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39.天明 二
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「また来たよ」
明美は駅前に再び現れた。爽やかな好青年だ。その見た目と存在感が、石崎とは違う意味で人目を惹く。
明美は、待ち合わせでもしていたかのように自然に晴久の隣に座った。
「いっやー、結構探しちゃったよ。時間は同じでも、場所移動してると見つけるの大変。あー、ササイさんに会いたくない時って、やっぱり別の場所に逃げてた? 今日は気分じゃないんだよなーって 」
「いえ、そういうのは……」
色々答えにくい訊き方をしてくる明美も、石崎と同様意図的だと晴久は思っている。
「会えたら会うって気楽でいいよね。オレもお客君とそういうのしたい」
「そういうのって何ですか?」
「やだー、言わせるう?」
明美はいきなり晴久の腕をつかんで立ち上がらせると、向き合った状態で抱きついてきた。
周囲の通行人が一斉にギョッとするのがわかった。
明美の方が背が高いせいで、晴久は肩から取り押さえられる格好になり動けない。
「こういうの、やってみたかったんだよねぇ」
「いや、駅前でやらなくても……かなり見られています……けど」
晴久は緊張して、どうしていいかわからない。
「だって、一人じゃできないし。オレは見られるの好きだしぃ」
明美は晴久の耳元に唇を寄せた。
「君は、オレの運命の人なんだよ」
「わわっ、やめて……」
明美の声が濃く甘く晴久に染みていく。
「うわ、耳真っ赤。震えてるの? やだ、かわいいなあ。……ねえ、もっと、する?」
何コレ? 力が抜ける。
「いいなあ。ササイさん楽しそうだなー」
ヘタリ込む晴久の手首だけつかんだまま、明美は拗ねるように言った。
「石崎さん……こんなことしません。こんな……抱きついたりも、しません。僕じゃなくて、憲次郎さんとかで遊んで下さい」
「やだ。あいつデカ過ぎだし」
「あ……すみません」
晴久は言って後悔した。明美と憲次郎の複雑な関係を聞いているのに、今のは失言だったかもしれない。
「何? 気にしたの? 別にいいって。それくらいのこと気にしてたらずっと一緒にいないって。でも、謝るくらいなら最初から言わないでよねって思わない? あと、言ったら謝るなって。と、君には優しく言ってあげる」
「以後気をつけます……僕には優しく?」
「そ。君はなーんか、わかってくれる感じがするから。他の奴だったらぁ……他人が口出す問題じゃねーよ。って言う」
晴久は息を呑んだ。来た時からのテンションの高さで冗談のように笑っているが、その一瞬、明美は本心を見せた気がした。
怒気をはらんだ静かな声。実際にどれだけ言ったのか、どれだけ思ったのか、きっと何度も傷ついてきたのだろう。
青年の明美は、常にもろさが透けて見えた。
「あー、なんか楽しいなあ。コッチで普通に楽しいの、初めてかも。ササイさん、もう帰って来なくてもいいな」
「石崎さん、ずっといないんですか?」
「あれ? それも言わずにお預けで放置なの? ササイさん当分帰ってこないよ。放浪の旅してるから」
「はい?」
「仕事で不在なのは本当。でも、知りたかったら本人に訊くか自分で調べたら?」
「調べる……」
「そ。オレは教えてあげなーい。オレは今、お客君よりオレの方が知ってるぞっていう優越感で話しているだけだから。君は、ササイさんのこと知りたくないの?」
知りたい自分と、それを止める自分。晴久は、自分のモヤモヤとした思いをどう説明すれば良いのかわからなかった。
明美は駅前に再び現れた。爽やかな好青年だ。その見た目と存在感が、石崎とは違う意味で人目を惹く。
明美は、待ち合わせでもしていたかのように自然に晴久の隣に座った。
「いっやー、結構探しちゃったよ。時間は同じでも、場所移動してると見つけるの大変。あー、ササイさんに会いたくない時って、やっぱり別の場所に逃げてた? 今日は気分じゃないんだよなーって 」
「いえ、そういうのは……」
色々答えにくい訊き方をしてくる明美も、石崎と同様意図的だと晴久は思っている。
「会えたら会うって気楽でいいよね。オレもお客君とそういうのしたい」
「そういうのって何ですか?」
「やだー、言わせるう?」
明美はいきなり晴久の腕をつかんで立ち上がらせると、向き合った状態で抱きついてきた。
周囲の通行人が一斉にギョッとするのがわかった。
明美の方が背が高いせいで、晴久は肩から取り押さえられる格好になり動けない。
「こういうの、やってみたかったんだよねぇ」
「いや、駅前でやらなくても……かなり見られています……けど」
晴久は緊張して、どうしていいかわからない。
「だって、一人じゃできないし。オレは見られるの好きだしぃ」
明美は晴久の耳元に唇を寄せた。
「君は、オレの運命の人なんだよ」
「わわっ、やめて……」
明美の声が濃く甘く晴久に染みていく。
「うわ、耳真っ赤。震えてるの? やだ、かわいいなあ。……ねえ、もっと、する?」
何コレ? 力が抜ける。
「いいなあ。ササイさん楽しそうだなー」
ヘタリ込む晴久の手首だけつかんだまま、明美は拗ねるように言った。
「石崎さん……こんなことしません。こんな……抱きついたりも、しません。僕じゃなくて、憲次郎さんとかで遊んで下さい」
「やだ。あいつデカ過ぎだし」
「あ……すみません」
晴久は言って後悔した。明美と憲次郎の複雑な関係を聞いているのに、今のは失言だったかもしれない。
「何? 気にしたの? 別にいいって。それくらいのこと気にしてたらずっと一緒にいないって。でも、謝るくらいなら最初から言わないでよねって思わない? あと、言ったら謝るなって。と、君には優しく言ってあげる」
「以後気をつけます……僕には優しく?」
「そ。君はなーんか、わかってくれる感じがするから。他の奴だったらぁ……他人が口出す問題じゃねーよ。って言う」
晴久は息を呑んだ。来た時からのテンションの高さで冗談のように笑っているが、その一瞬、明美は本心を見せた気がした。
怒気をはらんだ静かな声。実際にどれだけ言ったのか、どれだけ思ったのか、きっと何度も傷ついてきたのだろう。
青年の明美は、常にもろさが透けて見えた。
「あー、なんか楽しいなあ。コッチで普通に楽しいの、初めてかも。ササイさん、もう帰って来なくてもいいな」
「石崎さん、ずっといないんですか?」
「あれ? それも言わずにお預けで放置なの? ササイさん当分帰ってこないよ。放浪の旅してるから」
「はい?」
「仕事で不在なのは本当。でも、知りたかったら本人に訊くか自分で調べたら?」
「調べる……」
「そ。オレは教えてあげなーい。オレは今、お客君よりオレの方が知ってるぞっていう優越感で話しているだけだから。君は、ササイさんのこと知りたくないの?」
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