【完結】年下彼氏の結婚指導

藍生蕗

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09.

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 そして金曜日。翔悟の研修最終日。
 その日はあっさりと来てしまった。

(……気持ちを自覚したせいだわ)
 浮つき、気もそぞろとなっている自分に自己嫌悪が募りつつ、やはり気持ちには抗えない。

 翔悟はというと、華子の言いつけを守って大人しくしているから尚更だ。
 ──いや、そう見えるだけで彼にとってはもう終わった関係なのかもしれない。もしそうなら、たった一度の関係で恋情を覚えた華子をどう思うだろう。

(はあー、嫌な想像ばかりが頭を占める……)
 そして、もしかしたらという仄かな思いが華子を揺さぶるからタチが悪い。
 くるくると変わる翔悟の表情が、未だ鮮やかに華子の脳裏に浮かんでは彩かに咲いている。

 そうして一通り浮かれてから「でも」と頭を振る。

 高く聳え立つ「年齢差」。
 可愛げのない「性格」。
 これだけでもう、華子の思いは現実味がないのに。
 だからこそ、今日でもう会えなくなるこの関係は良い区切りなのだけれど。

 それでも華子は結芽と翔悟の事が気になって仕方がなかった。
 今まで視界の端にも入れて無かったのが嘘のように。もう既に、翔悟を見えなくても意識してしまっている。

 今も親しげに語らう結芽と翔悟の横顔が、自然と目に入る。
(……いいな、お似合いだ)
 羨ましくて切なくて仕方ない。勝手に期待して、失望する。
 こんな気持ちになるなら、もう誰にも心を許したくないと思うのに……

 泣いても笑っても今日が最後で、部内皆で彼を労って、お別れをする。

 流石に最後くらい部内の交流を深めなさいと、翔悟には一日自由にさせている。元より彼は真面目だし、今まで華子がみっちりとしごいてきたので、それで丁度いい塩梅だ。

 そしてお昼時間。
 華子は慌ただしく席を立った。
 結芽と翔悟が仲睦まじく昼食に行く姿なんて、とても見られない。

 このまま少し遠くに足を伸ばそうかと腕時計を眺めていると、急に視界が陰った。

「華子」
「……っ」

 そう自分を呼ぶのは元彼、新庄 堅太しんじょう けんただ。
 目を丸くすると同時に華子は慌てて周りを見回した。
「就業中ですよ、新庄君」
 咎めるように口にすれば堅太は相好を崩す。
「なんか相変わらずだな、華子のそれ」
「──っ、だから」

 じろっと睨みあげると、堅太は分かったよと首の後ろを掻き白い歯を見せる。
 反省してるのかしてないのか、こういうところは相変わらずだ。華子は顔を顰めて口を開いた。

「……あのね。私と一緒にいると、婚約者が嫌な思いするでしょう?」
「んー? あいつもい仕事辞めちゃったし。会社にいないよ?」
「だからって。誰がどう伝えるか分からないじゃない?」
 変な噂を立てられて迷惑被るのは振られた自分の方なのだから。
 そんな意味を込めて睨みつけるも堅太はどこ吹く風である。
(……全く、随分図太くなったわね)
 出会った頃は子犬のように可愛かったのにと、華子はふぅと息を吐いた。

「なぁ昼一緒に行こうよ、相談したい事があるんだ」
「相談? 嫌よ、他を当たって」
 どうして別れた男の相談になんて乗らなきゃならんのだ。
 くるりと踵を返す華子に堅太の声が追い縋る。
「そんな事言わないでよ。立川たちかわさんさ、華子の同期の。俺たちの事知ってるから俺に冷たいんだよ。それで仕事がやりにくくて困ってるんだ。ねえ、頼むよ」
 
 ピタリと華子の足が止まる。
 ──立川の事は勿論知っている。
 華子の同期の男性社員で、責任感の強い男だ。
(私のせい……?)
 ちらりとそんな考えが頭を過ぎる。

 二年前。華子が振られて堅太が歳下の新入社員と付き合い出した事に、確かに彼は怒っていた。彼自身結婚が早く、学生時代から付き合っていた奥さんをとても大事にしているから。
(でもそれは、当人たちの問題だし……)

 確かに同期に愚痴を零した覚えがある。それで仕事に支障が出るならば、自分の過失、という事になるのか……

「……分かった」
 仕方なしとは言え、華子にはそう答えるしか無かった。
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