学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師

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113 本気になるぞ

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「おた、お宝……」

 コーヒーチェーンで、説明しつつ桜ちゃんにサイン色紙を渡したら、軽く悲鳴を上げられてしまって、ちょっと慌てた。

「みつみん……推しキャラ、聞いたのって……」
「うん、描いてもらおうと思って」
「私、ふたり、二人も……せ、先生は神……」

 桜ちゃんは主人公二人の名前を出したので、メモにもそう書いた。

「うん、私もね、どっちかかなって、思ってたら、二人とも描いてくれたんだよ」
「まあ、なんにしろ、良かったじゃないか。自分で言った通りに、お宝だな」

 マリアちゃんが言って、カフェオレを飲む。

「ウェルナーさんもマリアちゃんのサイン色紙、買ってたもんね」

 あれも色んな意味でお宝だろうな、と思いながら言ったら、

「ングッ!」
「ま、マリアちゃん?!」

 軽く咳き込んだマリアちゃんは、

「……いや、悪い。ちょっと気道に入りかけた……」
「ご、ごめん……そこまで反応を示されると思ってなくて……」
「マリアちゃん、日に日にウェルナーさんを好きになってくね」

 色紙を仕舞いながらの桜ちゃんの言葉に、マリアちゃんは、咳き込んでじゃなく、顔を赤くする。

「……絆されてる、感は、ある……それに、ウェルナーとアレッシオが……もう……」

 マリアちゃんは頭を抱えた。
 三人グループラインにも、SOSのように送られてきたけど、アレッシオさんとウェルナーさんは、あのあと連絡先を交換して、今ではすっかり仲良しな友人になったらしい。そして、ベッティーナさんとマリアちゃんについての魅力を語り合ってるそうな。
 うん、だろうと思ったよ。なんか根本が似てる気がするんだもん、あの二人。

「話は変わるけどさ、みつみんと高峰っち、春休みの特待生用の事前説明に参加するんだよね。お昼に言ってたけど」

 今日のお昼の時間、私と高峰さん、他数名が呼ばれて、その日程確認などをされたのだ。

「うん。前から話は聞いてたんだけど、最終決定、みたいな感じ。勉学特待生枠のグループだって。あとスポーツ枠が三人、芸術枠が二人で、来年度に特待生として入ってくる中学生と話をする感じかな。オープンスクールみたいな感じだよ」
「中学生か……懐かしい響き……」
「そうだな。あの頃はまさかこう、……こうなっているとは……誰にも予想がつかない……」
「色々あったもんね。それで、マリアちゃん、その色々のうちの撮影、順調?」

 パステルカラー・パラレルワールドの情報は、公式や、マリアちゃんのアカウントや、ミエラ先生のもチェックしてるけど。
 あと、ミエラ先生の原作本の情報がやっと公開されて、応募者全員が手に入れられる複製サイン入り単行本の予約をしたりしたけど。

「まあ、順調だ。色々勉強になってるよ。また、やり甲斐のある役どころだしな」
「詳しく聞きたいけど……公式情報を待ちます……」
「そうしてくれると有り難い」
「マリアちゃん、それさ、ウェルナーさんと観に行ったりする?」

 桜ちゃんの言葉に、マリアちゃんはちょっと固まって、

「……その、予定」

 また、顔を赤くして、言った。

 ◇

「それで、これを、受け取って欲しいんです」

 連絡を受けて、家に上げて、仏壇の前に座ったところで、光海はそれらを、差し出してきた。

「……お前……」

 涼は呆気に取られて、それらを見つめてしまう。
 2枚の、サイン入り色紙。袋小路巴、とあり、自分と、母の名前と、この前不意に聞かれた、ガシャクロのキャラクターが描かれていて。

「そのですね、そもそもなんですが──」

 なんとか色紙を受け取り、光海の説明を聞きながら、涼は、なんでか泣きそうになっているのを、堪えていた。

「それで、書いていただきました。独断ですが、受け取っていただけると、嬉しいです」
「受け取るよ。母さんも絶対喜ぶから」

 そんなに、一生懸命に、自分たちのために。

「……光海」
「はい」

 涼は一度、仏壇前の机に色紙を置いてから。

「抱きしめて、いいか」

 震えを抑えられない声で、言ってしまう。顔も、恐らく、歪んでしまっている。

「……どうぞ」

 そんな自分を見た光海は、色紙を出したカバンを畳に置いて、真面目な顔で、腕を広げて。

「ありがとう、光海」

 涼は縋るように抱きしめて、抱きしめ返されて。泣くのを堪えられずに、しゃくり上げてしまう。

「こんなことくらいしか出来なくて、すみません」
「謝んなよ……ありがとうって……言ってんだろ……嬉しいんだよ……」

 なんでここまでしてくれる?
 なんでそんなに気にかけてくれる?
 好きだけど、俺はお前の彼氏だけど、それだけの存在だぞ。
 母さんだって、お前、会ったこともないんだぞ?

「……なぁ、光海」
「はい」
「俺じゃなくてさ……他の奴が彼氏でも……こういう、状況だったら……同じこと……する……?」

 ぎゅう、と、腕に力を込めてしまう。離したくなくて。離れたくなくて。……違うと、言って欲しくて。

「……それ、そもそも、涼以外が彼氏っていう条件が、思い描けないんですけど?」

 怒ったように言われる。それを、愛おしいと思う。

「んだよ……本気に、なるぞ……?」
「どう本気になるんですか?」
「お前と、ずっと、一緒に居たいって、意味だよ……彼氏から昇格したいんだよ……」
「昇格……」

 泣きながら、また、抱きしめ直す。
 逃げられたくなくて。拒否をされたくなくて。

「なんか言え……降格はされたくねぇ……」
「……その、えっと、ですね……降格は、無いです……その、昇格って、その、具体的に言うと、……あの、アレ……ですか……?」
「分かってんのにぼかすんじゃねぇよ……結婚だよ、Marriageだよ、Marierだよ……もう俺、お前がいなきゃ駄目なんだよ……光海じゃなきゃ嫌だよ……なぁ、考えてくれ……本気で……」

 こんな形でと思うけど、もう、溢れる想いを止められない。
 重いだとかなんだとか、言われたってどうしようもない。
 けど、もう、お前が居ない未来を、思い描けない。

「……その」

 光海が、抱きしめ返してくれる。少しだけ、不安が、薄れる。

「例は無くないですけど……その、高校生でプロポーズは、その、早いと思うんです……」
「悪かったな……けど、半分くらいお前のせいだぞ……」
「えぇ……」
「えぇ、じゃねぇ……なんだ? やっぱ駄目か? 俺じゃ駄目か?」
「いえ、その、駄目ではなく、その、……う、嬉しい、ですけど……」
「けど、なんだよ」
「いえ、その、……具体像が、ちゃんと、思い描けなくてですね……その、け、結婚という……それが……」
「じゃあ」

 顔を乱暴に拭った涼は、光海を引き剥がすようにして距離を取って、顔を近づけて。

「今から、」

 その顔が、真っ赤になっていることに気付いて、息を呑んでしまって、

「……今から考えてくれ。想像してくれ」

 どんどん赤くなっていく顔に、追い打ちをかけるように。

「言い続けるから。伝え続けるから。俺、本当の本気だからな。諦めるつもり、ねぇからな。お前のこと、愛してるから。光海」

 赤く染まったその頬に、キスをして。

「ひぅ……」
「またかっわいい声出しやがって」

 涼はまた、今度は抱き込むように抱きしめて。

「好きだよ愛してるお前以外に考えらんねぇ一生を共に生きていきたい。あと、具体像、今、一例を言う」
「へ……」
「父さんと母さんの話。友人の紹介で知り合ったって言ったよな。あれちょっと、遠回しな言い方なんだよ。母さんは気にしてなかったけど、父さんは出会い方、気にしていつもそう話すから。二人な、高校の時に半強制参加の合コン……まあ、食事会みたいなやつだよ。そこで会ったんだ」


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