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第十一章⠀真相エンド
恋愛感情はない……はず
しおりを挟む学園の中庭のベンチに座って私とイリア様は洋菓子を食べながら雑談していた。
食べながら話すのはマナー違反なので食べ終わるか、食べ始める前に話す。
イリア様はとても上品で可愛らしい。
また、愛らしい一面も持っており、話をしていて心が穏やかになる。
……なんかこういうの良いなって思ってしまった。
歳が近い女性と楽しく雑談して、笑い合う。
今世でこんな日が来ようとは。
転生したと気付いた頃は思いもしなかったことだ。
前は死亡フラグのことで頭がいっぱいだったからね。回避したいのに、なぜか空回りしてて……。
いつ死んでもおかしくなかったのよね。この世界の人達が優しすぎたおかげで私の死亡フラグは立たなかったんだけど。
「そうですわ。ソフィア様はお慕いしている殿方はいますの?」
「ふぇ!?」
突然、異性のことを聞いてきたので驚いて声が裏返ってしまった。
「おし……」
落ち着け、私。
イリア様が言っているおしたいは『押したい』か『お慕い』だろう。
間違っても『おひたし』や『推したい』ではない。
この世界では無い言葉だもん。
あの台詞だと、きっとお慕いが正解かも。
「い、いいえ。いませんよ」
一瞬だけアレン王太子殿下の顔が思い浮かんだが、首を大きく横に振った。
殿下は推しとして大好きなキャラだ。だけど、恋愛感情は無い…………はずだ。
「そうなんですの? アレン王太子殿下とは婚約しているという噂ですけど」
「えっ。いいえ、まさか。違いますよ!!」
婚約はしていない……と思う。
「殿下とは友人です」
「ノエル様とも親密な関係だとも噂ですわ」
「ノエル!?」
まさか!!?
嘘でしょ。笑えない冗談じゃない。
「昨日、熱い眼差しで見つめ合っていたのを見たという方が多いんですのよ」
昨日……。
ああ、あの時か。
記憶を遡っていたら、心当たりがあった。
不意にとある光景が映像のように流れ、胸が苦しくて涙が溢れてきて、泣き止むまで傍に居てくれた。
変な噂にならないと良いけどなって少し不安だったけど、やっぱり噂になってたか。
「ノエルとは姉弟です。それ以上でも以下でもないですよ」
「でも義なんですのよね。だったらわからないですわ。ソフィア様がその気がなくても向こうは……」
「それは有り得ませんよ」
有り得ない。恋愛感情なんてお互いに無いはずよ。
ノエルは姉想いの優しい男性に育ったと思う。それが恋愛としてだなんて、想像がつかない。
イリア様は何が言いたいの?
「まぁ。それは何故ですか?」
「私はノエルの姉ですから」
義、なんだけど。
それを聞いたイリア様はクスリと笑った。
「いじわるが過ぎましたわ……、すみません。ソフィア様は恋愛感情は無くても相手や見る側としてはそうは思わない可能性がありますわ。女性の嫉妬ほど大変なものはありません。お気をつけて」
「えっ……、それって私を恋敵だと思ってる人がいるってことですか?」
イリア様は微笑んだまま、ゆっくりと頷き、声を潜めた。
今いる場所は学園の中庭なので、学生や教師がちらほらいる。
小声になるというのは、きっと他の人に聞かれてはいけないことなのだろう。
「最大限のフォローはしますが、一人の時は気をつけて。かなり攻撃的な性格の方がいらっしゃるかもしれませんわ」
「…………なんで、わざわざ教えてくれるんですか?」
「あら、心外ですわね。私とソフィア様は友人ではなくて」
友人……。
なんて素晴らしい響きなんだろう。
ジーンっと感動していると、イリア様は立ち上がった。
「それと、ソフィア様は養子というだけでも目をつけられますわ」
養子……、そっか、貴族の血を引いてないから。
ゲームでもソフィアは差別的なことをされてたのよね。それでも、常に自信溢れる立ち振る舞いが目立ち、“ご友人”たちを従わせていたのよね。
友人と呼んで良いのか微妙だけど。まるで、王女様と奴隷みたいな関係だったからね。
「あっ!?」
どうしたものかなって考えてるとクロエ様が見え、思わず声を出してしまった。
私は立ち上がった。
「あの、今日は話せて良かったです。ありがとうございます! それでは」
慌てて追いかけるが、走ったりしたら『はしたない』とされ、先生に怒られる可能性がある。
だからなるべく焦らず早歩きしてクロエ様のあとを追った。
背後から呆れながら「本当にわかってるのかしら……、心配ですわね」と、ため息混じりにイリア様は呟いていた。
私自身、気をつけなくてはいけない。学園に入学したらもしかしたらそんなこともあるかも知れないって薄々思ってた。
……差別かぁ。どの世界でもいじめは存在するだろうし、向き合わないといけないものだろう。
今の私には、自分が出来ることをするだけだ。
そのためにクロエ様が必要なんだよ。私と同じ転生者。きっと私よりもこの世界に詳しいと思ったから。
やり込む前に私は死んだから、知識がほとんどない。
ごめんね、イリア様。
私は……守られるほど、か弱い人間にはなりたくないんだ。
「クロ……」
渡り廊下を通り、クロエ様に追いついて声をかけようとしたがイリア様の言葉を思い出す。
『見る側としてはそうは思わない可能性がありますわ。女性の嫉妬ほど大変なものはありません』
私のためを思って忠告してくれたんだ。その気持ちを大切にしたい。
でもどうしよう……。声掛けないと一生話せない気がする。
「姉上、どうしたんですか?」
「!!? ノエル~、良いところにきてくれたぁ」
声をかけられ、振り向くとノエルが不安そうに私を見ていた。
声の主がノエルだと分かり、涙声になりながら抱きつこうとしたが、ぐっと我慢した。
変な噂になると困るからね。
「あのね、お願いがあるの!」
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