第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師

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「それを変えろって言うんですかセオ様は?!」

 目を丸くして、口を半開きにして。

 眉目秀麗と言うらしい顔の、けどほとんど表情を動かさないこの人がこんな間抜けな表情をするの初めて見るな。

 セオドアを睨みつけているシャーロットは、睨みつけながら思った。

「あたしが! いつ! セオ様を嫌いだとか興味無くしたとか関心無くしたとか言いました?! 言ってねぇよな?!」

 気づいたように「あ」と言った、これまた間抜けなセオドアの声を聞く。

「あたしが帰ろうとしたのは! あたしなんかどうでもいいって思ってるセオ様と居るのがツラかったから! です! セオ様を好きで好きで大好きだって気持ちは全く変わってませんので!」

 間抜けヅラから、何か言いたげな顔へと変わりつつあるセオドアを睨んだまま、

「そこんとこよろしくどうぞ! あたしの未来の旦那様!」

 勢いに任せて言った、のを、言ってから自覚する。

「あ、えと」

 自覚した途端、シャーロットの頬や顔、耳と首が。そして、レースに覆われているデコルテまで、そうと分かるほど瞬時に赤く染まった。

「セオ、様、その、好き、なのは、そうですし、大好きなのも、そうですし、み、未来、の、も、その、そう、だったら、いいなって、思って、ます、けど」

 流石に、早まったと言いますか。

 言うのも恥ずかしくて、顔を俯けかけ、でも今顔を伏せるのも失礼な気がして、ぎこちなくセオドアへ目を向ける。

 背の高いセオドアを、恥ずかしさから潤んだ瞳で下から窺うように見上げた。

 離す機会を失った手は、機会を失ったからこそ、細かく震えていても掴んでいるセオドアの襟から離せない。

 恥ずかしくてどうしようもなくて、逃げたいけど逃げたら負けた気にされそうな自分が居て。

 シャーロットは情けなさで眉を下げてしまいながら、「うぅ……」と負け惜しみのように呻いた。

「──シャル」

 何かに耐えるように口を引き結んでいたセオドアが、切羽詰まった雰囲気で自分を呼んだ。
 かと思ったら。

「すまないが少しこうさせてくれ」
「え? おわっ?!」

 素早く上着を脱いでシャーロットをすっぽり覆うように頭から被せた。

「そ、そんなに……ヒドイ顔でしたか……」

 びっくりしたことでセオドアの襟から手を離すことはできたが、恥ずかしさは消えてくれない。

「酷くない。誰にも見せたくないだけなんだ」
「は、はぁ……」

 真面目な顔と声で、意味の掴めないことを言われたが、セオドアの厚意に甘えることにした。
 彼の上着に隠れる気分で前を合わせ、隙間からセオドアを窺い見る。

「──駄目だ。今の君はどうやっても誰にも見せたくない君に見えるようだ、シャル」

 顎に手を当て、真面目な顔と声で意味不明なことを言ったセオドアは、

「どう隠せばいいか、妙案が思いつかない。代替案として抱きしめさせてくれないか」
「ひゃい?!」

 意味不明な上に、心臓に悪いことを言う。
 真面目な顔と声で。

「その声も誰にも聴かせたくない気がする」
「あの、ここ、あたしたち四人だけ……」
「そうなんだが……なんにしても見せたくない。室内へ移動でも──あぁ、こうすれば良いのか」

 セオドアが「あぁ」と言った時点で、魔法で創られたそれは完成していた。


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