転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました

高瀬ゆみ

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番外編

転生令嬢、元婚約者に呼び出される

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※ストレス展開がありますので、ご注意ください。





(……どうしてエドワード様からお茶会に招待されたのかしら?)

私は届いた招待状を凝視する。
それ自体は何の変哲もないただの手紙。
エドワード様の婚約者だった時は、月に一度は必ず同様の招待状が届いていた。
エドワード様に愛想を尽かされないように、婚約破棄をされないようにと、気を配りながら彼と談笑していたことを思い出す。

正義感に溢れた優しい彼を、ずっと好意的に思っていたけれど……

(さすがに信じられないわ。エドワード様から婚約を破棄しておいて、どういうつもりなの?)

しばらくじーっと招待状を見つめていた私は一つ溜息をつくと、父を通して断りの連絡をするべく立ち上がった。



――確かに断った筈なのに……

私は王宮の庭園に用意された席に着き、内心溜息をついた。
白いクロスがかけられたテーブルには、イスが四脚用意されている。
うち、二脚は私とエドワード様の分。
あと二脚は……
そこまで考えて、私は隣に座る人物にチラッと目を向けた

私の隣ではルシフェル様が美しい姿勢で席に着いている。
真っ直ぐに前を向いた横顔は人形のように整っていて、日の光を浴びて白金の髪がキラキラと輝く。
一見落ち着いているように見えるけど、実際は全然違う。
ルシフェル様の苛立ちを肌で感じて、こんなに暖かいのに寒気がした。

(早く帰りたい……)

どうしてこんなことになってしまったんだろう。
父は確かに断りの返事をしてくれた。
でも、国王陛下から話しだけでも聞いてほしいと頼まれて、受けざるを得なかったそうだ。

思い出してみると、確かに国王陛下はエドワード様に甘いところがある。
国王になるべく厳格に育てられた王太子殿下と比べて、第二王子のエドワード様は剣技に長けていたこともあり、本人がしたいことをすればいいと自由にさせていた。
長年、共に妃教育を受けていた現王太子妃であるクリスティーナ様も、『陛下はエドワード殿下の真っ直ぐな性格を好まれているようですわ』と困った顔で笑っていた。

そうやって考えていくと、婚約中は見ていなかったエドワード様の一面が見えてくる。
前世で読んだマンガの影響もあって、正義感に溢れた男気ある真っ直ぐな人だと思っていたけれど、裏を返せば違った見方があるのかもしれない……

そういえば、『救国の聖女』の中でエドワード様は王子なのに魔王討伐の一員になっている。
マンガを読んでいた時は気にもしなかったけど、兄がいるとは言え普通第二王子が魔王を倒す旅に出るだろうか。
周囲の忠告を無視して、ミキちゃんのために突き進んだエドワード様の姿が頭に浮かんで、私は嫌な想像をかき消すように頭を振った。

(今は、お茶会を乗り切ることだけ考えないと)

隣に座るルシフェル様の邪悪な気配を感じながら、父からお茶会に出席してほしいと言われた時のことを思い出す。
その話を一緒に聞いていたルシフェル様の顔ときたら……
一瞬見えた彼の顔が怖すぎて、私はそれ以上横を向くことが出来なかった。

『排除しますか……』

話の途中、ボソッと呟いたルシフェル様の言葉が聞こえてしまって、私はエドワード様の安否を本気で心配した。
もともと招待されていたのは私一人だったけれど、ルシフェル様に同席してもらうことを条件に、何とかその場を乗り切ったのだ。


そんな、私に精神的負荷を与えたエドワード様は、凛々しい顔で颯爽とやって来た。
黒髪に茶色の瞳のエドワード様は、男らしいキリッとした顔立ちをしている。
カラー表紙で白金の髪のルシフェル様と並ぶと、対になっているようでとても素敵だった。
今日は黒地に金の装飾が着いた、軍服をモチーフにした格好をしていた。

そして、エドワード様の隣にいるミキちゃんを見つけて、現金な私は思わずテンションが上がってしまった。

(ミキちゃんだ……!)

『救国の聖女』で見ていたミキちゃんが、目の前にいる。
前世で大好きだったマンガのヒロインが、私の目の前で動いている。

マンガで見た聖女の服装と異なりドレスを着たミキちゃんは、エドワード様の隣で気まずそうな顔をしていた。
そんなミキちゃんの手を引いて優しくリードするエドワード様。
二人並んだ姿は、まさに『救国の聖女』の世界そのものだった。

マンガの大ファンだった私は、ヒロインの登場に感激してしまって慌てて気を引き締めた。
今の私は、マンガの読者ではなく、エドワード様から婚約破棄された元婚約者として参加している。

(……そう考えると、元婚約者の前で随分仲睦まじげじゃない?)

不審に感じながら二人を見つめる。
私とルシフェル様が立ち上がり二人の到着を待つと、向かい合ったエドワード様が口を開いた。

「今日は無理を言ってすまなかった。お二人はミキと会うのは初めてだね」

そう言ってミキちゃんを紹介したエドワード様は、続いて私たちの紹介をした。

「彼女はフィーネ・ブルックベルク侯爵令嬢。そして隣の彼は、彼女の義弟のルシフェル・ブルックベルク侯爵子息だ」

エドワード様からの紹介を受けて礼を執る。
『義弟』という言葉にピクッと眉を動かしたルシフェル様は、すぐに表情を戻してにこやかに挨拶をした。

席に着いた私たちは、自然と今回の主催者であるエドワード様に目を向ける。
エドワード様は力強い眼差しで真っ直ぐ私を見つめると、頭を下げて謝罪した。

「フィーネ嬢には本当に申し訳ないことをした。私たちの婚約は政治的なものだったが、献身的な貴方は王子妃に相応しい、素晴らしい令嬢だった」

何と返すべきか分かりかねて、困ったように微笑む。
いくら社交辞令を言われたところで、結局他の女性を選んだ人に言われても全く心に響かない。

「ただ、私はミキと出会ってしまった。一目見て、彼女は私の特別だと気付いた。運命とはこういうものだと、ミキと会って知ったんだ」

「……」

……私は今、何を聞かされているんだろう。
前世で『救国の聖女』を読み、ミキちゃんとエドワード様の恋にときめいた私ですら、元婚約者に聞かせる話ではないと思う。

思わず冷めた目を向けてしまった私に、気付いていない様子のエドワード様は痛ましげな顔で私を見つめた。

「私たちが愛を貫いた結果、非のない貴方には悪いことをした」

「――それで、今回は謝罪のために呼ばれたのですか?」

ルシフェル様が冷静に尋ねる。
彼の言葉からは、婚約破棄から一ヵ月も経って今更? という感情が滲んでいた。

「いや……それもあるが、それだけではない」

ルシフェル様の言葉を聞いて少し詰まったエドワード様は、一度視線を逸らした後、再び真っ直ぐ私たちを見た。

「実は――私たちの結婚に向けて、フィーネ嬢に協力してほしいんだ」

(……はい?)

聞き間違いかと思ったけれど、どうもそうではないらしい。

――婚約破棄した相手に向かって、一体何を言ってるの!?

真剣な顔でこちらを見るエドワード様と、気まずそうに顔を俯かせたミキちゃんを見ながら、私は頬をひくつかせた。




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