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第十三章 流星群が降り注ぐ夜に
いじめだと勘違いされました
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ヒソヒソと誰かが声を潜めて話していたのだが、近付くとピタリとその声は聞こえなくなった。
殿下のケーブが顔にかかっているため、周りがどういう状況なのか理解出来ずにいた。
殿下の声が耳元で聞こえ、少し驚いた私はモゾモゾと動こうとしていると横抱きされてるのだから仕方ないのかなと強引に冷静さを取り戻した。
「……キミら、そんな小声だと聞こえないだろう。言いたいことあるなら話してみてよ」
「あっ、い、いえ」
「し、失礼します」
殿下の声はとても優しげだと言うのに、小声で話していた貴族たちは慌てているように思った。
逃げるようにその場から去っていく。
……というのが、医務室に行く途中に何回かあった。
どういう状況なのか把握しようとケーブを取ろうとすれば殿下に止められる。
ーー今取ると大変なことになる。と、
確かに、髪の毛がベトベトで顔や制服も汚れてる。そんな自分の格好を晒しだし、更には殿下に横抱きされている。
かなり恥ずかしいし、何よりもだらしがない令嬢だと思われる。そうなると公爵家に傷がつく。
殿下はそのことを案じているのかもしれない。
ホント、何やってんだろう。私……。
自分の失態に落ち込んでいたら医務室に着いたようだ。
「ーーまぁ、どうしたんですか!?」
「……紅茶がかかったそうなんだ。流石に寮までは少し遠いし、なによりもこの状況のソフィア嬢を晒し者にはさせたくない」
「わかりました」
殿下は私を下ろすと顔にかかっているケーブを取る。
暗かった視界が急に明るくなり、眩しくて目を細めた。
「ソフィア様、どうぞこちらに」
明るさに慣れてくれば、藍色の長い髪で琥珀色の瞳をしていて、白衣が似合う女性が奥に進むようにと促す。
「それじゃあ、俺は授業に戻る。しばらくしたらまた来るよ」
「あっ、はい。ありがとうございます」
殿下は医務室を出ていく。
私は女性に連れられるがまま、奥に進んでいく。
奥といっても医務室自体はそれほど広くはないのだが、行った先の突き当たりにバスルーム室がある。
「まずは汚れを落として来てください。着替えは用意しますので」
「はい」
白衣姿の女性は学園の医師。
魔法の実技の授業をして、怪我をすればよく医務室に行っている。
なので顔を覚えられているうえにかなり心配もされてしまう。
今回のことも言葉にしなくても呆れられてるに違いない。
「……ソフィア様」
バスルームに入り、制服を脱いでいると扉越しに声が聞こえた。
「いつでも相談してくださいね。今回の件もそうです、手遅れになってしまったら遅いんです。どうか、頼ってくださいね」
「え……?」
ものすごく心配されていて、驚いてしまった。
「え? って……、いじめられてるんですよね。だから紅茶を頭から……」
「ああ…………」
紅茶を頭から被ってしまうというのは、普通なら有り得ないことだ。
だから医師はいじめだと勘違いしているんだ。
普段から有り得ないほどの怪我をして医務室に来るのもあるかもしれない。……だって、実技で魔法を使う時どうしても上手くいかないんだもん。公爵邸では、そこそこ出来てたんだけどなぁ。
見られてるから緊張して、無駄な力が入っているのかもしれないけども。
「違います。これはその……、私がドジをして自分から被ったんです」
「えぇ……っと、いくらなんでもそれは」
その言い訳は無理があるだろうと言いかけたけど、なにか悩んだ後、自分の中で納得したようだ。
「わかりました。でもいつでも相談にのりますからね」
「はい。ありがとうございます」
優しい……けど、私が男爵令嬢だったらこんな温かい言葉をかけては貰えないんだろうかってたまに思う。
媚びてるように思ってしまう。
教師によっては爵位で態度がかわる人がいる。
だけど、平等に接する人もいる。
この人はどっちなんだろう。
ほとんどが医務室にいるから生徒たちと会話している所なんて見たことが無い。
ーーーーーーーー
汚れを落とし、医師が用意してくれた予備の制服を着てバスルームから出る。
「姉上!!」
「え?? ノエル!? なんでここに」
「姉上がいじめられて紅茶を頭から被せられたと聞いて」
「いじめって……」
「誰がこんな酷いことしたんですか?」
医務室にはいつの間にかノエルが居た。医師は呆れていた。
「ノエル様にはいじめではないと伝えたのですが……」
ノエルは私の手を握る。
「……心配しました。顔色もあまり良くないですし」
シュンっと今にも泣き出しそうな顔はまるで子犬のようでキュンっとなった。
「あ、ありがとう。でもいじめじゃないの。私がドジをしただけだから」
「姉上のドジは、何が起こるか分からない危険がありますが、なによりも姉上を良く思っていない方がいるのは事実です」
「そう、よね。気をつけるわ」
そうか、ノエルは私のドジを何が起こるか分からない危険なものだと認識しているんだね。
鐘の音が鳴り、ノエルは次の授業があるからと医務室を出ていった。
私も行こうとしたら、少し休むようにと言われてしまった。
顔色があまり良くないらしいから。
殿下もまた来ると言っていたし、医務室で待ってればそのうち来てくれるだろうけど……。
王族なのに良いのかなぁ。なんて思ってしまう。本当なら私が向かうべきなんだ。
だけど、堂々と会えないからもどかしい。
婚約者だったなら堂々と会って話せるんだろうけど、私はその道を選ばなかった。
自分の選んだ道なのだから、後悔しようが頑張るしかない。
私はベッドに横になり、眠りについた。
殿下のケーブが顔にかかっているため、周りがどういう状況なのか理解出来ずにいた。
殿下の声が耳元で聞こえ、少し驚いた私はモゾモゾと動こうとしていると横抱きされてるのだから仕方ないのかなと強引に冷静さを取り戻した。
「……キミら、そんな小声だと聞こえないだろう。言いたいことあるなら話してみてよ」
「あっ、い、いえ」
「し、失礼します」
殿下の声はとても優しげだと言うのに、小声で話していた貴族たちは慌てているように思った。
逃げるようにその場から去っていく。
……というのが、医務室に行く途中に何回かあった。
どういう状況なのか把握しようとケーブを取ろうとすれば殿下に止められる。
ーー今取ると大変なことになる。と、
確かに、髪の毛がベトベトで顔や制服も汚れてる。そんな自分の格好を晒しだし、更には殿下に横抱きされている。
かなり恥ずかしいし、何よりもだらしがない令嬢だと思われる。そうなると公爵家に傷がつく。
殿下はそのことを案じているのかもしれない。
ホント、何やってんだろう。私……。
自分の失態に落ち込んでいたら医務室に着いたようだ。
「ーーまぁ、どうしたんですか!?」
「……紅茶がかかったそうなんだ。流石に寮までは少し遠いし、なによりもこの状況のソフィア嬢を晒し者にはさせたくない」
「わかりました」
殿下は私を下ろすと顔にかかっているケーブを取る。
暗かった視界が急に明るくなり、眩しくて目を細めた。
「ソフィア様、どうぞこちらに」
明るさに慣れてくれば、藍色の長い髪で琥珀色の瞳をしていて、白衣が似合う女性が奥に進むようにと促す。
「それじゃあ、俺は授業に戻る。しばらくしたらまた来るよ」
「あっ、はい。ありがとうございます」
殿下は医務室を出ていく。
私は女性に連れられるがまま、奥に進んでいく。
奥といっても医務室自体はそれほど広くはないのだが、行った先の突き当たりにバスルーム室がある。
「まずは汚れを落として来てください。着替えは用意しますので」
「はい」
白衣姿の女性は学園の医師。
魔法の実技の授業をして、怪我をすればよく医務室に行っている。
なので顔を覚えられているうえにかなり心配もされてしまう。
今回のことも言葉にしなくても呆れられてるに違いない。
「……ソフィア様」
バスルームに入り、制服を脱いでいると扉越しに声が聞こえた。
「いつでも相談してくださいね。今回の件もそうです、手遅れになってしまったら遅いんです。どうか、頼ってくださいね」
「え……?」
ものすごく心配されていて、驚いてしまった。
「え? って……、いじめられてるんですよね。だから紅茶を頭から……」
「ああ…………」
紅茶を頭から被ってしまうというのは、普通なら有り得ないことだ。
だから医師はいじめだと勘違いしているんだ。
普段から有り得ないほどの怪我をして医務室に来るのもあるかもしれない。……だって、実技で魔法を使う時どうしても上手くいかないんだもん。公爵邸では、そこそこ出来てたんだけどなぁ。
見られてるから緊張して、無駄な力が入っているのかもしれないけども。
「違います。これはその……、私がドジをして自分から被ったんです」
「えぇ……っと、いくらなんでもそれは」
その言い訳は無理があるだろうと言いかけたけど、なにか悩んだ後、自分の中で納得したようだ。
「わかりました。でもいつでも相談にのりますからね」
「はい。ありがとうございます」
優しい……けど、私が男爵令嬢だったらこんな温かい言葉をかけては貰えないんだろうかってたまに思う。
媚びてるように思ってしまう。
教師によっては爵位で態度がかわる人がいる。
だけど、平等に接する人もいる。
この人はどっちなんだろう。
ほとんどが医務室にいるから生徒たちと会話している所なんて見たことが無い。
ーーーーーーーー
汚れを落とし、医師が用意してくれた予備の制服を着てバスルームから出る。
「姉上!!」
「え?? ノエル!? なんでここに」
「姉上がいじめられて紅茶を頭から被せられたと聞いて」
「いじめって……」
「誰がこんな酷いことしたんですか?」
医務室にはいつの間にかノエルが居た。医師は呆れていた。
「ノエル様にはいじめではないと伝えたのですが……」
ノエルは私の手を握る。
「……心配しました。顔色もあまり良くないですし」
シュンっと今にも泣き出しそうな顔はまるで子犬のようでキュンっとなった。
「あ、ありがとう。でもいじめじゃないの。私がドジをしただけだから」
「姉上のドジは、何が起こるか分からない危険がありますが、なによりも姉上を良く思っていない方がいるのは事実です」
「そう、よね。気をつけるわ」
そうか、ノエルは私のドジを何が起こるか分からない危険なものだと認識しているんだね。
鐘の音が鳴り、ノエルは次の授業があるからと医務室を出ていった。
私も行こうとしたら、少し休むようにと言われてしまった。
顔色があまり良くないらしいから。
殿下もまた来ると言っていたし、医務室で待ってればそのうち来てくれるだろうけど……。
王族なのに良いのかなぁ。なんて思ってしまう。本当なら私が向かうべきなんだ。
だけど、堂々と会えないからもどかしい。
婚約者だったなら堂々と会って話せるんだろうけど、私はその道を選ばなかった。
自分の選んだ道なのだから、後悔しようが頑張るしかない。
私はベッドに横になり、眠りについた。
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