乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十七章 三作品目のヒロインの想い人

提案するのも一つの手だ【クロエ視点】

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 ……これはどういう状況だろうか。

「これはこれは。王太子殿下、こんな田舎まで御足労をお掛けしてしまって」
「いや、気にすることないよ。クロエ殿と話をしたいんだけど、しばらくは誰も来ないようにしてくれないか」

 数日前にいきなり殿下が訪ねてくると手紙が届いた。殿下が尋ねてくるのはあの日以来だ。

 父様も母様も殿下に頭を下げている。見るからにごますりみたいに見えるからやめてほしい。程々で良いと思うのにと、口に出しそうになり、思い止まる。

 俺が男性にも女性にも姿を変えられるというのはこの屋敷の住人しか知らない真実。

 男性バージョンと女性バージョンでは性格をわけて演じている部分がある。

 そこは前世の経験に感謝をしている。

 今回、殿下が訪ねてきた目的はきっと男性バージョンの俺だ。

 だから男性として振る舞う。

 貴族の屋敷とは思えない程のこじんまりとしたサロンに母様が侍女に案内をさせた。

 使用人を雇うお金はあまりないのもあり、せいぜい二人が限界だった。

 さっき案内したのがその一人。

「すみません。たいしたおもてなしも出来なくて」

 皮肉を少し混じってしまったが、殿下は気にしていない様子だ。

 殿下は整った作り笑顔を崩さずにゆっくりとソファに腰掛ける。

 俺もテーブルを挟んだ向かいのソファに腰掛けた。

「いや、気にしなくて良いよ。急に来たようなものだしね。本当なら王宮に呼び出ししても良かったんだけど……町並みが気になってしまってね。少しずつ活気は取り戻しつつあるみたいで安心したよ」
「あの時はお世話になりました」
「……俺は何もしてない。したのは……キミだろ」

 殿下はクスッと笑ったが、鋭い瞳で見つめられ言葉に詰まる。

 何も知らない人ならばここで自分は責められていると勘違いするだろう。だが、俺は殿下をよく知っている。

 責めているんじゃなくて、見定めようとしている瞳だ。

 気持ちを落ち着かせるように胸に手を当てた。ゆっくりと殿下を見て口を開く。柔らかい笑顔を忘れずに。

「ご謙遜を。殿下が来なければもっと酷いことになっていましたよ。米や野菜や新鮮な水を提供してくださったじゃないですか」
「それは数日ぐらいだ。キミが雨を降らせなければずっとこの問題は解決しなかっただろう。報告書には書かれてあった通りとはいえ、実際に足を運ばなければ分からないことが多いのだと理解した日でもある」
「雨はたまたまですよ。魔法を使えるようになったのも雨の日ではありますが」

 何せ、乙女ゲーム『クリムゾン メイジ』の殿下の声を担当したし、発売してから何回もやりこんだゲームでもある。

 どんな仕上がりになってるのか気になるし、何よりも声優としてじゃなくプレイヤーの一人として見れるから、面白い。

 雨だって、俺が降らせた訳じゃない。自然に降った。いや、正確には霧雨だった雨を着水性を強めるために魔法を使っただけだ。

 川も日照り続きで干上がってしまっていたから、霧雨だと水溜まりさえも出来ない気がした。

 魔法が覚醒する時期も年齢も分かっていたからなんとかなった。ただそれだけだ。

 表向きは、女性バージョンと男性バージョンの俺が二人で協力してやったものとされている。

「来た理由はそれだけではないのでしょう?」
「察しが良いんだね」

 気になったから見に来た理由だけでは無い。また別の理由があると思い、直球で聞いてみると殿下は同意した。

 と、なると……。アイリスさんの結婚式のことだろう。

 殿下の耳にも届くはずだ。ソフィア様が俺……いや、女性バージョンの俺の侍女として連れていくことを。

 それならば、女性バージョンで殿下を迎えることも出来たのだが、俺で正解だったようだ。

 きっと、殿下のことだ。俺に未知数な能力があることを薄々気付いている。

 ……俺が女性に姿を変えられるのも気付いているだろう。

 結構姿を変えたりしてたからな。交互に入れ替わっていたら怪しく思い、注意深く監視しても不思議じゃなかった。

 それを分かってて辞めなかったのは、気付いてくれるのを望んでいたからだな。

 なんというか、自分から言うのは嫌だった。変な感じしたし、かなり複雑な気持ちなんだよな。プライドという奴なんだろうけど。

「一昨日に気になることを聞いてね。何でも公爵家の令嬢が男爵家の令嬢の侍女としてとある方の結婚式に向かうとか」

 うん、当たった。殿下のことだから爵位を気にしてるのかもしれない。

 ソフィア様は公爵令嬢。俺は男爵令息だ。爵位は俺が下。いや、かなり低い位置にいる。爵位が高い公爵令嬢を侍女にするのは問題があるのだと雰囲気で訴えかけている。

 殿下ならば不審に思うだろうと考えた。どんなことを話してもきっと納得はしないだろう。だったらここは提案してみるのも一つの手だ。

 そもそも、ソフィア様のことだ。きっとドジをして公爵令嬢だと気付く人もいるだろう。そうなれば、かなり厄介なことになる。

「確かにその通りです。ですが、その理由もご存知ですよね。でしたら、公爵家のご令嬢を殿下の侍女としてはどうでしょう? 実際に、爵位が上のしかも女性に付き人をやらせるのは不安だったのです」
「侍女に?」
「はい。結婚式の間だけとはいえ、侍女ですからね。その……何かと気安くは出来ませんし、遠慮もしてしまいますから。それならば王族のアレン王太子殿下にとっと、思いまして」
「それはそれで……」
「ですが、やはり気になりますのでしょう?」
「それは……まぁ」

 殿下は少し唸って口元を抑えた。考え込んだ後、俺の目を見て、承諾してくれた。

 アレン王太子殿下を声優として真剣に向き合ってきたからわかる。

 きっと、ソフィア様に惚れ込んでいるのだろう。

 そもそも前世を思い出し、行動する時点で物語は変わっていく。ゲームでは有り得ない行動をしたら尚更だ。

 イレギュラーな存在がいるだけで未来はどう転ぶのか分からなくなる。

 例え、ソフィア様とアレン王太子殿下が相思相愛でもソフィア様が幸せならばそれで良いと思う。

 ……思ってるはずなのに、複雑な気持ちになるのは俺自身がソフィア様に魅了されてる証拠なのかも。

 本当、困った感情だ。
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