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第十九章 心に封じられた記憶の闇
夢現
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夢を見た。
とても怖い夢を。
何で今まで忘れていたのだろう。私の……前世での取り返しのつかない罪を。
太陽が眩しさを感じさせ、同時に暑さで何もしなくても汗をかいてしまう。そんな真夏に何もかも記憶から消し去りたいと強く願った一日だった。
時刻は十九時。日が沈み、月が顔を出す時間帯。当時はまだ四歳だった私は物心がついたばかりだった。
好奇心も旺盛で見えるもの全てが新鮮だったんだ。それと同時に疑問もうまれてくる。
あれは何? これは何? あの人は何をしているの?
など、なんで? という疑問が次々に止めどなく溢れてくる。
そんな私が予想外な行動をして走り出さないようにと父は手をしっかりと握り、離さない。
私と父は銭湯帰り。家のお風呂が壊れてしまい、修理が終わるまでは銭湯に通いつめないとならなくなったんだ。
姉は塾に行っていて、母は姉の迎えだ。
いつもと変わらない銭湯の帰りのはず……だったんだ。
でも、いつもと違っていた。野良猫が道路の真ん中でコンクリートに背中を擦り付けていたのだ。
私は、野良猫を始めてきた興奮から父の手を振り払って駆け寄ってしまった。
まだこの頃は怖いもの知らずだった。だからこそ、車の怖さを知らずに無鉄砲にも左右確認せずに走ってしまった。
野良猫は私に気付くとすぐに体制を整えてから、頭を低く沈ませ、背中を丸ませて「シャー」という威嚇をしていたが、私はそれを威嚇だと思っていなかった。寧ろ可愛いという気持ちが先に出ていたように思う。
野良猫は威嚇に動じない私を見て、一目散に逃げていく。
行っちゃった……と、さっきまで野良猫が居た場所で立ち尽くしているとーー……ピッピーというクラクションの音が響き渡る。
突然、光に照らされ目を瞑る。それは、車のライトの光だった。眩しいぐらいの光に目を開けられなかった。ということは、もうすぐそこに車が接近しているという合図にもなる。
私は危機感が無かった。いや、知らなかったのだ。
車が接近しても焦ることはしなかった。だがーー「蛍!!!」と、父の声が耳元でうるさく響いたのだ。
私の名を呼ぶ声が。
次の瞬間には、父に思いっきり突き飛ばされ転んでしまった。
突き飛ばされてコンクリートに長打した膝からは血が滲み出ていた。痛みに声を上げて泣いた。
いつもならば泣いている私を見て、父は抱っこしてあやしてくれるはずなのに、いつまで立ってもうつ伏せのまま起き上がらない。
「パ……パ?」
何か変だと、幼いながらもそう感じてしまった。よく見ると父がいる所からは大量に血が溢れているでは無いか。
その時は、状況が分からずに泣き叫ぶだけだったが、後々になって気付いた。
ーーそう、私が父を殺したんだ。
そう思ったら、罪の重さに耐えられなくて私はその日の記憶を無意識に心の底に封じてしまった。
今思えば、母や姉と仲が悪くなったのもあの時期だった気がする。
父を轢いた運転手が何回も謝罪しに来たが、母がその度に追い返していたっけ。
ああ……そういえば、悪魔と接触した時の父は……もしかすると前世での私の父親だったのかもしれない。
「………さん、ごめ……なさい」
涙を流し、謝罪をしながら目を開ける。
そっと指で涙を拭いている人物と目が合った。
「あっ、起きた」
ニコッと優しく微笑むのは、アレン様だった。
これはどういうことだろう。だって私は今、横になっていて仰向けになっているのだから。
天井を背景にアレン様の顔が……???
まさか……、私は勢いよく起き上がると、グラッと視界が歪んだ。
「まだ起きない方が良い」
「……ご、ご迷惑お掛けしました」
アレン様に肩を抱かれ、支えられる。
そう、認めたくないが、私はさっきまでアレン様に膝枕されていて、寝ていたのだ。
しかも、夢まで見てしまうなんて……。しかも忘れてはいけなかった私の記憶が夢として思い出してしまうなんて……。
なんて、恐れ多いことをしているのだろう。アレン様を見ると、何故かとても嬉しそうだし……。
嬉しそう……? え、本当に??
微笑んでいて、嬉しそうに見える。けど……なんだか、悲しみや怒りを感じられる。
何故か、そんなイメージが伝わってしまう。
今いる場所……いや、廊下ではガヤガヤしていて騒がしくて気が散ってしまうのだが、この部屋は私とアレン様しかいないようだった。
それはそうだろうな。婚約者じゃないんだから、こんな……カップルがしてそうな事を人様の前では出来ない。
そもそも婚約者でも、人様の前でしたくないんだけどね。
この部屋は休憩室のようで、壁側にはちょっとした本棚。向かいあわせのソファとその真ん中にはテーブルが置かれていた。
そもそもなんで寝て……、確かアイリスが殺されそうでそれで魔力を使って……そっか、それで倒れたのか。
その後、どうなったんだろう。
私が倒れた後のことを聞こうとしたら、アレン様の違和感に気付いた。
「何かありました? その、怒ってますよね」
「え」
控えめに言ったつもりだったのだが、出てきた言葉がストレート過ぎてしまった。
アレン様は目を丸くして驚いた表情をしていた。
「……うん。そうだね、怒ってる、かな」
「それってもしかして、私に……? 絶対にそうですよね!!! だって私……何かしらやらかした自信しかないですもん!」
「ソフィア嬢、時には自分を信じてあげることも大切だよ」
「で、ですが」
アレン様は私の肩にを抱いたまま、手に力を入れて、自身に引いた。
力強く抱き抱えられて、身動きが取れない。
そういえば、前にも似たような事あったっけ。あの時よりはドキドキはしていない。
きっと……前世の自分が犯した罪を思い出してしまって、記憶と感情が混乱していて、何がなんだか分からない状態だからだ。
「怒ってるけど、ソフィア嬢にじゃない。自分自身にだ」
とても怖い夢を。
何で今まで忘れていたのだろう。私の……前世での取り返しのつかない罪を。
太陽が眩しさを感じさせ、同時に暑さで何もしなくても汗をかいてしまう。そんな真夏に何もかも記憶から消し去りたいと強く願った一日だった。
時刻は十九時。日が沈み、月が顔を出す時間帯。当時はまだ四歳だった私は物心がついたばかりだった。
好奇心も旺盛で見えるもの全てが新鮮だったんだ。それと同時に疑問もうまれてくる。
あれは何? これは何? あの人は何をしているの?
など、なんで? という疑問が次々に止めどなく溢れてくる。
そんな私が予想外な行動をして走り出さないようにと父は手をしっかりと握り、離さない。
私と父は銭湯帰り。家のお風呂が壊れてしまい、修理が終わるまでは銭湯に通いつめないとならなくなったんだ。
姉は塾に行っていて、母は姉の迎えだ。
いつもと変わらない銭湯の帰りのはず……だったんだ。
でも、いつもと違っていた。野良猫が道路の真ん中でコンクリートに背中を擦り付けていたのだ。
私は、野良猫を始めてきた興奮から父の手を振り払って駆け寄ってしまった。
まだこの頃は怖いもの知らずだった。だからこそ、車の怖さを知らずに無鉄砲にも左右確認せずに走ってしまった。
野良猫は私に気付くとすぐに体制を整えてから、頭を低く沈ませ、背中を丸ませて「シャー」という威嚇をしていたが、私はそれを威嚇だと思っていなかった。寧ろ可愛いという気持ちが先に出ていたように思う。
野良猫は威嚇に動じない私を見て、一目散に逃げていく。
行っちゃった……と、さっきまで野良猫が居た場所で立ち尽くしているとーー……ピッピーというクラクションの音が響き渡る。
突然、光に照らされ目を瞑る。それは、車のライトの光だった。眩しいぐらいの光に目を開けられなかった。ということは、もうすぐそこに車が接近しているという合図にもなる。
私は危機感が無かった。いや、知らなかったのだ。
車が接近しても焦ることはしなかった。だがーー「蛍!!!」と、父の声が耳元でうるさく響いたのだ。
私の名を呼ぶ声が。
次の瞬間には、父に思いっきり突き飛ばされ転んでしまった。
突き飛ばされてコンクリートに長打した膝からは血が滲み出ていた。痛みに声を上げて泣いた。
いつもならば泣いている私を見て、父は抱っこしてあやしてくれるはずなのに、いつまで立ってもうつ伏せのまま起き上がらない。
「パ……パ?」
何か変だと、幼いながらもそう感じてしまった。よく見ると父がいる所からは大量に血が溢れているでは無いか。
その時は、状況が分からずに泣き叫ぶだけだったが、後々になって気付いた。
ーーそう、私が父を殺したんだ。
そう思ったら、罪の重さに耐えられなくて私はその日の記憶を無意識に心の底に封じてしまった。
今思えば、母や姉と仲が悪くなったのもあの時期だった気がする。
父を轢いた運転手が何回も謝罪しに来たが、母がその度に追い返していたっけ。
ああ……そういえば、悪魔と接触した時の父は……もしかすると前世での私の父親だったのかもしれない。
「………さん、ごめ……なさい」
涙を流し、謝罪をしながら目を開ける。
そっと指で涙を拭いている人物と目が合った。
「あっ、起きた」
ニコッと優しく微笑むのは、アレン様だった。
これはどういうことだろう。だって私は今、横になっていて仰向けになっているのだから。
天井を背景にアレン様の顔が……???
まさか……、私は勢いよく起き上がると、グラッと視界が歪んだ。
「まだ起きない方が良い」
「……ご、ご迷惑お掛けしました」
アレン様に肩を抱かれ、支えられる。
そう、認めたくないが、私はさっきまでアレン様に膝枕されていて、寝ていたのだ。
しかも、夢まで見てしまうなんて……。しかも忘れてはいけなかった私の記憶が夢として思い出してしまうなんて……。
なんて、恐れ多いことをしているのだろう。アレン様を見ると、何故かとても嬉しそうだし……。
嬉しそう……? え、本当に??
微笑んでいて、嬉しそうに見える。けど……なんだか、悲しみや怒りを感じられる。
何故か、そんなイメージが伝わってしまう。
今いる場所……いや、廊下ではガヤガヤしていて騒がしくて気が散ってしまうのだが、この部屋は私とアレン様しかいないようだった。
それはそうだろうな。婚約者じゃないんだから、こんな……カップルがしてそうな事を人様の前では出来ない。
そもそも婚約者でも、人様の前でしたくないんだけどね。
この部屋は休憩室のようで、壁側にはちょっとした本棚。向かいあわせのソファとその真ん中にはテーブルが置かれていた。
そもそもなんで寝て……、確かアイリスが殺されそうでそれで魔力を使って……そっか、それで倒れたのか。
その後、どうなったんだろう。
私が倒れた後のことを聞こうとしたら、アレン様の違和感に気付いた。
「何かありました? その、怒ってますよね」
「え」
控えめに言ったつもりだったのだが、出てきた言葉がストレート過ぎてしまった。
アレン様は目を丸くして驚いた表情をしていた。
「……うん。そうだね、怒ってる、かな」
「それってもしかして、私に……? 絶対にそうですよね!!! だって私……何かしらやらかした自信しかないですもん!」
「ソフィア嬢、時には自分を信じてあげることも大切だよ」
「で、ですが」
アレン様は私の肩にを抱いたまま、手に力を入れて、自身に引いた。
力強く抱き抱えられて、身動きが取れない。
そういえば、前にも似たような事あったっけ。あの時よりはドキドキはしていない。
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