学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師

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24 変身

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 そして、2年Aクラスに着いたら。

「ね、髪、もっと赤くしない? ヘアカラー持ってるからさ。ウォータープルーフで速乾だよ」
「あとこれさ、ネイル。発色良いし、これも速乾」
「カラコンもあるし。これ」
「タトゥーも今なら間に合うよ! 何個もあるし!」

 橋本の周りに、男女数人が集まっていた。

「……随分馴染んだな」

 マリアちゃんが、呆れてるのか感慨深いような、そんな声で言う。
 最近の橋本は、私たちと、なるべく普通に会話するようになり。他の生徒たちとの壁も、どんどん薄くなっているようだった。
 その結果、体育祭でテンションが上がっているみんなに、色々言われているらしい。

「橋本さーん」

 声をかけ、三人でそっちへ。

「あ、成川さん」
「橋本に言ってみてくんない? 去年は逃しちゃったしさ」

 周りのクラスメイトたちに言われる。
 輪にしたハチマキを首にかけた橋本は、戸惑った顔をしている。

「えー……本人の意思を尊重したいけど……それとは別に、橋本さん」
「なんだよ」
「ずっとそのハチマキで、参加するんですか?」
「そのつもりだけど?」
「落ちません? 走ったり、跳んだりしますよね?」

 それについて橋本が何か言う前に、桜ちゃんが前に出た。

「じゃ、私、まだピン余ってるし、留めていい?」
「は、どう、留めるんだ?」
「はいオッケーいただきました。やってみて、嫌だったら、直すよ。で、動かないでね」

 橋本の後ろに立った桜ちゃんは、ハチマキを回し、結び目を解き、橋本の首から外す。そして手早く、少し大きめの輪のサイズでネクタイの形にして、

「これ、たぶん、頭通ると思うんだ」

 と、橋本へ渡した。思わず、といった感じに受け取った橋本は、首をひねりながらも、それに頭を通す。通る。

「ど? これで、あとは留めれば、落ちないし、動きやすいと思うんだけど」
「はあ……」
「ね、みつみん」

 急に話を振られた。

「あ、うん。私もそう思う」
「では、留めます。ネクタイ、ちゃんと前に来てる?」
「あ、ああ……」

 で、桜ちゃんは後ろ側を5ヶ所ほど、ピンで固定した。

「外れちゃったら、直してもらってね」
「どうも……」

 戸惑いつつ、ネクタイになったハチマキを抓んで眺めている橋本へ。

「それで、橋本さん。他はどうします?」
「い、や、こう……の、したこと無いから、分かんねぇよ」

 そしたら、じゃあやってみよう、と言う流れになり。橋本は押し切られた。

「光海もやるか?」

 マリアちゃんが言ってくる。

「んー……どうだろ」

 橋本が押し切られた半分くらいは、私にも責任がありそうだし。

「ちょっと、やってみようかな? やらせてもらえるなら」

 そしたら、橋本にあれこれし終えたらしいみんなが、私へ目を向けた。

「成川さんも、やる?」
「あ、できれば。けど、ほどほどにお願いしたい──」

 最終的に私は、ポニテの半分を赤く染められ、全ての手の指にネイルを塗られ、赤い肉球のタトゥーシールを右腕に。カラコンも着けてもらってしまった。フル装備である。

「じゃ、ハチマキ、変更しまーす」

 桜ちゃんに、流れるようにハチマキのリボンをダブルリボンにされた。完璧に、フル装備だ。
 で、橋本はというと。
 髪は、メッシュを目印に、赤が広くなっていて、ネイルとカラコンを装備、右腕には炎のような模様で輪っかタイプのが3つ、左腕にはカリグラフィーの英字で『First come, first served!』……つまり、先手必勝という意味のタトゥーシールを、貼られていた。……私より、凄いことになっているかもしれない。
 腕と指とを、奇妙な顔で見つめている橋本を見てから、ハッとした。

「てか、私、今、瞳が赤いんだよね? ちょっと確認していい?」

 スマホをインカメにして、確認。

「わーあかーい」

 見慣れなくて、似合っているかは分からない。けど、これは、お祭りみたいなもんだし。体育『祭』だし。

「ホントは、メイクもさせてもらいたい」

 一人に言われる。周りも頷く。

「あー、や、でも、崩れたら……」
「全部ウォータープルーフだし! まだ10分以上あるし!」

 ……もう、ここまで来たら、してもらうか。

「じゃ、お願いします。あ、一応ファンデはしてある」
「うんうん。では、動かずに」
「はい」

 そのまま、文字通りにされるがまま。

「で、どう……?」
「見ていい?」
「もちろん」

 ポーチから出した鏡を渡してもらい、自分の顔を映す。

「わあ、すごい」

 赤に近いオレンジ系のアイシャドウ。目尻が少し跳ねたアイライン、マスカラ、リップは赤。そして、

『目元になんか書きたいんだけど、どんな模様がいい?』

 と聞かれ、

『なんか、こう、エキゾチックで』

 思いつかなくて適当に答えたそれに対応して、アイライナーでサラサラと、右目の下に描かれた模様が、緻密で格好良く。

「すごいね。ありがとう」

 鏡を返しながら、お礼を言う。

「ううん。もし崩れたら、すぐ言ってね。直すから」
「ありがと」
「みつみん! ずっと動画撮ってたから、送るね! あと、こっち向いて! 撮らせて!」

 と、今度は桜ちゃんに言われるがまま、数枚撮ってもらって。

「あとで送るね! じゃ、時間だから、あとでね!」
「光海、私も行く」
「あ、うん。二人ともありがと」

 桜ちゃんとマリアちゃんを見送り、あと数分で8時になる、と、みんながハッとして。
 席について、先生がやってきた。

  ◇

 光海が、『変身』していくところを眺め、その、完成した姿に、こっちも全然アリ、と思ってしまって、橋本涼は目を逸らした。
 担任の注意事項を聞きながら、それでも、黒い髪の先が赤くなっていて、赤いリボンを着けた光海を、盗み見てしまう。
 去年は、どうしていたのか。サボるどころか学校にすら行かなかった橋本涼は、それを知らない。

「では、移動して下さい」

 担任の言葉と同時に、水分補給やエネルギー補給のもの、タオル数枚、一週間ほど前に配られたパンフレットを入れたリュックを背負う。
 また、光海に目がいってしまって。いつものカバンではなく赤いショルダーバッグを下げているのを見て、そうか。そこもか。自分も赤いものを持ってくれば良かった、と思いつつ。
 まあ、このリュックにも、赤は入ってるし。
 言い訳めいた言葉を、自分に言い聞かせた。

  ◇

 さて赤組、もしくは赤グループの、運動場のテントの下。パイプ椅子に座っています。
 スマホに通知が届き、愛流から、ウチの家族と桜ちゃんの叔母さんとベッティーナさんたちが合流したことを教えてもらい。桜ちゃんからは三人のグループに、私の写真と動画が、アルバムになって送られてきた。
 それぞれに返信し、そういや、橋本はひとりって言ってたっけ、と思い出す。

「まあ、送るだけ送るか」
『ひとりっていうのは、橋本さんだけですか? 誰かお一人、保護者のかたが来るんですか?』

 送ったら、すぐ既読になった。

『誰も来ない。仕事だし』
『では、お昼も橋本さんだけですか? 仲良くなった誰かと食べる予定はありますか? 無いなら、ウチの家族と一緒に食べます? 桜ちゃんとマリアちゃんも一緒です。お一人のほうが良いなら、それでもいいんですが』

 既読にはなったが、返信が来ない。
 一旦スマホを閉じ、そろそろ始まるな、と、昨日の夜のうちに業者さんがアレコレしてくれた運動場を眺めていると、橋本から、来た。

『邪魔にならないなら、いい』

 ……たぶん、一緒に食べますって、ことだろう。

『分かりました。では、一緒に食べると言うことで。伝えておきますね』
『分かった』

 で、それを、愛流と三人グループラインに送ったところで、オーケストラ部が演奏を始めた。
 体育祭の、始まりだ。


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