学年一の不良が図書館で勉強してた。

山法師

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133 惚れた理由と友人関係

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 銀髪も、灰色の瞳も褐色肌の肌も。生まれつきのただの個性なのに。
 周りはそんな自分を、別の生き物を見るような目で見る。

『どこ生まれ?』
『え、日本人なの?』
『何語話せる?』
『属性盛り盛りな見た目してるよね』

 耳障りで無邪気な、言葉の刃。
 それにいちいち傷つく自分が疎ましくなってきて、見た目通りの言動をするようになり。周りを嘲笑うために、流れている血の言語を習得した。そしたら余計、周りは見当違いな期待やらなんやらを自分に向けてきた。だから、更に様々な言語を習得し、望まれるだけ頭の良い人間になり、体も鍛えるようになった。

 それらは武器や鎧になるが、身に付ければ身に付けるほど、周りの人間は勝手に自分をよく分からない人間に仕立て上げる。

 期待の眼差し。嫉妬の眼差し。それらを隠した眼差し。様々な眼差しが突き刺さる。それが日常となっていく。本当の自分を知っている人間が、周りから消えていく。
 そして家族でさえ、いつの間にか、自分をそういう人間なのだと思うようになっていた。味方だった家族でさえ。
 友達の絆も、家族の縁も偽物になった。
 だったらもう、演じきろう。一生道化で在れば良い。孤独だとかはどうでもいい。そんなもの、気にしていたら生きていけない。そう思いながら、中学の先生が勧めてきた河南を受験して、合格して。
 そして特待生の説明会でも、そういう人間を演じた。

 なのに、彼女は。

 成川光海はそんな自分を、奇異の目で見るでもなく。変な期待を寄せるでもなく。
 普通の人間のように。当たり前に存在する人間のように、接した。
 どれだけ色々な言語で問答を繰り返しても。挑発するような言葉を使っても。
 さらりと受け流されて、笑顔で応じてくる。
 興味が湧いた。そんな彼女に。
 だから名前で呼んでほしいと言った。もっと身近な存在になりたくて。どこまで身近になれるか知りたくて。
 名前を呼ばれて、自分も呼んで。

 その時、思った。欲しい、と。
 成川光海という存在が、欲しい。

 もっと近づきたくて、本当の自分を見て欲しくて。
 少しだけ弱音を吐いたら、光海は自分に心を傾けてくれた。嬉しかった。余計に欲しいと思った。もっと自分を見て欲しい。本当の自分を見て欲しい。
 彼女の心が、欲しい。
 そして、欲しいと思えば思うほど、関われば関わるほど、その想いに拍車がかかっていく。少しでも会話できるだけで、単純に喜んでしまうような思考回路が出来上がっていく。
 

 ◇

「だから、落とされたって言ったでしょ。光海先輩が欲しいんだよ。光海先輩だけ欲しい。アンタが本当邪魔だよ、涼先輩。涼先輩より先に、俺が光海先輩に会いたかった。そしたら堂々と口説けたんだよ。終わり。どう? 重くもなんともないでしょ」
「それなりに重いと思うが……それと五十嵐、その姿勢、どうにかしろ。話は終わったらしいから」

 涼の言葉の意味が掴めず、伊緒奈が顔を上げると。

「……なにしてんの? 弘和さん」

 五十嵐は、頭を抱えて体を折り曲げ、膝に顔を埋めていた。

「ほっとけもう少しこのままでいさせろ。耳を塞がなかった俺は勇者だから。レベルアップした感じするから」
「レベルアップしたなら姿勢を戻せよ」
「無理。ヤダ。途中からただの告白だったし。橋本のは耐性ついてたけど、下野のは初めて聞くし。体に抗体が出来てない」
「ウイルスみたいに例えんなよ」
「もはやウイルスだろ。不治の病だろ、これ。どーしてくれんの下野お前。俺もうアイツの話一生分聞いた気がする」
「いや、一生分って。人生短すぎでしょ」

 五十嵐の様子に呆気に取られた伊緒奈は、呆気に取られたままツッコんだ。

「俺の人生は短い予定だったから良いんだよ。俺の黒歴史聞いてただろが。そのうち野垂れ死にする予定だったんだよ」
「だからお前が死ぬと光海が悲しむって」
「今名前聞かせんなコラ」
「俺のは耐性ついてんだろ」
「今は無理だって言ってんだろ。耐性ついててもウイルスに負ける時は負けるんだよ」
「だからウイルス扱いすんなって」
「そう思うなら俺に話しかけんなその関連で。そっとしろ。俺のために」
「光海のためじゃねぇんだ?」
「今絶対わざと名前言っただろコラァ」

 妙な姿勢のままの五十嵐と、それを呆れたように眺めながら話しかける涼の、二人のやり取りと。
 それを困ったように、けれど楽しそうに眺める高峰を見て、伊緒奈は、これが通常運転なのだと理解する。

「……弘和さん、本当に拗らせてんね。これからちゃんと生きていけんの? 初恋から脱却できんの?」

 からかうように言ってみたら、

「テメェ下野良い気になってんな? 生意気さが戻ったなお前。もう少しして回復したら一発食らわせてやるから待ってろそこで」

 五十嵐はその姿勢のまま、語気だけ強めて言ってきた。

「だから食らわせんな。お前の一発はガチの一発だって言ってんだろ」

 涼が呆れを強くして、五十嵐を窘める。

「止めてくれるな橋本。お前のライバルだろが。俺はライバルではねぇけど」
「頑なだな。そんで、いつになったら回復すんだ?」
「知るか。下野のガチ恋のレベルが高すぎんだよ。逆になんでお前はそんな冷静なんだよ自分の彼女が寝取られそうな状況で」
「みつ、アイツの彼氏の座を譲る気はねぇからな」
「はいダメージ食らった。言いかけたそれで結構なダメージ食らった。もうなんか別の話しろ。アイツの話はするな」
「このメンツでアイツの話は避けられないだろ」
「じゃあもう無言でいろ。下野も無言」

 駄々をこねる子どものようだ。伊緒奈はそう思って、涼が五十嵐を幼児だと言ったそれを思い出す。

「……無言は無理だね。俺が何を喋るかは俺の自由だし。光海先輩への愛を語りまくろうか?」
「下野テメェ……」

 五十嵐が声を低くする。

「伊緒奈、今はやめてやってくれ。せめて回復してからにしてくれ」

 涼が伊緒奈へ顔を向け、困ったように言う。

「回復しても聞きたくねぇんだけど?」「えー? 面白くない」

 三人のやり取りを眺めていた高峰は、まあ、目的は達成されたかな、と、思いながら。

「下野くん。下野くんが友達だと思ってなくても、友達のほうは下野くんを友達だと思ってると思うよ」
「どうですかね」

 肩を竦めた伊緒奈は、

「お前、疑心暗鬼になってるフシがあるよな」

 涼の言葉に、目を眇め、

「過去のせいなのは理解できるが。体育祭の朝に一緒にいた1年は、俺から見て普通にダチに見えたけどな。昼も一緒に食べたんだろ? 思い返してみろ。お前が思ってるより、お前の周りはお前をちゃんと見てるかも知んねぇから。特に河南のダチは」

 そんな訳あるかと思い返して、

「……」

 特待生ということを加味しても、気が楽な空気だったと思ってしまい、顔をしかめた。

「──なら、涼先輩。涼先輩は俺と友人になれる? 弘和さんも。ライバルなんでしょ?」
「なr「俺はライバルではねぇしダチにもならん」……なれると思うよ。先輩後輩の友人だって、普通にあるだろ」

 未だに回復できないらしい五十嵐に遮られながら、涼は当たり前のように答えた。

「なら、友人でライバルってことで。回復できてない弘和さんも含めて」
「ライバルじゃねぇっつってんだろ」
「弱そうなライバルだなぁ」
「下野お前マジあとで覚えてろ」
「お前完全に伊緒奈に遊ばれてんな」
「そう思うなら助けろや橋本」
「どう助けりゃいいんだよ」
「下野の口を塞げ。その辺にある物を突っ込むとかで」
「それは助けるとは言わねぇよ」
「発想が物騒だなぁ」

 高峰は三人を見ながら、トリオというより兄弟みたいだな、と思った。

 
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