231 / 236
第二十二章 前を向く為にも
私の葬式
しおりを挟む
真っ直ぐに下に下へと落ちていく。
勿論、私は気が気ではない。底が真っ暗で何も見えないし、穴に落ちた瞬間、死ぬって思った。
というか、今も思ってる。
内心パニック状態で、どうすればいいのか分からない状況で悲鳴も上げられないほどに状況の整理が出来ていない。
しばらく落下していたのに、急に身体中が軽くなったかのようにスピードが緩やかになり、宙に浮いている。
ゆっくりと足が地面についた瞬間に暗闇から色褪せた世界に変わる。
「……そう……しき……?」
暗闇から光ある場所に変わったので目を凝らしながらも周りを確認すると、そこは葬式会場だった。
しかもこれって……。
「私の……葬式だわ」
それも、前世で死んだ私の葬式。
目の前には大きな棺の中に血の気がない私が横たわっている。
死因は交通事故なので、引かれた時についた傷もあり、痛々しいというよりも見ていられないほどだった。
私は横たわっている私に触れようとしたが、すり抜けてしまった。透明になってたんだっけ。
きっと、葬式に参列している人たちには私の存在は分からない。そもそもお経を唱えている人の隣に立っているのに皆気付いてないんだもの。
ふと、母や姉が気になった。私が死んでどう思っただろう。
悲しんでいるのかな。
参列者の家族席を見る。そこには無表情な母と姉の姿。
何を考えているのか分からなかった。久しぶりに見た母と姉に恐怖を感じたが、首を左右に振る。
予想はついていた。でも、希望は持ちたかった。死を悲しんで、嘆いてくれてると思いたかった。
お経は終わり、次は焼香になる。
棺の前でお線香を炊く。最初が母からで、身構えてしまう。
母は席から立ち、歩き出す。その時に手に持っていたハンカチで目元を拭いて悲しい事を主張している。
でも私は見ていたから知っている。私が眠っている棺を冷ややかな目で見ていたことに。目も涙を流したようなうるっとしてないし、無表情だった。
やっぱり、世間体が気になる母だから悲しそうな演技はしとこうと思ったのかもしれない。
さっきまで、異世界にいて……悪魔と話してたのが嘘のように現実に引き戻される感覚がして嫌になる。
聞きたくない。目を逸らそうとしたが、私はさっき、悪魔に豪語しといて逃げるのは恥だと思った。
『おっ。逃げないんだ。偉い偉い』
肩に重さを感じたと思ったら子狐が私の肩に乗っていて、悲鳴を上げてしまった。
周りには私の声は聞こえないのは幸いだ。
子狐は鬱陶しそうに私を見る。
『耳に響くぞ』
「す、すみません……でも、これはどういう状況なのか。それに子狐が喋って」
『悪魔は何にでも慣れるんだよ。……これはきみが一度死んだ後の出来事だよ。きみの母や姉の本音を聞いて同じ事が言えるのか確かめるさ』
「…………」
『今、悪趣味だとでも思っただろ』
「い、いいえ。滅相も御座いません」
悪趣味だと内心思ってしまったのを見透かされてドキッとしてしまった。
子狐がジト目で私を見ている。諦めたように溜息をつかれた。
母が両手を合わせて目を瞑った。頭の中に母の声がし、映像としてイメージされる。
勿論、私は気が気ではない。底が真っ暗で何も見えないし、穴に落ちた瞬間、死ぬって思った。
というか、今も思ってる。
内心パニック状態で、どうすればいいのか分からない状況で悲鳴も上げられないほどに状況の整理が出来ていない。
しばらく落下していたのに、急に身体中が軽くなったかのようにスピードが緩やかになり、宙に浮いている。
ゆっくりと足が地面についた瞬間に暗闇から色褪せた世界に変わる。
「……そう……しき……?」
暗闇から光ある場所に変わったので目を凝らしながらも周りを確認すると、そこは葬式会場だった。
しかもこれって……。
「私の……葬式だわ」
それも、前世で死んだ私の葬式。
目の前には大きな棺の中に血の気がない私が横たわっている。
死因は交通事故なので、引かれた時についた傷もあり、痛々しいというよりも見ていられないほどだった。
私は横たわっている私に触れようとしたが、すり抜けてしまった。透明になってたんだっけ。
きっと、葬式に参列している人たちには私の存在は分からない。そもそもお経を唱えている人の隣に立っているのに皆気付いてないんだもの。
ふと、母や姉が気になった。私が死んでどう思っただろう。
悲しんでいるのかな。
参列者の家族席を見る。そこには無表情な母と姉の姿。
何を考えているのか分からなかった。久しぶりに見た母と姉に恐怖を感じたが、首を左右に振る。
予想はついていた。でも、希望は持ちたかった。死を悲しんで、嘆いてくれてると思いたかった。
お経は終わり、次は焼香になる。
棺の前でお線香を炊く。最初が母からで、身構えてしまう。
母は席から立ち、歩き出す。その時に手に持っていたハンカチで目元を拭いて悲しい事を主張している。
でも私は見ていたから知っている。私が眠っている棺を冷ややかな目で見ていたことに。目も涙を流したようなうるっとしてないし、無表情だった。
やっぱり、世間体が気になる母だから悲しそうな演技はしとこうと思ったのかもしれない。
さっきまで、異世界にいて……悪魔と話してたのが嘘のように現実に引き戻される感覚がして嫌になる。
聞きたくない。目を逸らそうとしたが、私はさっき、悪魔に豪語しといて逃げるのは恥だと思った。
『おっ。逃げないんだ。偉い偉い』
肩に重さを感じたと思ったら子狐が私の肩に乗っていて、悲鳴を上げてしまった。
周りには私の声は聞こえないのは幸いだ。
子狐は鬱陶しそうに私を見る。
『耳に響くぞ』
「す、すみません……でも、これはどういう状況なのか。それに子狐が喋って」
『悪魔は何にでも慣れるんだよ。……これはきみが一度死んだ後の出来事だよ。きみの母や姉の本音を聞いて同じ事が言えるのか確かめるさ』
「…………」
『今、悪趣味だとでも思っただろ』
「い、いいえ。滅相も御座いません」
悪趣味だと内心思ってしまったのを見透かされてドキッとしてしまった。
子狐がジト目で私を見ている。諦めたように溜息をつかれた。
母が両手を合わせて目を瞑った。頭の中に母の声がし、映像としてイメージされる。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
〘完結〛ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた
桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、
婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が
部屋に閉じこもってしまう話からです。
自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。
※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる