さようなら、あなたとはもうお別れです

四季

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中編

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「ねーえーアセイン、この地味な人だぁれー?」

 アセインの片腕を両手で包むように抱きながら、女性はそんな問いを放った。
 名を入れてしまっているあたり残念としか言い様がない。彼女の発言は、完全に、別人を演じようとしているアセインの足を引っ張っている。

「おいっ!」
「えー、なになにー?」
「言うなよ!」
「はぁ? 何いきなり偉そうなこと言い出してるわけ?」

 アセインは隣の女性と喧嘩を始める。
 まるで見せつけているかのようだ。

 ……いや、きっと、見せつけるつもりはないのだろう。アセインとて、さすがにそこまで愚かではないはずだ。でも……見せつけているわけではない、という根拠があるわけでもない。見せつけているわけではないのだろう、なんて、できればこうであってほしいという私の願望でしかないのだ。願望は何をどうしても願望、それ以上の何物でもない……。

「アセインさん。お伝えしたいことがあります」

 この時の私の心は不自然なほどに澄み渡っていた。
 こんな心境になったのはいつ以来だろう、と思うくらい。

 夢みていたものはすべて壊れた。いや、現時点ではまだ壊れてきってはいないが。けれどももう九割がた壊れている。婚約がどうなったとしても、きっともう、かつてのようには戻れないだろう。

「なっ……何だい?」
「どうか、そちらの方と幸せになってください」
「え? えっ?」
「私との婚約は破棄ということで構いませんので」

 虚しさ、苦しさ、悲しさ。多くのものが渦巻く胸の内にも、光がないわけではない。彼の異変の理由が判明したこと、それは一筋の光。何とも言えぬ爽やかさが少しばかりある。

「さようなら、アセインさん。……以降は、手続きの場のみで」
「えっ、ええっ、えええっ!?」

 きっともう私のことは好きではないのだろう。いや、好きか嫌いかなら好きと言うのかもしれないけれど。でも、その好きはかつての好きとは違うのだ。かつての私を愛してくれていた彼は、もういない。この世に存在しない。

 だから別れよう。

 傷が大きくなる前に、お別れするのだ。
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