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第三部
五十九話 ゴーストナイトパレード 前①
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転移した先は、見覚えのある場所だった。
大きな石が重なって積み上がっている、ストーンヘンジみたいな列石があるところ。
「この石、最初に迷い込んだ日に見たな」
グウェンと歩いていて、あの不思議な声が聞こえた場所じゃないか。
俺の呟きに眉を上げたオズは俺達を手招いて、その石の一つに近づいていく。さっきから片手に何かぶら下がってるな、と思ったらそれはずんぐりした丸い形の容器のようだった。暗くてよく見えないが、多分赤っぽい。横に手持ちの細い紐がついている。
なんだあれ、と思って眺めていると、オズは石の前で立ち止まり、俺とグウェンを振り返った。
「さっそくだけど今からレイナルド達にはとある秘密の場所に行ってきてもらう」
「秘密の場所?」
「そう。リコリスの岸辺。いわゆる、黄泉の川に」
「……は?」
突然言われた名前を聞いて、素っ頓狂な声が出た。
「黄泉の川……?」
聞き間違いか? と思って眉をひそめて聞き返す。
だって意味がわからないだろう。
リコリスの岸辺というのは、前世でいうところの三途の川のようなものだ。あの世とこの世の境にあると言われる、黄泉の川。
それは精霊達の生まれる水辺としても有名で、リコリスの岸辺とも言われている。伝承では、川の岸部に色とりどりのリコリスの花が咲き乱れているらしい。
でもなんで急にまた、そんな荒唐無稽な話になるんだ??
「黄泉の川って言ったか? 冗談だよな」
「冗談じゃない。今から向かうのは黄泉の川だよ」
「おい待て。意味がわからん。そんな場所が本当にあるのかも信じられないし、、そもそもなんでこの事態の収束を図るために黄泉の川に行く必要があるんだよ」
突然にも程がある。
横のグウェンを見ても、彼も無表情のままオズを見据えていた。こいつは何をほざいているんだ、とその目が言っている。
俺達の冷めた表情を見てオズは咳払いして、取り繕うような真面目な顔で俺達を見返した。
「順番に説明するよ。まず一つ目。黄泉の川は本当にある。そこは死んだ人間の霊が集まって、あの世に渡っていく場所なんだ。どちらかというと、この世との狭間にある精霊が生まれる場所って方が表現としては正しいのかな。そこに時々あの世に渡る途中の霊や、あの世から遊びに来た霊が紛れ込んでくるんだ」
「はあ?」
「さっき占い師のお婆さんが言った『狭間の道』っていうのは、この世からその黄泉の川に下りる道のこと。その道は、実はこの中にある」
淡々と説明するオズが、俺達の目の前にある巨石の列を指差した。
この中にある。
ある……? 黄泉への道が??
「いやまさかそんな、冗談だろ」
顔が引き攣ってきた。
そんなびっくりポイントが禁域の森にあるなんて、さすがにできすぎてる。
「だから冗談じゃない。普段はドミヌス様が、この狭間の道を守ってるんだ。遠い昔に女神様の使いだった主神様は、地上に下りたときにこの道を守るように役目を与えられたらしくてね、以来生きている人間が迷い込まないようにこの場所を封じている。森の動物を守ってるのはそのついでっていうか、趣味? らしい」
そう言いながらオズは自分の背丈よりも高く聳える灰色の石を見上げて、片手を伸ばして軽く撫でた。
「この道の入り口が開くのは、一年のうちに招魂の日の零時からたった一日だけ。そして何と都合がいいことに、今日はもう日付が変わっているから招魂の日だろう。道は開いている。普段は招魂の日もドミヌス様が道を守ってるから人間には通れないけど、今はその封印が弱まってる。狭間の道に入れるんだ」
……できすぎじゃないか?
呆気に取られて口を半開きにし、何も相槌が打てなくなった俺を見てオズは苦笑した。
「俺もタイミングがよすぎるとは思う。でも占い師のお婆さんがこの道を使えというなら、きっとこれが正解なんだろう」
「……仮に、道があるっていうのは横においたとして、それでなんで黄泉の川に行く必要があるんだよ。川から何か取ってくるとか、アシュタルトを封じるために精霊を呼んでくるとか、そういう話?」
黄泉の川に行く意図がわからない。
あまりにも突然すぎる。さっきまで悪魔を封じるって話をしてたはずなのに。
困惑しながら俺が疑問を口に出すと、オズは首を横に振った。
「違うよ。さっきの二つ目の答えだけど、聞きに行くんだ。悪魔を封じる方法を」
「聞きに行く?」
誰にだよ、と眉を顰めたら、オズは俺の心の声を読んだかのように微かに唇の端を引き上げた。
「言っただろう。黄泉の川には、あの世から霊が遊びにくることもあるって。つまり死んだ人に会える可能性がある。もし運がよければ、あの悪魔を封じた人に会って直接その方法を聞けるってこと」
封じた人……?
頭の中でそれを考えて、驚愕した。
「おいまさか、大聖女様のこと言ってんのか?!」
驚きすぎて顎が外れるかと思った。
そんなやり方あり?!
死んだ聖女様に直接相談に行くってこと?!
「そうだよ。サリア様にアシュタルトを封じる方法を聞いてきてほしい」
「マジで言ってんのか?! 普通に考えてそんなん会えるわけねーだろ!!」
五百年前に死んでる人だぞ?!
なんで会えると思うんだよ!!
全力で突っ込んだら、オズは石に手をつきながら「大丈夫」と軽く頷いてきた。
「行くのはレイナルドだ。きっと今回も偶然を引き寄せて、上手く聖女様に巡り会える。それに、精霊の世界にも悪魔が蛇主様に乗り移ったのが伝わっているだろうから、きっと精霊達が君と団長を助けて、聖女様に引き合わせてくれるはずだ」
「いや……ええ? 本気? お前ってほんと時々俺よりもめちゃくちゃなこと言うよな……。というか、さっきから行くのは俺って言ってるけど、お前じゃなくて俺が行くのか?」
「うん」
「なんでだよ」
この場合お前が案内人になって三人で行くって流れなんじゃないのかよ。
鋭くツッコミを入れたら、オズはちょっと弱気な態度になった。
「迷ったけど、俺はここで狭間の道が閉じないように見張る必要があるから。主神様の力が弱まって封印は解かれているとはいえ、万が一閉じてしまう可能性も捨てきれないからね。それに、俺はきっと黄泉の川に入る条件を満たしてない」
困ったような顔で説明するオズを胡乱な目で見返した。
こいつは時々とんでもないことを言ったりやったりするが、今回もその性質は健在だったな。
「条件ってなんだよ。そんなの俺もグウェンも満たしてねーだろ」
そう言うと、オズは俺とグウェンを黙って見つめてから、口を開いた。
「この道を通ってリコリスの岸辺にたどり着けるのは、川の向こうに心から会いたいと思う相手がいる人間だけだ。ただし、それだけじゃない。相手にも同じ気持ちを持たれていないといけない。団長とレイナルドなら、多分その条件は満たしている。だから大丈夫」
会いたい人……?
しばらく言葉に詰まった。
それは、死んだ人ということだろうか。そんなことを言われたら、俺は確かに一人だけ思い浮かぶが、それでも相手にも同じように思われていなくてはならないなんて聞いたら、それは到底無理なんじゃないかと思う。
「いや、俺は」
「大丈夫。きっと彼もレイナルドに会いたいと思ってる」
オズが俺の言葉を遮ってはっきりした口調で言った。俺はその勢いに口をつぐんでしまい、横にいるグウェンが不思議そうな顔をして俺を見る。さっき屋敷ではかろうじて王宮の悪魔を追い払ったというところまでは話したが、まだラムルでの出来事は話せていない。今話す時間もないだろう。俺は躊躇って何も言えなくなった。
「その相手には、会えるかはわからない。向こうが黄泉の川に来ていなければ会いようがないからね。でも、聖女様を探すついでにもしかしたら会えるかもしれない。何か伝えたいことがあるなら、行ってくるといい」
オズの瑠璃色の瞳は真っ直ぐに俺を見ている。
俺は何も言わないが、俺が誰を想像しているのかはわかっているんだろう。
「…………わかった」
俺も大概、容易く丸め込まれる人間だよな。
俺が頷くと、グウェンが俺を見下ろした。
グウェンは何も言わないが、どうしたいんだろう。こんな突拍子もないことには付き合えないと思っているだろうか。俺は冷静な表情を崩さない彼の相貌を仰いだ。
「グウェンはどうする? 俺はこの際こいつに騙されたと思って行ってみるよ。本当にそんな場所があるのかまだ半信半疑だけど、悪魔の件を片付けないとグウェンの記憶が取り戻せないのは事実だし」
「レイナルドが行くのなら、私も行く」
迷わずにこくりと頷いてくれたグウェンを見てほっとした。俺は彼の手を握ってオズを振り返る。
「超展開には慣れてるけど、今回のはマジで意味不明だな。だけどわかった。アシュタルトを封じる方法は、もう幽霊に聞いて探し出すしかないってことだろ。行くだけ行ってきてやる」
「ありがとう。じゃあこれを持ってって」
ほっとしたように微笑んだオズが手に提げていた赤い容器を差し出してきた。
受け取ってよく見ると、今まで暗くてわからなかったが、それは中をくり抜いた赤カブだった。側面に穴を開けて、紐が通してある。空洞になっている中を覗いたらいくつか炭が入っていた。提灯みたいな、そんな感じだろうか。
「この炭の火が消えないように気をつけて。戻って来られなくなるから」
何の意味があるのかわからないが、急に物騒なことを言われた。俺がツッコミを入れる前にオズは提灯の中の炭に魔法で火をつける。カブは燃えないのか? と思ったが、何か魔法がかかっているのか火が野菜の内側に燃え移ることはない。
炭は赤くなっても、カブの側面に穴は開いていないからランプにするには心もとなかった。それでもぼんやりとカブの周りが明るくなる。
「なんで炭を燃やすんだ?」
「うーん、俺にも詳しいことはわからないんだけど、こちらの世界との繋がりが途切れないように炭の火を絶やさないようにって意味らしいよ」
「消えたら帰り道に迷うってこと?」
「多分ね。狭間の道は一日開いているとはいえ、悪魔のことがあるから夜明けまでには帰ってきて。黄泉の川には俺も実際に入ったことはないけど、話に聞くところによるとずっと夜みたいに暗いらしいから、時計を気にするように」
そう言うとオズは俺達を手招きして、石が積み上がってできた一つの列石の隙間に身体を滑り込ませた。
大きな石が重なって積み上がっている、ストーンヘンジみたいな列石があるところ。
「この石、最初に迷い込んだ日に見たな」
グウェンと歩いていて、あの不思議な声が聞こえた場所じゃないか。
俺の呟きに眉を上げたオズは俺達を手招いて、その石の一つに近づいていく。さっきから片手に何かぶら下がってるな、と思ったらそれはずんぐりした丸い形の容器のようだった。暗くてよく見えないが、多分赤っぽい。横に手持ちの細い紐がついている。
なんだあれ、と思って眺めていると、オズは石の前で立ち止まり、俺とグウェンを振り返った。
「さっそくだけど今からレイナルド達にはとある秘密の場所に行ってきてもらう」
「秘密の場所?」
「そう。リコリスの岸辺。いわゆる、黄泉の川に」
「……は?」
突然言われた名前を聞いて、素っ頓狂な声が出た。
「黄泉の川……?」
聞き間違いか? と思って眉をひそめて聞き返す。
だって意味がわからないだろう。
リコリスの岸辺というのは、前世でいうところの三途の川のようなものだ。あの世とこの世の境にあると言われる、黄泉の川。
それは精霊達の生まれる水辺としても有名で、リコリスの岸辺とも言われている。伝承では、川の岸部に色とりどりのリコリスの花が咲き乱れているらしい。
でもなんで急にまた、そんな荒唐無稽な話になるんだ??
「黄泉の川って言ったか? 冗談だよな」
「冗談じゃない。今から向かうのは黄泉の川だよ」
「おい待て。意味がわからん。そんな場所が本当にあるのかも信じられないし、、そもそもなんでこの事態の収束を図るために黄泉の川に行く必要があるんだよ」
突然にも程がある。
横のグウェンを見ても、彼も無表情のままオズを見据えていた。こいつは何をほざいているんだ、とその目が言っている。
俺達の冷めた表情を見てオズは咳払いして、取り繕うような真面目な顔で俺達を見返した。
「順番に説明するよ。まず一つ目。黄泉の川は本当にある。そこは死んだ人間の霊が集まって、あの世に渡っていく場所なんだ。どちらかというと、この世との狭間にある精霊が生まれる場所って方が表現としては正しいのかな。そこに時々あの世に渡る途中の霊や、あの世から遊びに来た霊が紛れ込んでくるんだ」
「はあ?」
「さっき占い師のお婆さんが言った『狭間の道』っていうのは、この世からその黄泉の川に下りる道のこと。その道は、実はこの中にある」
淡々と説明するオズが、俺達の目の前にある巨石の列を指差した。
この中にある。
ある……? 黄泉への道が??
「いやまさかそんな、冗談だろ」
顔が引き攣ってきた。
そんなびっくりポイントが禁域の森にあるなんて、さすがにできすぎてる。
「だから冗談じゃない。普段はドミヌス様が、この狭間の道を守ってるんだ。遠い昔に女神様の使いだった主神様は、地上に下りたときにこの道を守るように役目を与えられたらしくてね、以来生きている人間が迷い込まないようにこの場所を封じている。森の動物を守ってるのはそのついでっていうか、趣味? らしい」
そう言いながらオズは自分の背丈よりも高く聳える灰色の石を見上げて、片手を伸ばして軽く撫でた。
「この道の入り口が開くのは、一年のうちに招魂の日の零時からたった一日だけ。そして何と都合がいいことに、今日はもう日付が変わっているから招魂の日だろう。道は開いている。普段は招魂の日もドミヌス様が道を守ってるから人間には通れないけど、今はその封印が弱まってる。狭間の道に入れるんだ」
……できすぎじゃないか?
呆気に取られて口を半開きにし、何も相槌が打てなくなった俺を見てオズは苦笑した。
「俺もタイミングがよすぎるとは思う。でも占い師のお婆さんがこの道を使えというなら、きっとこれが正解なんだろう」
「……仮に、道があるっていうのは横においたとして、それでなんで黄泉の川に行く必要があるんだよ。川から何か取ってくるとか、アシュタルトを封じるために精霊を呼んでくるとか、そういう話?」
黄泉の川に行く意図がわからない。
あまりにも突然すぎる。さっきまで悪魔を封じるって話をしてたはずなのに。
困惑しながら俺が疑問を口に出すと、オズは首を横に振った。
「違うよ。さっきの二つ目の答えだけど、聞きに行くんだ。悪魔を封じる方法を」
「聞きに行く?」
誰にだよ、と眉を顰めたら、オズは俺の心の声を読んだかのように微かに唇の端を引き上げた。
「言っただろう。黄泉の川には、あの世から霊が遊びにくることもあるって。つまり死んだ人に会える可能性がある。もし運がよければ、あの悪魔を封じた人に会って直接その方法を聞けるってこと」
封じた人……?
頭の中でそれを考えて、驚愕した。
「おいまさか、大聖女様のこと言ってんのか?!」
驚きすぎて顎が外れるかと思った。
そんなやり方あり?!
死んだ聖女様に直接相談に行くってこと?!
「そうだよ。サリア様にアシュタルトを封じる方法を聞いてきてほしい」
「マジで言ってんのか?! 普通に考えてそんなん会えるわけねーだろ!!」
五百年前に死んでる人だぞ?!
なんで会えると思うんだよ!!
全力で突っ込んだら、オズは石に手をつきながら「大丈夫」と軽く頷いてきた。
「行くのはレイナルドだ。きっと今回も偶然を引き寄せて、上手く聖女様に巡り会える。それに、精霊の世界にも悪魔が蛇主様に乗り移ったのが伝わっているだろうから、きっと精霊達が君と団長を助けて、聖女様に引き合わせてくれるはずだ」
「いや……ええ? 本気? お前ってほんと時々俺よりもめちゃくちゃなこと言うよな……。というか、さっきから行くのは俺って言ってるけど、お前じゃなくて俺が行くのか?」
「うん」
「なんでだよ」
この場合お前が案内人になって三人で行くって流れなんじゃないのかよ。
鋭くツッコミを入れたら、オズはちょっと弱気な態度になった。
「迷ったけど、俺はここで狭間の道が閉じないように見張る必要があるから。主神様の力が弱まって封印は解かれているとはいえ、万が一閉じてしまう可能性も捨てきれないからね。それに、俺はきっと黄泉の川に入る条件を満たしてない」
困ったような顔で説明するオズを胡乱な目で見返した。
こいつは時々とんでもないことを言ったりやったりするが、今回もその性質は健在だったな。
「条件ってなんだよ。そんなの俺もグウェンも満たしてねーだろ」
そう言うと、オズは俺とグウェンを黙って見つめてから、口を開いた。
「この道を通ってリコリスの岸辺にたどり着けるのは、川の向こうに心から会いたいと思う相手がいる人間だけだ。ただし、それだけじゃない。相手にも同じ気持ちを持たれていないといけない。団長とレイナルドなら、多分その条件は満たしている。だから大丈夫」
会いたい人……?
しばらく言葉に詰まった。
それは、死んだ人ということだろうか。そんなことを言われたら、俺は確かに一人だけ思い浮かぶが、それでも相手にも同じように思われていなくてはならないなんて聞いたら、それは到底無理なんじゃないかと思う。
「いや、俺は」
「大丈夫。きっと彼もレイナルドに会いたいと思ってる」
オズが俺の言葉を遮ってはっきりした口調で言った。俺はその勢いに口をつぐんでしまい、横にいるグウェンが不思議そうな顔をして俺を見る。さっき屋敷ではかろうじて王宮の悪魔を追い払ったというところまでは話したが、まだラムルでの出来事は話せていない。今話す時間もないだろう。俺は躊躇って何も言えなくなった。
「その相手には、会えるかはわからない。向こうが黄泉の川に来ていなければ会いようがないからね。でも、聖女様を探すついでにもしかしたら会えるかもしれない。何か伝えたいことがあるなら、行ってくるといい」
オズの瑠璃色の瞳は真っ直ぐに俺を見ている。
俺は何も言わないが、俺が誰を想像しているのかはわかっているんだろう。
「…………わかった」
俺も大概、容易く丸め込まれる人間だよな。
俺が頷くと、グウェンが俺を見下ろした。
グウェンは何も言わないが、どうしたいんだろう。こんな突拍子もないことには付き合えないと思っているだろうか。俺は冷静な表情を崩さない彼の相貌を仰いだ。
「グウェンはどうする? 俺はこの際こいつに騙されたと思って行ってみるよ。本当にそんな場所があるのかまだ半信半疑だけど、悪魔の件を片付けないとグウェンの記憶が取り戻せないのは事実だし」
「レイナルドが行くのなら、私も行く」
迷わずにこくりと頷いてくれたグウェンを見てほっとした。俺は彼の手を握ってオズを振り返る。
「超展開には慣れてるけど、今回のはマジで意味不明だな。だけどわかった。アシュタルトを封じる方法は、もう幽霊に聞いて探し出すしかないってことだろ。行くだけ行ってきてやる」
「ありがとう。じゃあこれを持ってって」
ほっとしたように微笑んだオズが手に提げていた赤い容器を差し出してきた。
受け取ってよく見ると、今まで暗くてわからなかったが、それは中をくり抜いた赤カブだった。側面に穴を開けて、紐が通してある。空洞になっている中を覗いたらいくつか炭が入っていた。提灯みたいな、そんな感じだろうか。
「この炭の火が消えないように気をつけて。戻って来られなくなるから」
何の意味があるのかわからないが、急に物騒なことを言われた。俺がツッコミを入れる前にオズは提灯の中の炭に魔法で火をつける。カブは燃えないのか? と思ったが、何か魔法がかかっているのか火が野菜の内側に燃え移ることはない。
炭は赤くなっても、カブの側面に穴は開いていないからランプにするには心もとなかった。それでもぼんやりとカブの周りが明るくなる。
「なんで炭を燃やすんだ?」
「うーん、俺にも詳しいことはわからないんだけど、こちらの世界との繋がりが途切れないように炭の火を絶やさないようにって意味らしいよ」
「消えたら帰り道に迷うってこと?」
「多分ね。狭間の道は一日開いているとはいえ、悪魔のことがあるから夜明けまでには帰ってきて。黄泉の川には俺も実際に入ったことはないけど、話に聞くところによるとずっと夜みたいに暗いらしいから、時計を気にするように」
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