学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師

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 2月に入り、登校中に、私は言った。

「涼、一つの提案と、一つの質問があります」
「ん?」
「提案は、まだ年度末試験の対策期間までありますが、もう先に、少しだけ、対策を始めていきませんか? っていうものです。今のままでも留年なんかしないと思いますが、私には、涼が、3年生になれるかとても気にしているように思えます。少しでも安心できるように、少し早めの今から、対策を始めませんか」

 握る手に力を込めて、言う。

「……お前の負担にならないか?」

 握り返してくれるけど、不安そうに言う涼に、

「全然なりません。涼と3年になりたいですし、対策といっても、年度末ですから、言わば2年の総復習です。涼は2年の授業はきっちり受けて、課題もこなしてきたんですから、総復習だって、去年の時より負担は少ないと、私は思います」
「……ありがとう。光海。頼む」

 真剣な顔をした涼に、「任されました」と言って。

「それで、……質問のほうなんですが……」

 不安で、声がすぼまってしまう。

「どうした? なんかあったか?」
「……その、バレンタインの、チョコ、欲しいです?」
「えっ、貰えねぇ可能性あんの? 嫌なんだけど」
「……だって、絶対、涼の作るチョコのほうが美味しいじゃないですか。涼はもう、ほぼプロの職人ですし、新作も美味しかったですし、売れ行きも良いんですよね?」

 1月の下旬から始まった、カメリアのバレンタインフェア。その目玉は、新作の、先に見せてくれたボンボンショコラと、チョコケーキ。チョコケーキというか、オペラだ。
 パリで食べたオペラと、伝統的なオペラを組み合わせ、けれどカメリアの客層にも合わせたそれを食べた時、チョコレートの濃厚さとコーヒーの風味と蕩けるような味わいに、これは、売れるわ。と、思った。実際売れているし、私は衝動のままに、5人のグループラインに、カメリアのホームページとオペラとボンボンショコラの感想を送って、

『ぜひ買って下さい。もしくは宣伝をお願いします。とても美味しいので。損はさせませんので!』

 とまで、送ってしまったくらいだ。

「そう言ってくれんのは嬉しいけどさ、俺、光海からのチョコ、欲しいんだけど? つーか、楽しみにしてたんだけど?」

 不満そうに、言ってくれるけど。

「んうぅ……」

 そう、言ってくれるのは、私だって嬉しいけど……。

「味、軽く五段くらい落ちますけど、それでも良いですか?」
「……分かってねぇなぁお前は。あのな、光海、良く聞けよ」

 何を聞けと……?

「お前からのモンは俺にとって史上最高で最高峰のモンなんだよ。つーか彼女からのバレンタインチョコだぞ。お前からのバレンタインチョコだぞ。何がどうあっても美味いに決まってんだよ。分かったか」
「んんぅ……頑張る、ます」
「おう。楽しみにしてる。貰えなかったらスッゲぇ落ち込むから、そこ、忘れんなよ」
「了解です」

 覚悟を決めよう。ここまで言ってくれた涼に、喜んでもらうために。
 バレンタインチョコ、頑張るぞ。

 ◇

「そんな訳でさ、何を贈れば良いと思う?」

 学校終わりのコーヒーチェーン。いつものように集まった3人で、私は朝の出来事を話し、相談した。

「ぶっちゃけ言えば、なんでも嬉しく思ってくれると思う」

 桜ちゃんが言う。

「私もそう思う。本人が欲しいと言っているんだから、あまり身構えず、気軽にやったらどうだ?」

 マリアちゃんも、そう言ってくれる。

「んん……一回、市販品にしようかなって、思ったけど。なんかそれは、逃げてる感じがしてね。……でも、手作りのクオリティ、自信無い……」
「みつみん、普通に料理上手いじゃん。そんなさ、……ならさ、みんなで作らない?」
「え?」「ん?」
「みつみんとマリアちゃんと私とでさ。一緒に作ろうよ。そしたらさ、あんまり肩肘張らずに作れんじゃないかな?」
「お、おお……その手が……」

 桜ちゃんの提案は、とても魅力的に思える。

「……まあ、私も構わないが。そうしたら、日程はどうする?」

 マリアちゃんのその言葉で、瞬く間に日程が組まれ、作るチョコについても話し合って。
 その場で全てが決まりました。私の友達は、とても頼りになる友達です。

 ◇

 新作の売れ行きは、光海が言ったように本当に好調で。
 しかも、光海から伝えられていたけれど、三木や、クリスマスパーティーで一緒だった他のインフルエンサーやその関連者が、新作合わせて、カメリアの宣伝をしてくれて、そこから、新規の客がごそっと来るようになった。父によれば、Webの記者からの取材の話まで、来たという。
 涼にとって、それらは、あまりに現実味のないことで。
 もともと、地元客以外の常連もいたけど、カメリアは個人経営の店であって。時代のためか、運なのか、店がこんなに多くの人に知られ、かつ、好意的な受け入れられ方をしていることに、あり得ない。そう思ってしまう。

 あり得ないだろ。こんな、夢みたいなことが。

 仏壇の前で、母に、現状を伝えて。思っていることを伝えて。全て伝えて。
 自分の努力も認めるよ。家族の力添えだって、当たり前に認めるよ。
 だけど、やっぱり。
 光海に、会えなかったら。自分はここまで、出来ていない。友人や知り合いや、周りの協力も、こんなに得られていないんだ。
 愛しい、あいつが、居てくれたから。
 だから、今こうして、ここに居ることが出来ている。夢を追うことが出来ている。
 どうしても、そう思ってしまって。
 話せば話すほど、その思いは強くなって。

 母さん。なあ、母さん。
 光海はいつも、家に来た時、手を合わせて、挨拶してくれるよな。
 それに、どう返してる? どんな返事をしてる?
 生きていたら、光海と、どんな話をしてる?
 母さん絶対、光海のこと、気に入るだろ。
 母さん。なあ。やっぱり。
 あいつと──光海と、ずっと一緒に居たいよ。
 どうすれば、良いのかな。


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