乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十八章 アイリスの願いと叶わないと思っていた恋

アイリスは今、幸せ?

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 急いで部屋に入ると、侍女に食器を投げ付けたのであろう。食器が侍女の足元に散乱してある。

 侍女もそうだけどアイリスの頬も切れていて血がツーっと流れ落ちていた。

 これはどういう状況なのだろうか。

 お互いに威嚇し合ってるようにも見える。

 誰か悪いかなんて……。アイリスのことを何も知らない人からすればアイリスが悪く見えるだろうが、私は良く知っている。

 アイリスは理由も無しに人を傷付けることはしない。だからといって、理由があっても傷付けないのだけど。

 侍女が私に気付くと私の方に駆け寄った。

「ちょっとあんた、いい所に来たわね。これは立派な暴力よ。あんまりだわ。私はただ、軽食を準備しただけなのに、不満があるからって私に食器ごと投げ付けたのよ。今から旦那様に報告に行くから、見張っててくれないかしら」
「……良いですよ」

 私は必死に怒りを堪え、苦笑した。侍女が私の後ろにいるノア先生に気付くと気まずそうにした。

「傷……大丈夫ですか?」
「あっ、はい。お気遣い感謝します。それでは……失礼します」

 ノア先生が侍女を心配する言葉をかけると、侍女の表情は強ばった。
 ノア先生に軽くお辞儀をした後、そそくさと部屋から出ていってしまった。

 ノア先生は貴族じゃないから、きっと誰かの付き人だと思ってるのかも。

 ……だったら尚更、告げ口されるかもしれないというのを気にした方がいいんじゃないのかなと思ったけど、目の前にいるアイリスが心配な為、出かかった言葉を呑み込んだ。

 バタンっと扉が完全に閉まってから私はアイリスに駆け寄った。

「あの……大丈……」
「触らないで!!」

 アイリスの頬に触れようとした私の手を弾く。その瞳は憎しみが込められていた。一体、何があったのだろう……。

「同情してるフリ? あなた達がソフィア様の何を知ってるというのよ。なんで……何も知らないくせに令嬢の恥だなんて……言えるのよ。私の悪口なら耐えられた。でも……ソフィア様の悪口は、許せない」

 アイリスに弾かれた手を擦っていた私は胸が痛んだ。

 アイリスは私の為に怒ってくれてたんだ。こんな風に感情を露わにしているアイリスを始めてみた。

 部屋に入ってきてから、アイリスは私の顔を見ようとしていない。私が誰なのか理解していないだろうな。

 ーー本当に、この人は。

 私はアイリスの頬に触れる。キッと睨んできたアイリスは私の顔を見る。驚いたような表情になって次の瞬間にはみるみるうちに青ざめる。

「ソ、ソフィア様!? なんでこのような場所に」

 私は泣きそうになるのを堪え、微笑む。動揺をして慌てふためくアイリスに優しく声をかける。

「聞きたいことがあるの。アイリスは本当に……今、幸せ??」

 私の問いにビクッと肩を震わせるが、アイリスは困ったように笑う。

「勿論ですよ。私は……」
「うそつき……。知ってるんだからね。アイリスが家族から、そして侍女からも疎まれていることを。そんな中で幸せだなんて、冗談でも笑えないよ」

 アイリスは私の手に自身の手を重ねて目を閉じる。手にアイリスの髪の毛がかかり、少しくすぐったい。若干濡れてるし……。

「出来ることなら、知られたくありませんでした。軽蔑しましたでしょう? 私は子を産めず、捨てられた挙句に傍若無人なことをしていたのです」
「アイリスはそんなことしないよ」
「デメトリアス邸にお世話になる前の私なんて知らないでしょう。私は、最低な人間で卑怯なんですよ」

 アイリスはなんでそこまで頑なに……。

 とりあえず、ソファーに座るように促す。

 アイリスは渋々座る。その横に私も座る。ノア先生は気を利かせてなのか、そっと部屋から出ていく。多分、扉の前に居るんだろう。

「卑怯なら私も同じ。血の繋がりがある両親を私が殺したというのに、こうして笑えてるんだもん」
「何故……それを。まさか、記憶が!? 違うんですよ。ソフィア様は何も悪くありません!!」
「私が力を暴走して殺しちゃったの。知ってたんだね」
「……っ。すみません。ソフィア様の専属侍女になった時に、ソフィア様は全然感情が読み取れない時期がありまして、少しでもソフィア様の事を知りたいと思って個人で色々と調べちゃいまして……」
「それで知っちゃったんだ。でもそれって結構難しいような気もするけど」
「奥様と旦那様が話してるのを……盗み聞きを。で、ですが、あれは本当にたまたまと言いましょうか」

 あたふたしながらも訂正しようとして空回るアイリスが可笑しくて、つい笑ってしまった。

「必死すぎ。なんで私がここに来たのか、わかる?」
「い、いえ。分かりません」
「そっか」

 私はアイリスの両頬に手を添えて、強引に視線を合わせる。

「アイリスが幸せなら何も言わなかった。けど、幸せそうに見えないから言わせてもらう。アイリスが私の幸せを願っているように、私もアイリスが幸せになることを願ってる。嫌なんじゃないの? 本当は結婚、したくないんだよね? 私がここに来たのは、アイリスの真意を確かめるため。それと私の気持ちも伝えるために来た」

 私の声……届いたのかな?

 不安になっていると、アイリスの目から一粒の涙が零れ落ちた。





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