乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十五章 それぞれの思考が交差する新たなルート

ちゃんとお別れしたかったのに

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 寮のエントランスに入ると、アイリスではなくリリーが出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。ソフィア様」
「えっ、アイリスは!?」
「……聞いてませんか? 侍女を辞めると」
「それは聞いてるけど、なんでリリーがいるの!?」

 リリーは首を傾げた。

「アイリスさんはもうとっくに実家にお帰りになられましたから」
「なにそれ……」
「そういえば、手紙を預かってあります。ここではなんですから部屋に行きましょう」

 私はゆっくりと頷くと部屋に向かって歩き出す。

 アイリスが辞めるのは今日のはず。ちゃんと朝に約束した。

 ちゃんとお別れしたいから、夜まで待っててって言ったのに。そしたらアイリスは嬉しそうに笑っていた。

 アイリスが私に嘘をつくなんて思えない。

 でも、リリーが寮にいるってことはそういうことなのかな。

 部屋につくなり、私はソファーに腰を下ろした。

 リリーはアイリスから預かっていた手紙を私に渡す。

 その手紙には『黙って行ってしまって申し訳ありません。ですが、これだけは忘れないでください。私はソフィア様の味方だということを』ただそれだけ書かれてあった。

「ねぇ、リリー。アイリスは、何か言ってた?」
「……ソフィア様に謝ってほしいと」
「そっか」

 ……謝らないといけないのは私の方だよ。ずっと私の世話係をしてくれて、弱音を吐くことはしないで……アイリスが専属侍女に任命された当時なんて、めんどくさかったはずだわ。

 それなのに、良くしてくれて……その時のお礼だってちゃんと言えてないのに。

 いつも一緒に居ると思ってた人が突然居なくなると寂しくなるな……。

 あれ……?

 手紙は一枚かと思っていたらもう一枚ある。

 そのもう一枚を見るが、どこにも文字は書かれていなかった。微かにみかんの良い匂いがするだけだった。

 それに、鍵もある。銅色の鍵。これは多分、アイリスがデメトリアス家の離れにある使用人寮の鍵かな。以前に見たことあるし。

「ねぇ、リリー。何も書いてないんだけど……アイリスが初歩的なミスをするとは思えないのよね」
「すみません、分からないです」

 リリーは申し訳なさそうにしていた。

 落ち込むリリーに「気にしないで」と優しく言う。

 リリーはデメトリアス家の侍女でもあるけど、私のドレスを良く作ってくれる。

 前はドレスじゃなく、ジャージを作ってくれた。そのジャージはあれから良く活用している。

 器用で裁縫が得意。私よりも女子力高めでちょっと羨ましいと思ってたり……。

 リリーが来るなんて予想外だったけどね。

 正直、他の侍女が来るかと思ってたもので……。

 アイリスのことだから、そうなると思って予めリリーを指名したかもしれないけど。

 リリー以外の侍女は私を着せ替え人形のように着せ替えを楽しんでたり、やり過ぎなまでに私を甘やかす。

 まぁ、甘やかされてるのか……見放されているのか、よくわかってないけど。

「お茶、入れますね」

 リリーは苦笑してお茶の準備をする。

 私は汚れるといけないから手紙をタンスの引き出しに閉まった。

「あっ、あの。アイリスさんから、これを……」
「ブローチ?」

 それは、フローライトのような宝石のブローチだった。光に当てれば虹色になってとても綺麗。

「アルクスという宝石です」

 私はリリーにブローチを受け取った。

 貴族では、同性が贈り物を送るのは『信頼の証』。

 実家に戻るということはもう私の侍女じゃない。一人の貴族だ。

 ……だったら、またどこかで会うかもしれない。
 その時は私もちゃんと贈り物をしないと。

 そう、心に決めた。

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