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第二部
三十九話 円盤のイラム 中②
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ライラの話で俺もうっかり忘却しかけていたオズワルドのことを思い出した。
「うん、あのね、俺を押さえ込んでた相手は座長じゃないけど、そもそも俺もしたくて抱きついてた訳じゃなくてあの時は仕方なく、嫌々だったのね。そこ大事なポイントだから間違えないで。そんであいつのことは忘れてても仕方ないからもう気にしないで。全部あいつが悪い」
あの時のことを思い出した俺は、あれがヘタレ王子の愚かな演技だったと分かっていても少し腹が立ち、誤解を丁重にねじ伏せた。
ライラはまだ首を傾げて俺の顔を見ていたが、俺は笑顔で彼女に頷く。
「とにかく、昨日二人に会ったのは確かに俺だよ。こんなところでまた会うことになるなんて世の中狭いよね」
作り笑いをして無理矢理話の軌道を修正したとき、四阿の外から声がかかった。
侍女を連れてきたマスルールが立っていて、俺たちが話をやめたのを見ると中に入ってきた。
「侍女を呼びました。侍女を付けられた方は、基本的に鈴園の中では侍女と行動を共にしてください。それから、皆昼食を取り損ねているでしょうから、簡単にお持ちしました」
彼がそう言うと、地味な辛子色の民族衣装を着た三人の侍女が手にお盆を持って後ろから入ってきてテーブルに食事を並べた。
確かに朝部屋で食べて以来何も食べていない。もう夕方が近かったがそれどころじゃなかったので、あまり空腹を感じていなかった。皆もそうだったようで、言われてそう言えばという顔をして料理を眺めていた。
「鈴園の中では基本的に食事は正殿に用意することになっていますが、今回は陛下も候補者と食事を共にするつもりはないでしょうから、朝と夜はそれぞれの鈴宮に運ぶことにします。昼は鈴宮の中にも簡単な食材は置いておきますので、ご自分で済ませていただいて構いません」
皆がとりあえずといった様子でパンや果物を食べ始めたので、俺も適当に乾燥したフルーツが練り込まれたパンを手に取ってもそもそ食べた。
この中に何日もいるつもりは無いんだが、それでも食事は運んでくれるようなのでありがたい。
三人の侍女のうち、一人はルシアと一緒に来ていたサラで、もう二人は初めて見る顔だった。一人は艶のある茶色の髪の若い女性で、食事をテーブルに並べ終わったらロレンナのところに近寄って何か話している。彼女がイリアという侍女だろう。
もう一人は穏やかそうな雰囲気の年配の女性で、同じように食事を並べた後リリアンにお辞儀をして挨拶していた。恐縮したふうのリリアンが手を前に出して慌てていたが、自分と同じようにおっとりした感じの女性で安心したのか二人はすぐに打ち解けたように見えた。
「明日は、陛下が試験を始めると言っていましたから、朝それぞれの鈴宮で朝食を済ませた後、鈴園の鐘が鳴ったら広場にお集まりください」
マスルールが立ったまま明日の説明をしている横で、イリアが俺たちの前に茶器を配って茶を入れた。すっとするような匂いのある緑色の温かいハーブティーのように見える。皆の興味が茶に移ったので、ロレンナがマスルールの話の合間に口を挟んだ。
「私が趣味で調合しているハーブティーです。皆さんお疲れのことと思いますので、どうぞお召し上がりください。疲労に効きます」
ハンドペイントなのかティーカップは鮮やかな色で描かれた鳥と植物のクラシカルな模様で面白い。お茶を口に含むと匂いの通りに喉の奥がすっとする爽やかな味わいだった。皆も興味深げにカップを手に取っている。
兄と同じでさり気ない気遣いができるところが優秀だ。表情は硬いが、ロレンナは女性らしい気の回し方をするし、こんなに有能な妃候補を持ててアシュラフ皇帝は恵まれている。彼があんな傍若無人でなければ、呪いの制約があったとしてもラムルの将来は安泰だっただろうに。
「それでは、夜の食事は鈴宮に運びます。宮の中は簡単に見て回りましたが、不足があれば対応しますので申し出てください」
マスルールが締めの言葉を言った時、ライラが手を上げた。
「あの、夜はライルと一緒に寝てもいいですか? 知らないところで一人で寝るのは不安で」
心細そうな顔をしたライラを見て少し考える顔になったマスルールは頷いた。
「二人は姉妹なので良いでしょう。陛下もまさかお二人を訪れることはないと思います」
そう言ってから、彼は皆を見回してついでのように付け足して言った。
「皆さんにお伝えしますが、陛下の様子からはそんな気はないと思いましたので説明を省きましたが、もし夜に陛下が鈴宮を訪ねて来られたら、基本的には中にお通ししてください」
急に爆弾が投下された。
ロレンナ以外は皆ぎょっとした顔でマスルールを見上げる。
俺も思わず彼を二度見した。
は?
どういうこと?
夜に来たらって、つまりそういうこと?
夜這いに来たらってこと?
この眼鏡、正気か?
凍りついた四阿の空気に眉を寄せたマスルールが、「そういうことではなく」と言葉を切って訂正する。
「しきたりとして訪問された場合は中に入れると決まっておりますが、話をされるだけです。妃として鈴女が選ばれるまでは陛下と寝所を共にするようなことはありませんのでご安心ください。妃が決まる前にそのようなことになると、妊娠した場合に世継ぎの問題が生じてしまうため定めにより禁じられています。側妃を娶る場合も、必ず正妃が決まった後です」
そう言った彼の説明を聞いて、凍っていた空気が少し和らいだ。
ほっとした顔になったルシア達に、マスルールが生真面目な顔で話を続ける。
「皇帝が訪れるということは、その候補者と二人で話をして人となりをよく知りたいということです。決まりの通りであれば、陛下は話をしてから帰られるはずです。ですが、今の陛下の様子では何が起こるか分かりませんので、もし万が一陛下が規則を無視して無理強いするようなことがあれば……」
そこまで話してマスルールは言葉を止めた。
するようなことがあれば、なんだよ。
皆の心が一つになってそう内心で突っ込んでいたと思うが、しばらく考えてから彼は俺たちを見回した。
「正直、そこまで考えておりませんでした。陛下は妃選びに興味がある訳ではないと思いますので、そんなことは起こらない、と思ってください」
「ちょっと! ちょっと待って! それはリスク管理としてどうなんだ?!」
思わず大声で突っ込んでいた。
妃選びに興味がないっていうのは宰相のお爺さんも言ってたが、その確信はなんなんだ。
俺のところに来ることは億が一ないと思うが、ルシアやリリアンはもしそんなことになったら誰が責任取るんだよ!
そんなことは起こらない、で済んだら世の中には天災も人災も生まれないんだ。俺は年長者として二人の安全を守る義務があるんだから曖昧にはさせないからな!
俺に横槍を入れられてまた眉を寄せたマスルールは訝しげな顔をした。
「貴方のところには、本当に行かれないと思いますが……」
「わかってるわ!! 俺のところに来たら俺だって驚きだわ! そういうことじゃなくて、女の子達のところでそうなったらまずいだろって言ってんの!」
全力でツッコミを入れるとマスルールはまた難しい顔をして、皆を見回した。
「それでは……万が一そのようなことが起こった場合は、鈴を鳴らしてください」
「鈴を鳴らす?」
俺の疑問に彼は頷いた。
「それぞれの鈴宮の中には、銀色の鈴があります。体調を崩した時などに鈴園の管理者を呼びたい時に使うものですが、万が一の時はその鈴を鳴らしてください。管理者は本来ダーウード様ですが、あの方は一人ではイラムに入れないので親の鈴は私が持つことにします」
鈴園の管理者を呼べる便利な道具があるらしい。
それなら少しは安心かもしれない。
女性陣の空気がいくらか緩んだので、俺もほっとした。
「鈴が鳴ったら鈴宮に向かいますが、陛下が相手では私も勝てるかはわかりませんので確約は出来ませんが善処はします」
その不穏な一言は余計だな。
俺が半目で非難の眼差しを送ると、マスルールはそれに気付かず軽くため息を吐いた。
「それ以外でも、もし鈴園で不測の緊急事態が起きた場合は誰かが鈴を鳴らしてください。典礼の間は私はイラムの下の層で寝泊まりしますので」
そう言ってから、彼は「それでは明日はお願いします」と無表情に告げて疲れた様子で四阿から出て行った。彼はアシュラフ皇帝の従兄弟だから皇族のはずだけど、あの言い方だと普段はイラムには住んでいないんだろうか。事情は分からないが。
残された俺たちは食事も終わってようやく一息つく。
「皆さまお疲れでしょうから、ひとまずそれぞれの鈴宮でお休みください。食事は後で侍女達が運びます」
ロレンナが声をかけてくれたので、鈴宮に向かうことになった。
食事の皿を片付ける侍女三人を手伝い、おそらくマスルールが持ってきたのであろう大きなお盆を俺が持った。卵があって持ち辛いが、持てないことはない。少しの間ならスカーフがぶらぶらしても大丈夫だろう。
「私達でいたしますので、気になさらないでください」
「大丈夫です。一度に持って行った方が皆さんも担当する方と一緒に鈴宮に入れるじゃないですか」
恐縮して声をかけてきたイリアにそう答えて無理矢理全ての食器を乗せてしまう。ルシア達もそれを見て手を出してきて、籠や水差しなどを皆で一緒に持って最初に転移してきた鐘まで運んだ。
「こちらに置いてください。後でマスルール様が来られたら一度に運びますので」
と言われて鐘の側に設置された荷台にお盆を乗せる。荷物の行き来はこうするのか。
鐘の場所に戻ったので、それぞれの鈴宮をもう一度ロレンナと確認してから解散した。さすがに皆疲れた顔をしている。俺も昨日から休みなく押し寄せてくる受難のコンボで疲れた。
これだよな。
占い師のお婆さんが言ってたのは、これだ。
予想以上の受難だったな。回避したくても抗う隙もなかったぞ。
「レイナルド様」
別れ際に、ルシアがこそっと俺に近寄ってきた。
「後でそちらに行ってもいいですか。さっきの話の続きを」
「うん。そうしよう。ルシアも疲れてるのにごめんね」
頷いてそう言うと、ルシアはにこっと笑って手を振った。
「大丈夫です。それではまた」
「うん、あのね、俺を押さえ込んでた相手は座長じゃないけど、そもそも俺もしたくて抱きついてた訳じゃなくてあの時は仕方なく、嫌々だったのね。そこ大事なポイントだから間違えないで。そんであいつのことは忘れてても仕方ないからもう気にしないで。全部あいつが悪い」
あの時のことを思い出した俺は、あれがヘタレ王子の愚かな演技だったと分かっていても少し腹が立ち、誤解を丁重にねじ伏せた。
ライラはまだ首を傾げて俺の顔を見ていたが、俺は笑顔で彼女に頷く。
「とにかく、昨日二人に会ったのは確かに俺だよ。こんなところでまた会うことになるなんて世の中狭いよね」
作り笑いをして無理矢理話の軌道を修正したとき、四阿の外から声がかかった。
侍女を連れてきたマスルールが立っていて、俺たちが話をやめたのを見ると中に入ってきた。
「侍女を呼びました。侍女を付けられた方は、基本的に鈴園の中では侍女と行動を共にしてください。それから、皆昼食を取り損ねているでしょうから、簡単にお持ちしました」
彼がそう言うと、地味な辛子色の民族衣装を着た三人の侍女が手にお盆を持って後ろから入ってきてテーブルに食事を並べた。
確かに朝部屋で食べて以来何も食べていない。もう夕方が近かったがそれどころじゃなかったので、あまり空腹を感じていなかった。皆もそうだったようで、言われてそう言えばという顔をして料理を眺めていた。
「鈴園の中では基本的に食事は正殿に用意することになっていますが、今回は陛下も候補者と食事を共にするつもりはないでしょうから、朝と夜はそれぞれの鈴宮に運ぶことにします。昼は鈴宮の中にも簡単な食材は置いておきますので、ご自分で済ませていただいて構いません」
皆がとりあえずといった様子でパンや果物を食べ始めたので、俺も適当に乾燥したフルーツが練り込まれたパンを手に取ってもそもそ食べた。
この中に何日もいるつもりは無いんだが、それでも食事は運んでくれるようなのでありがたい。
三人の侍女のうち、一人はルシアと一緒に来ていたサラで、もう二人は初めて見る顔だった。一人は艶のある茶色の髪の若い女性で、食事をテーブルに並べ終わったらロレンナのところに近寄って何か話している。彼女がイリアという侍女だろう。
もう一人は穏やかそうな雰囲気の年配の女性で、同じように食事を並べた後リリアンにお辞儀をして挨拶していた。恐縮したふうのリリアンが手を前に出して慌てていたが、自分と同じようにおっとりした感じの女性で安心したのか二人はすぐに打ち解けたように見えた。
「明日は、陛下が試験を始めると言っていましたから、朝それぞれの鈴宮で朝食を済ませた後、鈴園の鐘が鳴ったら広場にお集まりください」
マスルールが立ったまま明日の説明をしている横で、イリアが俺たちの前に茶器を配って茶を入れた。すっとするような匂いのある緑色の温かいハーブティーのように見える。皆の興味が茶に移ったので、ロレンナがマスルールの話の合間に口を挟んだ。
「私が趣味で調合しているハーブティーです。皆さんお疲れのことと思いますので、どうぞお召し上がりください。疲労に効きます」
ハンドペイントなのかティーカップは鮮やかな色で描かれた鳥と植物のクラシカルな模様で面白い。お茶を口に含むと匂いの通りに喉の奥がすっとする爽やかな味わいだった。皆も興味深げにカップを手に取っている。
兄と同じでさり気ない気遣いができるところが優秀だ。表情は硬いが、ロレンナは女性らしい気の回し方をするし、こんなに有能な妃候補を持ててアシュラフ皇帝は恵まれている。彼があんな傍若無人でなければ、呪いの制約があったとしてもラムルの将来は安泰だっただろうに。
「それでは、夜の食事は鈴宮に運びます。宮の中は簡単に見て回りましたが、不足があれば対応しますので申し出てください」
マスルールが締めの言葉を言った時、ライラが手を上げた。
「あの、夜はライルと一緒に寝てもいいですか? 知らないところで一人で寝るのは不安で」
心細そうな顔をしたライラを見て少し考える顔になったマスルールは頷いた。
「二人は姉妹なので良いでしょう。陛下もまさかお二人を訪れることはないと思います」
そう言ってから、彼は皆を見回してついでのように付け足して言った。
「皆さんにお伝えしますが、陛下の様子からはそんな気はないと思いましたので説明を省きましたが、もし夜に陛下が鈴宮を訪ねて来られたら、基本的には中にお通ししてください」
急に爆弾が投下された。
ロレンナ以外は皆ぎょっとした顔でマスルールを見上げる。
俺も思わず彼を二度見した。
は?
どういうこと?
夜に来たらって、つまりそういうこと?
夜這いに来たらってこと?
この眼鏡、正気か?
凍りついた四阿の空気に眉を寄せたマスルールが、「そういうことではなく」と言葉を切って訂正する。
「しきたりとして訪問された場合は中に入れると決まっておりますが、話をされるだけです。妃として鈴女が選ばれるまでは陛下と寝所を共にするようなことはありませんのでご安心ください。妃が決まる前にそのようなことになると、妊娠した場合に世継ぎの問題が生じてしまうため定めにより禁じられています。側妃を娶る場合も、必ず正妃が決まった後です」
そう言った彼の説明を聞いて、凍っていた空気が少し和らいだ。
ほっとした顔になったルシア達に、マスルールが生真面目な顔で話を続ける。
「皇帝が訪れるということは、その候補者と二人で話をして人となりをよく知りたいということです。決まりの通りであれば、陛下は話をしてから帰られるはずです。ですが、今の陛下の様子では何が起こるか分かりませんので、もし万が一陛下が規則を無視して無理強いするようなことがあれば……」
そこまで話してマスルールは言葉を止めた。
するようなことがあれば、なんだよ。
皆の心が一つになってそう内心で突っ込んでいたと思うが、しばらく考えてから彼は俺たちを見回した。
「正直、そこまで考えておりませんでした。陛下は妃選びに興味がある訳ではないと思いますので、そんなことは起こらない、と思ってください」
「ちょっと! ちょっと待って! それはリスク管理としてどうなんだ?!」
思わず大声で突っ込んでいた。
妃選びに興味がないっていうのは宰相のお爺さんも言ってたが、その確信はなんなんだ。
俺のところに来ることは億が一ないと思うが、ルシアやリリアンはもしそんなことになったら誰が責任取るんだよ!
そんなことは起こらない、で済んだら世の中には天災も人災も生まれないんだ。俺は年長者として二人の安全を守る義務があるんだから曖昧にはさせないからな!
俺に横槍を入れられてまた眉を寄せたマスルールは訝しげな顔をした。
「貴方のところには、本当に行かれないと思いますが……」
「わかってるわ!! 俺のところに来たら俺だって驚きだわ! そういうことじゃなくて、女の子達のところでそうなったらまずいだろって言ってんの!」
全力でツッコミを入れるとマスルールはまた難しい顔をして、皆を見回した。
「それでは……万が一そのようなことが起こった場合は、鈴を鳴らしてください」
「鈴を鳴らす?」
俺の疑問に彼は頷いた。
「それぞれの鈴宮の中には、銀色の鈴があります。体調を崩した時などに鈴園の管理者を呼びたい時に使うものですが、万が一の時はその鈴を鳴らしてください。管理者は本来ダーウード様ですが、あの方は一人ではイラムに入れないので親の鈴は私が持つことにします」
鈴園の管理者を呼べる便利な道具があるらしい。
それなら少しは安心かもしれない。
女性陣の空気がいくらか緩んだので、俺もほっとした。
「鈴が鳴ったら鈴宮に向かいますが、陛下が相手では私も勝てるかはわかりませんので確約は出来ませんが善処はします」
その不穏な一言は余計だな。
俺が半目で非難の眼差しを送ると、マスルールはそれに気付かず軽くため息を吐いた。
「それ以外でも、もし鈴園で不測の緊急事態が起きた場合は誰かが鈴を鳴らしてください。典礼の間は私はイラムの下の層で寝泊まりしますので」
そう言ってから、彼は「それでは明日はお願いします」と無表情に告げて疲れた様子で四阿から出て行った。彼はアシュラフ皇帝の従兄弟だから皇族のはずだけど、あの言い方だと普段はイラムには住んでいないんだろうか。事情は分からないが。
残された俺たちは食事も終わってようやく一息つく。
「皆さまお疲れでしょうから、ひとまずそれぞれの鈴宮でお休みください。食事は後で侍女達が運びます」
ロレンナが声をかけてくれたので、鈴宮に向かうことになった。
食事の皿を片付ける侍女三人を手伝い、おそらくマスルールが持ってきたのであろう大きなお盆を俺が持った。卵があって持ち辛いが、持てないことはない。少しの間ならスカーフがぶらぶらしても大丈夫だろう。
「私達でいたしますので、気になさらないでください」
「大丈夫です。一度に持って行った方が皆さんも担当する方と一緒に鈴宮に入れるじゃないですか」
恐縮して声をかけてきたイリアにそう答えて無理矢理全ての食器を乗せてしまう。ルシア達もそれを見て手を出してきて、籠や水差しなどを皆で一緒に持って最初に転移してきた鐘まで運んだ。
「こちらに置いてください。後でマスルール様が来られたら一度に運びますので」
と言われて鐘の側に設置された荷台にお盆を乗せる。荷物の行き来はこうするのか。
鐘の場所に戻ったので、それぞれの鈴宮をもう一度ロレンナと確認してから解散した。さすがに皆疲れた顔をしている。俺も昨日から休みなく押し寄せてくる受難のコンボで疲れた。
これだよな。
占い師のお婆さんが言ってたのは、これだ。
予想以上の受難だったな。回避したくても抗う隙もなかったぞ。
「レイナルド様」
別れ際に、ルシアがこそっと俺に近寄ってきた。
「後でそちらに行ってもいいですか。さっきの話の続きを」
「うん。そうしよう。ルシアも疲れてるのにごめんね」
頷いてそう言うと、ルシアはにこっと笑って手を振った。
「大丈夫です。それではまた」
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