々うざったく、軽く拳で小突いた。
「あ~暴力反対~」とふざけ半分の口調をしながらも、中村は自分の仕事の準備を始めた。
まぁ、中村の言うことも一理ある。俺は帰りの電車の中で先ほどのやり取りを思い出していた。
アイツは少々おどけた節はあるが、うちの会社の中でもそこそこ優秀な若手の営業マンだ。中村の言う通り、世間一般から見れば、年若い女性と俺のようなオッサンが会社でずっと二人きりなのはやはり良くはないだろう。
俺は電車の席で足を組んで座り直した。
土曜日の朝早い電車は平日の喧騒とは打って変わり、乗客は俺のような徹夜明けのサラリーマンか一晩中飲み明かして居眠りをしている若者しかいない。静かに響く電車の音が心地よい。俺は年のせいで以前より無理のきかなくなった目を閉じて、ぼんやりと続きを考えていた。
金目は、よく喋りよく笑う快活な最近の若い女性たちとは少し違う(これでは女性に対して失礼な物言いになるが)。冷静で、少々寡黙だが、仕事に対してとても真摯だ。納得いくものを作るためならどんなに身を削ってでもやり遂げようとする。入社したての頃こそ少し危なっかしかったが、今や会社にとってなくてはならない戦力だ。
設計の仕事は過酷だ。何枚も何枚も図面を作っても、クライアントの気分によってすべてやり直し、なんてこともしょっちゅうある。新人が入っても耐えられずすぐに辞めてしまうことが多い中、金目は3年も文句ひとつ言わずに黙々とこなしている。
そんな金目を人として好ましくは思うが、断じて中村が言うような感情を抱いているわけではない。大体、今年42歳にもなる子持ちやもめが何か思うことがあるなんて、逆に金目に失礼じゃないか、、、
今更ながら、おちゃらけた中村の言い方に、少し腹が立ってきた。
こういうことを徹夜明けに考えるのは良くない。今から保育園へ預けている娘の凛香を連れ帰って、午後は二人で公園にでも遊びに行こう。凛香、きっと怒っているよなぁ、この一週間ほとんど相手にしてやれなかったから。母親がいない分、俺がもっと手をかけて育ててやらなきゃいけないのになぁ、、、
俺は腕を組んで座り直し、これから過ごす娘との休日を考えながら、下車するまでの間しばし眠ることにした。
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