乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十五章 それぞれの思考が交差する新たなルート

こんなにも誰かを好きになることなんて今まで無かったんだから

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 しばらくしてから馬車は動き出した。

 ガタンっと小さく揺れ、少し驚く。

 そういえば、馬車に乗るのなんてはじめて。ちょっとドキドキしちゃうな。

 私が魔術士の娘だから、外出は禁止、貴族のパーティには参加は出来なかったからな。

 魔術士の子供の中でも特に私は危険視されてるから余計なんだけど。

 落ち着きなくソワソワしているとアレン様はクスッと笑った。

「落ち着かない?」
「い、いいえ、そんなことは……」
「俺に気を遣うことはないよ。はじめてでしょ。馬車に乗るの」

 私はこくんっと頷く。アレン様は満足そうに目を細め、窓の外を覗くようにと促す。

 不思議に思い、窓の外を覗く。

 すると、活気に溢れた街並みと人々が笑顔だった。私はその笑顔に釘付けになった。

 その人達は貴族じゃない、贅沢な暮らしをしてる訳じゃない。ましてや貧相な人もいる。

 それなのに楽しそうに笑っている。

「……ここは城下町だから治安は良い方だけど、田舎に行くにつれて治安が悪くなる。ましてや差別する人さえ出てくる。本当はミットライト王国を見て欲しかったんだけど、以前の失態もあるから、安心出来ない。そこは許してほしい」

 学園があるのはアシェル帝国。ミットライト王国に向かうにはアシェル帝国の城下町を通り国境を越える必要がある。

 アレン様の言う以前の失態……それは、きっとカースさんの件。私が誘拐された時のことを言ってるんだろう。
 あれは、私の不注意なのに……って、思うけど、あの件は私だけの問題じゃなくなってるんだろうな。

 でも結局は、ミットライト王国に迎ってるから王国の街並みは見れと思うんだけど……、そこのところはどうなんだろう。

 アレン様の様子を伺っていると、口角を上げ、微笑まれた。それも爽やかに。

 私は慌てて顔を逸らし、口を開く。

「その治安を最小限に抑えるのが法則なのでしょう」
「うん。でもね、法則を破る人も多いんだ。だからこそ、騎士団がいるし、騎士団が踏み込めない領域には帝王が信頼している人が対応している。前ほど物騒な法則はないからね、命の危機に怯える人はほとんどいない」
「……なんでそれを私に?」
「街並みを見せたかったんだ。民たちを見て、どう思ったのか知りたいと思ってね」

 私はアレン様を見た後、直ぐに窓の外に目を移す。

「とても良い街ですね……楽しそう」

 小さい頃の記憶でぼんやりとしか街の人々のことは覚えていない。

 ただ、冷たかったことだけは知っている。今見ている街の人々はほんの一部なのかもしれない。

 そこは口には出さない。

 そのことをアレン様は知っているはずだから、本当なら全てを見せたいはずだ。それをしないのは私を気遣って……なのかも。

 乙女ゲーム『クリムゾン メイジ』でも似たようなシーンがあった。

 民を思い、理想と現実を話す場面。悪い部分を見せようとしないのは私に嫌いになってほしくなかったからなのかも。

 この世界の人々をーー……。

「だよね。帝国が一番治安は安定しているけど、ミットライト王国も笑顔が絶えないんだよ」

 クスッと嬉しそうに笑ったアレン様を見て、ドキッとした。

 お、落ち着け私。

 バクバクする心臓を抑え、一呼吸置く。

「ありがとうございます。私に気をつかってくださったんですよね」

 アレン様は、私が外に出られないのを不便に思ってこんなことをしたんだろう。
 気を遣わせてしまって、申し訳ない。

「違う。気を遣ったわけじゃない……ダメだな。緊張してる」

 アレン様は震える手で前髪を掻きあげる。クシャッと乱暴に髪を掻く仕草は普段、見たことがなく、こんなにも余裕が無い表情を私は知らなかった。

 王太子殿下にかなり失礼かと思うけど、とても可愛らしくて「ふふ」って笑ってしまった。

「何?」
「すみません。だって……こんなにも余裕が無い表情ははじめて見るので、なんだか新鮮で」
「余裕が無いのは当然だし、緊張だってするよーーこんなにも誰かを好きになることなんて今まで無かったんだから」

 あまりにも真剣な眼差しで私を見つめるから、思わず笑うのを止めてしまった。

「言ってる意味が」
「わからない? なら、教えてあげる」

 そう言って、アレン様は私の頬を触ってきた。私は驚いて肩を跳ねる。

「街並みを見せる理由なんて簡単だ。俺が好きな世界を見せたかったからーーそれに」

 親指で私の唇に触れる。その仕草だけで私は顔が真っ赤になってるのが鏡を見なくてもわかってしまうから、恥ずかしい。

「俺はキミを知りたいと思う。覚えてるかい? 初めて会った時のことを。俺とキミは婚約してないのに『婚約破棄をしたい』と申し出た。それってさ、俺の呪いと関係があるんじゃないのか」
「そ、それは……」

 私は目を逸らそうと下を向こうとしたが、アレン様はそれを許してくれなかった。

「ダメ……、ちゃんと俺の目を見て話して」

 いつものように優しい笑顔じゃない。とても真剣な表情だった。

「キミを責めたいわけじゃない。教えてほしいんだ。俺を怖がる理由もそこにあるんじゃないのか? 本当は、ずっと前から問いただしたい気持ちだったんだ。でもキミは気持ちの整理が苦手そうだったからキミに合わせていた。言うまでずっと待っているつもりだったんだ」
「あの、私は……」
「それなのに、貪欲になっていく。嫌われないように一定の距離を保ってきたけど……俺ね、そこまで我慢強くないんだよ」

 スススっと私の唇を親指でなぞる。

「た、確かに呪いが関わってるのかもしれません。あの時、怖いって思ったのはアレン様が掴みどころがないのもあり……ゆ、夢で私を殺すのを見てしまったせいです。アレン様は何も悪くはなくて、私の問題だったんです……それなのに、私は感情をそのまま顔に出してしまってアレン様を傷つけました」

 私は両手を自分の胸の前で祈るように握った。アレン様の目をしっかりと見た。

「本当に、申し訳ありません」

 震える声と手。目頭が熱くなっているが、グッと涙を堪える。

 自分が悪いのに、泣くのは変な話だ。

「キミは生まれた時から貴族のマナーを学んでるわけじゃない。ましてや、貧相な暮らしをしていただろう。貴族に引き取られたからといって直ぐに淑女らしい振る舞いは出来ないよ。それは個人差も関わってくるから……最初の頃、そんなソフィア嬢を見て、面白いと変な令嬢だと、言ってしまったのは俺だ。俺も謝らなければならない。ごめんね」

 私は大きく首を左右に振った。

「何を言いますか。引かれるどころか、どんな事があってもいつも私の味方でいたじゃないですか。私は……それが嬉しかった」

 私が微笑むと、アレン様の頬が若干赤い気がした。

 アレン様は苦笑して、私の髪を優しく攫う。

「味方……か。前は気になる子として見てただけなんだけど、今は味方でありたいと強く願うよ」

 攫った髪に唇を寄せ、口付ける。

 流れるような仕草に慣れてなくて胸が高鳴ってしまった。

 ゆっくりと唇を離すと、私を真っ直ぐに見つめる。

「ソフィア嬢ーー俺との婚約を前向きに考えてくれないだろうか」

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