学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師

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48 期末の結果

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 月曜。テストの結果が分かる日だ。それぞれの全てがいっぺんに、朝のホームルームの時間に返ってくる。同時に、それぞれのテストの点数や平均点や、順位が書かれた紙も渡される。
 で、私は。

「……うし!」

 と、呟いた。テストの点数も自己採点通りだし、総合2位だ。やったぜ!
 で、涼のほうを見る。

「……、……」

 何回も何回もそれらを繰り返し見て、その目が、見開かれていて。
 …………ちょっと、どっちだか、分からない。

「……涼?」

 自分の席を立って涼の席まで来た私の声に、その肩が跳ねた。

「み、つみ……これ……」

 震える手で、順位の紙を渡される。
「失礼します」と、受け取って、それを見る。

「……。……涼」

 私は涼に、微笑みかけた。

「(おめでとうございます)」

 ガタ! と、涼が立ち上がりかけ、

「……(ありがとう、ございます)……」

 ちょっと悔しげな顔をしながら椅子に座り直した。
 涼は、赤点を回避した。それも、全部。
 総合順位だって、そりゃ、下からのほうが早いけど。赤点じゃないんだから、今までで一番良い数字の筈だ。

「これ、ありがとうございました」
「おう……」

 順位の紙を涼に返し、「では戻りますね」と、席につく。
 赤点が無いから補修もない。ホームステイの日程が組める。ラファエルさんたちに、早く連絡したい。

  ◇

 テスト勉強をしたのも、期末を受けたのも、それが赤点じゃないのも、補修が全く無いことも、中学の時、以来で。
 未だにざわざわしているクラスの雰囲気に浮き足立ちそうになって。
 涼は、少し手早く、返されたそれらを仕舞い、光海の背中を見つめる。
 抱きしめて、ありがとうと伝えたい。母国語の日本語で伝えたい。
 それに家族にも伝えたい。母にも知って貰いたい。
 ぼうっと、そんなことを考えて、

「では、そろそろホームルームは終わりです。皆さん、結果はそれぞれだと思いますが、今日の授業に集中して下さいね」

 担任の声に、我に返った。

  ◇

「で、私はこれだけど。みんなは?」

 食堂で、お昼を食べながら、桜ちゃんはそう言って、順位の紙をテーブルに置いた。私もそれを置く。

「私はこんな感じだ」

 マリアちゃんも出す。

「……こう……」

 涼は、畳んだそれをそのまま、テーブルに置いた。

「橋本ちゃん、見ていい?」
「……ああ……」
「まあ、みつみんの様子から、大体分かるけども」

 桜ちゃんは言いながら、涼の順位を見る。
 私、そんなに分かりやすい感じ?

「(まあ、周りに花が舞っているからな)」

 マリアちゃんに言われて、気を引き締める。

「はいどうも。良かったじゃん」

 桜ちゃんに、そう言いながら返されたそれを、「私も良いか?」とマリアちゃんに聞かれて、涼は頷いた。

「……ああ、良かったじゃないか」

 言いながらマリアちゃんにも返されて、涼は素早くそれを仕舞う。

「で、お二人さん。報告はしたの?」

 桜ちゃんが仕舞いながら、聞いてくる。

「私のほうはさっきしたよ」

 順位の紙を仕舞い、言う。私の報告先は、ラファエルさんだ。ここに来る前に涼に聞いてから、涼の補修が無いことと、ホームステイの日程が組めるようになったことを、伝えた。

「……俺は、あの店の、人たちには」

 涼は、少し硬い声で言う。涼も、私が報告しても良いかと聞いたら、なら自分もと、ラファエルさんに報告した。この感じから、ご家族には、まだ伝えていないらしい。

「ほいほい。なるほど。まあ、良いんでない?」
「私もな、少し、前より良かったから。伝えたら……姉さんは……確実にアレッシオに……伝えるだろうし……」

 マリアちゃんが、遠くを見て、言う。
 その、ベッティーナさんとアレッシオさん、ついこの前、熟考に熟考を重ねて決めた物件に、お引越ししたそうだ。そして毎日、その様子が送られてくるらしい。マリアちゃんはラインで、『幸せなのは良いと思うが、歯が浮くどころか砂糖を吐きそうだ』とコメントした。

「でも、ベッティーナさんたちには、そのまま幸せで居て欲しいね」

 と、言えば。

「まあ、そうだが。アレッシオが正式に義兄になるかは、分からないしな」
「え? そうなん?」

 言った桜ちゃんに、マリアちゃんがサラッと、お国柄を教えて。

「はあー、それは大変だね。心理的に。ま、当人同士の話でもあるもんね」
「アレッシオからは、姉さんが大学を出るまで待つかどうするか、とか、相談されたけどな」

 マリアちゃんがまた、黄昏れつつ言う。

「もはや確定じゃん」

 桜ちゃんの言葉に、心の中で全面同意する。

「でさ、話は変わるけど。……1位、誰だろね」

 桜ちゃんは最後のそれを、小声で言った。

「さあ? 他の人の順位なんて、あんまり気にしたことなかったし。私は自分のを維持できたし。特に気にしてない」
「……ウチのクラスのなんだが……周りが騒いでいたからな。そのうち耳にも届くかもしれない」

 Bの人か。おめでとうございます、と、口には出さずに言う。
 その瞬間に、「高峰たかみねが1位らしいよ」と、少し遠くから聞こえた。

「……知っちゃったねぇ」
「知っちゃったね」
「みつみん、余裕だね。いつもだけど」
「私には関係ないし」
「そのお隣さんは、どうなんだろね?」

 高峰という名前を聞いて、固まっていた涼は、

「涼、気になりますか?」
「……いや」

 と、お昼を食べるのを、再開した。
 高峰瑞樹みずき。その人は、私と同じ、勉学枠の特待生だ。
 学校が終わり、バイト先までの電車の中で、涼がぽつりと言った。

「……高峰、知り合いか」

 握っている手に、力が込められる。

「顔を知ってるくらいですよ。あ、だよ。去年もクラス、違ったし、ほぼ他人な感じ」

 きゅ、と、握り返す。

「そうか」
「うん」

 高峰瑞樹。涼より背は低いけど、それでも高い。顔も良いと評判。で、私は勉学特化だけど、あっちは文武両道。だからか、モテるらしい。
 その高峰について私が直接知ってることと言えば、特待生の受験の時に顔を合わせたのと、そのあとの合格者への諸注意の場で、居るな、この人も受かったのか。と、思ったくらいだ。

「……知り合いになりたい感じです?」

 気になっている雰囲気を感じるので、聞いてみる。

「……そうじゃない」
「そうで、……そっか。……また、聴かせてね。アカペラも上手だったし」
「……何度でも聴かせてやるわ」

 昨日、つまり日曜。涼の部屋で勉強会を終えた私は、涼に、改めて誕生日をお祝いされた。

『……当日は、しっかり出来なかったから』

 と、涼が作ってくれた小ぶりのケーキと、改めての誕生日プレゼントをくれた。プレゼントは、誕生月のルビーを模した、赤い石の瀟洒なネックレスだった。私は慌てて洗面台を借りて、涼に貰った化粧品でメイクして、ネックレスを着けて部屋に戻って。

『ありがとうございます、涼』

 言ったら、涼は笑ってくれて。私はそのあとちょっとおねだりして、涼の部屋で歌ってもらったのだ。

  ◇

 家に帰ってきた涼は、仏壇を掃除して、小物類も、一層丁寧に綺麗にして。最近やっと買った真新しいおりんとりん棒と共に、並べ直した。
 返ってきた解答用紙と順位表を、見えるように置いて。
 ロウソクに火を点け、おりんを鳴らし、線香を上げ、手を合わせる。

 母さん。ここまで来た。ここまで来れた。光海のおかげで。母さんと父さんと、じいちゃんと伯母さんのおかげで。

 だから見ててくれ。と、願う。祈る。

 これからも、見ててくれ。夢を叶えて、その先も。

 涼は、合わせていた手を離し、ロウソクの火を消した。


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