転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました

高瀬ゆみ

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番外編

転生令嬢、聖女と女子会をする 1

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正直なところ、エドワード様とミキちゃんが婚約することについては何の文句もない。
ミキちゃんが聖女として召喚された時点で、そうなることは予想がついていた。

でも、二人の婚約を認めるとなると話は別だ。
私の考えだけで軽はずみに行動することはできない。

もし私が認めたら、エドワード様とミキちゃんが結ばれることを快く思っていない人たちを敵に回すことになる。
そういう人たちが大多数であれば、空気が読めないレッテルを貼られてしまう。
考え過ぎのように聞こえるけれど、派閥や貴族間の交流を大切にする貴族にとっては大切なこと。

前世の記憶を持っていると、貴族のこういうところは本当に面倒だと思う。
でも、そういう社会だから仕方がない。

(『貴方の行動が殿下の評価に繋がる。よく考えて行動しなさい』って、妃教育でずっと言われ続けていたから余計にそう思うのかな……)

彼らの婚約を認めるかどうか判断するためには情報が足らない。
そう感じた私は、『救国の聖女』のヒロインであるミキちゃんと会って話を聞くことにした。

初めてミキちゃんに会ったお茶会の場では、ずっとエドワード様が喋っていて彼女が何を考えているのか分からなかった。
私が覚えているのは、申し訳なさそうな顔をしたミキちゃんの姿だけ。
エドワード様はミキちゃんのことが大好きなあまり暴走していたけれど、もしかしたらミキちゃんは違った考えを持っているのかもしれない。

そうであってほしいと思いながら神殿に向かう。
ルシフェル様は相変わらず私の外出を管理しているので、前もってお友達に会いに行くと伝えてある。
……嘘ではない。
ただ、そのお友達と神殿で会うというだけ。


私が神殿に着くと、既に一台の馬車が停まっていた。
私の到着に合わせて、馬車からドレスを着た女性が降りてくる。

「フィーネ様、ごきげんよう」

「クリスティーナ様」

私が彼女の名前を呼ぶと、大きなウェーブのかかった豊かな金髪の美人が微笑んだ。

「お久しぶりでございます。突然お誘いして申し訳ございません」

「いいのよ。私も、彼女には興味を持っていたの」

そう言ってクリスティーナ様は微笑む。

ミキちゃんと会って話をするにあたって、私は王太子妃であるクリスティーナ様に声を掛けていた。
もし、ミキちゃんがエドワード様と結婚したら、クリスティーナ様にとってミキちゃんは義弟の嫁になる。
彼らの婚約の行方は他人事じゃないだろう。
今回話す機会を設けたことで、ミキちゃんからだけでなくクリスティーナ様の考えも聞けたらと思っていた。

(それに、クリスティーナ様がいれば心強いし)

生家が公爵家のクリスティーナ様とは幼い頃から交流がある。
出会った時は王太子殿下の婚約者だった三つ年上の彼女は、五年前に結婚して王太子妃になった。
そして、今では三歳と一歳の息子がいる二児の母でもある。

「クリスティーナ様は、聖女様とお会いしたことがあるのですか?」

「ええ。エドワード殿下が王宮に連れていらした時に、一度ね」

優雅な仕草で頬に手を当てたクリスティーナ様は、悩ましげに眉根を寄せると、ふぅっと小さく息をついた。

「とても可愛らしい方なのだけど、如何せん育ちがねぇ」

「育ち、ですか?」

「貴方も会えば分かるわ」

貴族令嬢の鑑のような、慈愛に満ちた美しい笑みを浮かべたクリスティーナ様は、「そろそろ行かないとお約束の時間に遅れてしまうわね」と言い、神殿に向かって歩き始めた。
その一歩後ろを歩きながら、私は内心首を傾げる。

(育ちって……どういうこと? マンガの中では、ミキちゃんはごく普通の高校生だったはずだけど)

神殿に入ると、神官が私たちを迎え入れた。
案内された応接室には、既にミキちゃんと神官長が中で待っていた。

「本日はようこそお越しくださいました」

神官長が穏やかな笑みを浮かべて私たちを歓迎する。
『救国の聖女』としてこの国に召喚されたミキちゃんは、今神殿に保護されている。
神殿で暮らしながら、ミキちゃんが持つ聖女の力がどんなものなのか調べているのだという。
今日はミキちゃんと話す機会を設けていただくにあたり、神官長にも部屋の中にいてもらうようお願いしてある。

神官長に促されて、少し緊張した顔のミキちゃんが挨拶をした。
今日のミキちゃんは、修道服をモチーフにしたような格好をしている。
頭に真っ白なベールを被り、足首まである丈の長い白いワンピースを着たミキちゃんは、清楚な感じがとっても可愛い。

ローテーブルを挟んで二つ並んだ三人掛けのソファーに、私とクリスティーナ様、反対側にミキちゃんが座る。
神官長は同席を辞退して、入り口近くで控えている。

知り合いだったのか、お茶を運んできた人に「ありがとう」と言ってニコッと笑ったミキちゃんは、性格の良さを感じさせた。
神官長や他の人たちとも仲が良いようだし、人に好かれる性格をしているんだろう。

――でも……

ミキちゃんが両手でティーカップを持つのを見た瞬間、思わず眉を顰めてしまった。




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