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番外編
転生令嬢、元婚約者から贈り物が届く
しおりを挟む王宮でのお茶会から数日後――
エドワード様から送られてきたモノを見て、私は固まった。
「……」
見間違いかと思って何度も確認したけれど、彼らは変わることなく穏やかに微笑んでいる。
執事が大きな包みを持ってやって来た時、私は部屋で手紙を書いていた。
腕に抱える程の大きなそれがエドワード様からの贈り物だと聞いて、私は眉を顰めた。
婚約者だった時ならまだしも、エドワード様とはもう何かを贈り合うような仲ではない。
開封しないで返すのは失礼にあたるため、執事には中身だけ確認してエドワード様に送り返すよう伝えた。
私の指示に頷いて一度は退室した執事が、困惑顔で戻ってきてテーブルの上に置いていったのがコレだった。
『殿下にお返しする前に、一度お嬢様に見ていただきたいと思いまして……』
途中で言葉を濁した執事は、そう言って静かに部屋を出て行った。
もしかしたら父に報告しに行ったのかもしれない。
例えばこれが、女性が喜びそうなアクセサリーやドレスといった、ミキちゃんとの婚約を認めてもらうための賄賂だったらまだ可愛げがあった。
嬉しいとは思わないし、品物は受け取らずに送り返してしまうけど、まだ誠意は伝わったと思う。
(――でも、これはナイわ……)
エドワード様から送られてきたのは、額縁に入った姿絵だった。
それも、婚約者がいない未婚の子息の姿絵だけが、何枚も。
姿絵と共に同封されていた手紙には、『ぜひ貴方の力になりたい』と書かれていた。
――つまり、これは……
「私に新しい婚約者を見繕ってあげるよ、ってこと!? 嘘でしょ!?」
思わず大きな声が出てしまい、慌てて自分で口を塞ぐ。
声を聞き付けてルシフェル様が来てしまったら、面倒なことになりかねない。
(えっ、でも本当にどうして? エドワード様とミキちゃんが早く婚約できるように協力を求められて、協力の約束なんてできないって突っぱねて……それがどうして私の婚約者の話になるの!?)
訳が分からない。
お茶会でそんな話ししていただろうか。
でも、婚約者ならルシフェル様がいる。
エドワード様との婚約を解消して間もないこともあり、まだ正式な婚約者ではないけれど、いずれそうなることは父だって認めている。
だから私が婚約者を探しているなんて話は出るはずがない。
私はお茶会での出来事を思い出す。
思い出すといっても、一方的に向こうの要求を告げられただけで、こちらからは大した話はしていない。
ルシフェル様がエドワード様の言動を非難したくらいだ。
それだけではどうして姿絵に繋がるのかが分からなくて、ぐるぐると部屋の中を歩きながら考える。
私が、エドワード様に言ったこと……
「――まさか……」
帰り際、エドワード様に言い放った言葉を思い出す。
『申し訳ございませんが、殿下がおっしゃる協力のお約束は出来かねます。私は、殿下に婚約を破棄された身。そのことをよくお考えくださいませ』
私は、『貴方とは婚約破棄してるんだから、もう関わってこないでよね!』という思いでエドワード様に告げた。
でも、エドワード様は、『貴方に婚約破棄されて、貴方と違って私は次の相手がいないんだからね! 分かってる!?』……そう言われたとでも思ったのだろうか。
そして誤解した結果が、この姿絵。
この中から気になる人がいれば、自分の力で縁を結んであげるよと、そういうことだろうか。
「嘘でしょ……」
信じられない発想に呆然となる。
エドワード様からしたら、婚約破棄した罪を新たな婚約者を見繕うことで償おうとしているのかもしれない。
それが彼の優しさで、男気なのかもしれない。
でも……
「元婚約者から別の男を充てがわれるなんて、私は嫌だわ」
むしろ喜ぶ人の方が少ないと思う。
エドワード様の考えが理解できないと感じた時、私は唐突に悟った。
このままじゃダメだ。
エドワード様とミキちゃんを放っておいたら、二人が引き起こすトラブルに巻き込まれて大変なことになってしまう。
それでなくても、私にはルシフェル様の手綱を握るという大きな課題があるのに、これ以上問題を増やしたくない。
(今の私に必要なのは、対抗するための情報と、味方になってくれる人……)
考えながら私は机に向かう。
先ほどまで書いていた手紙をぐしゃりと握り潰すと、再びペンを取った。
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