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面倒なトラブル
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※※※
「「「……」」」
腕が手を振って何処かに消えてからも、3人はその場佇んだまま暫く動けずにいた。
だが1人が「痛てて!」とフォレストウルフに噛まれた箇所の痛覚で声を出すと「そういや俺も爪で怪我してたんだ」「俺も怪我してるわ」と、それぞれ思い出した様に声を続ける。
「……良く分からないけど助かったらしいな」
「ああ。何だったんだろうな、あの腕」
「まあでも、あの腕は俺達3人より強いって事だ」
最後の1人が自虐気味にそう言うと、3人は何だか自分達が情けなくなってしまった。そしてこれからはちゃんと受付嬢の言う事を聞いて、無理しない様にしよう、と反省したのだった。
「とりあえずフォレストウルフの魔石取ろうぜ。あ、爪と牙と毛皮も忘れんなよ」
「毛皮の剥ぎ方ってどうやるんだっけ?」
「前メタルランカーの荷物持ちやった時に教えて貰っただろ」
1人がそう言ってポケットから折りたたみナイフを取り出し、手際良く毛皮を剥ぎ始める。どうやらその彼が体内にある魔石も採取する様なので、他の2人は他のフォレストウルフの牙と爪の採取を始めた。
「しかしさあ、こんだけの数持って帰ったら怪しまれるんじゃないか?」
「そうだな。なんて言おう?」
毛皮を剥がしている1人が「そんなん、俺達が倒したって言えばいいじゃねーか」と言うが、他の2人から突っ込まれる。
「いや無理があるだろ。フォレストウルフ10匹だぞ? メタルランク数人ならまだしも。しかも俺等今日初めての狩りなんだぞ?」
「1匹ならまだギリギリ信用されるかも知れないけど、流石にこの数はなあ」
「じゃあどっかから謎の腕がやって来て、全部倒して行きましたって、正直に言うのか?」
体内から魔石を取り出した彼がそう言うと、2人は黙ってしまう。
「でも本当の話だしなあ」
「信じて貰えるなら、だけどな。でもどうやって倒したかも分からなかった。フォレストウルフの頭の真ん中に皆小さな穴空いてるから、そこに何かしたんだろうってのは判るんだけど」
3人はあれこれ考えながら黙々と作業をする。まだ午前中とは言えこの数なので、早く終わらせないと日が暮れてしまう。
ふと、牙の採取をしていた1人が「2人とも静かに」と、口に人差し指を当て黙る様促した。
どうした? と不思議に思った2人が聞こうとしたところで、森の奥の方からザッザッザッと複数人の足跡が聞こえてきた。「おい! 隠れるぞ!」と慌てて3人は作業を途中で止めて大木の幹の裏側に逃げる。
そしてソーっと覗いてみると、町では有名な盗賊の頭、ボングの姿とその取り巻き達が居た。驚いた3人がヒソヒソ話す。
「お、おい。ボング達だぞ? どうする?」
「どうするも何も、俺等じゃ相手にもならないよ」
「ああ。見つかったら殺されちまう」
隙を見て逃げる事を考え始めた3人はそーっと様子を伺う。するとボングがフォレストウルフの死骸達を発見し、「おい! 何だこりゃあ?」と後ろの部下達に大声を上げるのが聞こえた。
「こりゃあ、フォレストウルフ? 1、2……、10体ありますぜ?」
「頭を何かが貫通して即死っぽいす」
「弓? にしてもこんな小さな穴な訳ねーしな」
「おいゴルガ。何か心当たりあるか?」
ゴルガの名前が聞こえた3人が驚いた顔をして見合わせる。そして別の角度から覗き込むと、確かにゴルガの姿がそこにあった。
「ゴルガ、盗賊になったのか?」
「いやこれ、報告しないといけないんじゃ?」
「それにはまず、ここから逃げないとな。あーあ、ゲットしたの魔石1個だけかよ」
魔石を取り出した1人が小声でそう言いながらポケットから出す。すると滑って落としてしまい、不運にも下の石に当たり、カコーン、と音が響いた。
それを聞き逃さなかったゴルガが、「あ? 何だ?」と3人が隠れている大木の幹に近づいてくる。やばい、でもきっと逃げても使ってしまう。そう思って3人は揃って息も漏らさない様口を抑え、ゴルガがこちらを覗かない事を願いながらじっと固まった。
だがゴルガは迷う事なく大木の幹に向かってくる。ザッザッとゴルガの足音が近づいて来る。これはもうどうしようもない。と思った3人はお互い口を抑えながらコクリと頷き、覚悟を決め、ゴルガが覗いた瞬間、一斉に攻撃を仕掛けてやろう、と固唾を呑んで武器をしっかと握った。
ところが、幹に近づく前にゴルガの足音がピタリと止まる。
「……てめぇ。よくものこのこと」
何やら怒りを滲ませたゴルガの声が。3人は不思議に思って覗こうとしたところで、バシ、バシ、バシ、と首筋に強烈な痛みを感じ、そのまま気絶してしまった。
※※※
「はあ。全く。私が行かなくても腕だけでも良かったんだけどね。でもあのままだとあの3人見つかっちゃうから、私が囮にならないと間に合わなかったし、仕方ないよね」
ため息混じりで愚痴るミーク。
センサーの反応からしてまたも3人に危機が迫っている事を悟ったミークは、面倒臭いと思いつつも、とある事を思いつき、腕だけで処理せず自分がその場所に行く事に決めた。
そして身体能力3倍で森の中を駆け、約3分程でやって来たのである。
一方眼の前に突如現れたミークを見たゴルガは、前にギルド前で投げられた時同様、自分の事を全く怖がらず気にもしていないその不遜な態度に、怒りでわなわなと震えこめかみに血管が浮いている。
何故ここにミークが突然現れたか、疑問に思う事もしない程、怒っている模様。
「てめぇ! 何ごちゃごちゃ訳分かんねぇ事言ってんだ! お前のせいで俺は町から出る羽目になったんだ!
「あーうっさい。声でかい。こんな近いのにそんな大きい声必要? てか、そうなったのはあんたのせいでしょ」
ゴルガが「何だと!?」と更に何か言おうとしたところで、「まあまあちょっと待て」と盗賊頭のボングがゴルガの肩に手を置いて落ち着かせ出てきた。
「よお。空飛ぶ女。俺ら覚えてるか? 今日こそお前を捕まえてたっぷり楽しませて貰うぜ」
「覚えたくないけど覚えちゃってる。てか、どうやって捕まえんの?」
ボングがニヤリと笑ったところで、いきなり木の上から一斉に網がミークに向かって投げられた。バサァ、とそれがミークに覆い被さる。
「よし、お前らあ! 被されぇー!」
おおー! と4人の盗賊達が一斉に更にミークに覆い被さった。
「ほぉら捕まえてやったぜ! 飛ぶって分かってんなら飛ばさなきゃ良い。因みにその網は普通の網じゃねえ。キラースパイダーの糸に鋼鉄を編み込んだ、滅茶苦茶頑丈な網だ。ドラゴンでも中々破れない優れもの。へへ、お前みたいな上玉そうそう出会わねぇからなあ。昨日コケにされた分、たっぷり遊んでやるからなあ」
「へへへ。頭の後は俺が頂きますぜぇ」「何言ってんだ俺だ」「いや俺だ」「いや……って、何か様子おかしくねぇか?」
覆いかぶさっていた男の1人が違和感に気付き、網の中を見てみる。するともぬけの殻だった。
「え? あ、網が切れてる!」
「はあ? んな訳あるか!」
「で、でも……」
そう言って恐る恐る部下が網を見せる。確かに網の上部が綺麗パックリ切れていた。それを見たボングが「く、くそ! どうやって切ったんだ?」とキョロキョロあたりを見回す。
それをミークは彼らの上空20m辺りでホバリングしながら「ふわ~あ~あ」と退屈そうに欠伸をしながら見ている。
「ていうか、前も空飛んで逃げたんだから、私が何処に居るか想像つきそうなんだけど」
きっとアホなんだな、と必死にあちこち探している様子を見下ろしながら、「あ、あいつらが探し回ってる間に、あの3人見つかるかも知れない」と思い、早く何とかしないと、と思案した結果、もう一度盗賊達の前に姿を表す事にした。
スッと空からボングの眼の前に降りてきたミーク。それに気付いたボングは「こいつ! また空に逃げてやがったのか! 次こそは逃さねぇ!」と掴みかかって来た。
だがミークはそれを半身で躱す。「うわ!」そのまま転けそうになるところで、首に手刀を入れ気絶させた。
他の連中が呆気に取られている間、ミークはそれぞれ素早く背後に周り、それぞれ首筋に手刀を入れバタバタと気絶させていく。まるで旋風の様に移動し倒してくいくミークを見ながら、ゴルガは固唾を呑む。
「な、何だこの女……。強すぎる」
「そお? まだ全然本気出してないけど」
パンパン、と手を払いゴルガの独り言に答えると、「さて、後はあんただけだね」と無造作にゴルガに近づいていく。さらり、とミークの黒髪が風に流れ颯爽と歩く様は、当に絵画の如く美しさ。だがその美貌とは反する様な強さに、ゴルガは身動きが出来ない。
ミークが近づいて来たところで、ゴルガはとある事に気付く。
「あ、あれ? お前その左目、何だ?」
「ああ。これが私の本来の目けどね。それより聞きたい事あるんだけど」
「な、何だ?」
「盗賊って殺しても良いの?」
無表情で質問する超絶美女。何故か紅色の瞳は生気を感じない。その歪な美しさだからこそ、底知れない恐ろしさを感じるゴルガ。
……こいつはきっと、躊躇い無く人を殺せる。そして今自分も盗賊だ。だから当然、自分も同様に殺される。
そう思ったゴルガは、
「と、盗賊は殺すより連行した方が良い! 何でかって、こいつらはアジトにこれまで奪った財宝とかを隠してるからだ! 盗まれた品を取り返すなら、生きたまま連れ帰って、情報聞き出さないといけないからな!」
必死に語るゴルガに、ミークは成る程、と少し思案する。
「じゃああんたも眠って貰った方が良いね」
ミークがそう呟くと同時に、ゴルガの視界が暗くなった。
※※※
「おーい、起きて」
「ん……、う~ん。んふふ、ネミルちゃ~ん」
「ネミルって言った。ネミル知ってるんだ。そしてきっと気持ち悪い夢見てる。それはともかく、起きろ」
ゴン、と軽く頭を蹴る。「痛ってーなあ! 誰だよ良い夢見てたのに……」と叫んだところで男は固まる。
黒髪で顔の整った、黒茶色の瞳にスッと通った鼻筋、やや小さめの唇は小顔に収まっている。自分を起こした女性の余りの美しさに男は息を呑む。
「あ、起きたね。お願いがあるんだけど」
「は、はい! なんでござましょう!」
「そんな慌てなくて良いんだけど。ほらあそこ。どうやら盗賊と魔物がやり合って同士討ちみたいになっちゃってる。あれ報告しといて貰って良い?」
「え?」
起き上がって見てみると、確かにフォレストウルフの死体と、ボング達盗賊、そしてゴルガが転がっていた。盗賊達はどうやら全員気絶しているだけで死んではいない模様。
「え? あれ? いやでも……、あれれ?」
「どうかした?」
「い、いやだって、フォレストウルフ達は確か、腕? が1本やって来て、何か倒した筈なんだけど」
それを聞いたミークがわざとらしく大きな声でアハハと笑う。
「何それ? 腕が? 夢でも見てたんじゃないの?」
「そ、そうか、な? いやでも……、そ、そうか。確かにおかしいもんな……って、君は何者?」
「ああ。私は森の入口で木の実取ってたんだけど、声が聞こえてきたから様子見に来て、そしたらアレ見つけた。しかもあなた達3人共ここで寝てるし。私はもう戻りたいから、報告お願いね」
そう言い残してミークはさっさとその場から立ち去る。
「あ、ああ。あ、ちょっと待って! 君、名前は?」
起きた1人が森の外へ向かっていくミークに慌てて声をかけ引き留めようとするが、ミークは聞こえないフリをしてそのまま駆けていった。
「強引だったけど、きっと誤魔化せてると思う。割りといいアイデアだと思うんだよね」
身体能力3倍はそのままなので、時速40km近くのスピードで森の中を駆けていくミーク。数分程で森の外、元々薬草を採取していた場所に出た。
「一応盗賊達の武器使って、適当に魔物を傷つけたから、戦ったみたいに見えると思うし多分大丈夫でしょ。魔物を倒したのは盗賊達。盗賊達も力尽きて倒れてた。それを偶然冒険者が見つけた、というシナリオ、これきっといける筈」
因みに木の実採取と言ったのは、薬草だと冒険者なのかも、と勘ぐられるかも知れないと思ったからだ。
私上手くやったよねー、と自画自賛しながら、ミークは採取した薬草の束を抱え、町へ戻って行った。
「「「……」」」
腕が手を振って何処かに消えてからも、3人はその場佇んだまま暫く動けずにいた。
だが1人が「痛てて!」とフォレストウルフに噛まれた箇所の痛覚で声を出すと「そういや俺も爪で怪我してたんだ」「俺も怪我してるわ」と、それぞれ思い出した様に声を続ける。
「……良く分からないけど助かったらしいな」
「ああ。何だったんだろうな、あの腕」
「まあでも、あの腕は俺達3人より強いって事だ」
最後の1人が自虐気味にそう言うと、3人は何だか自分達が情けなくなってしまった。そしてこれからはちゃんと受付嬢の言う事を聞いて、無理しない様にしよう、と反省したのだった。
「とりあえずフォレストウルフの魔石取ろうぜ。あ、爪と牙と毛皮も忘れんなよ」
「毛皮の剥ぎ方ってどうやるんだっけ?」
「前メタルランカーの荷物持ちやった時に教えて貰っただろ」
1人がそう言ってポケットから折りたたみナイフを取り出し、手際良く毛皮を剥ぎ始める。どうやらその彼が体内にある魔石も採取する様なので、他の2人は他のフォレストウルフの牙と爪の採取を始めた。
「しかしさあ、こんだけの数持って帰ったら怪しまれるんじゃないか?」
「そうだな。なんて言おう?」
毛皮を剥がしている1人が「そんなん、俺達が倒したって言えばいいじゃねーか」と言うが、他の2人から突っ込まれる。
「いや無理があるだろ。フォレストウルフ10匹だぞ? メタルランク数人ならまだしも。しかも俺等今日初めての狩りなんだぞ?」
「1匹ならまだギリギリ信用されるかも知れないけど、流石にこの数はなあ」
「じゃあどっかから謎の腕がやって来て、全部倒して行きましたって、正直に言うのか?」
体内から魔石を取り出した彼がそう言うと、2人は黙ってしまう。
「でも本当の話だしなあ」
「信じて貰えるなら、だけどな。でもどうやって倒したかも分からなかった。フォレストウルフの頭の真ん中に皆小さな穴空いてるから、そこに何かしたんだろうってのは判るんだけど」
3人はあれこれ考えながら黙々と作業をする。まだ午前中とは言えこの数なので、早く終わらせないと日が暮れてしまう。
ふと、牙の採取をしていた1人が「2人とも静かに」と、口に人差し指を当て黙る様促した。
どうした? と不思議に思った2人が聞こうとしたところで、森の奥の方からザッザッザッと複数人の足跡が聞こえてきた。「おい! 隠れるぞ!」と慌てて3人は作業を途中で止めて大木の幹の裏側に逃げる。
そしてソーっと覗いてみると、町では有名な盗賊の頭、ボングの姿とその取り巻き達が居た。驚いた3人がヒソヒソ話す。
「お、おい。ボング達だぞ? どうする?」
「どうするも何も、俺等じゃ相手にもならないよ」
「ああ。見つかったら殺されちまう」
隙を見て逃げる事を考え始めた3人はそーっと様子を伺う。するとボングがフォレストウルフの死骸達を発見し、「おい! 何だこりゃあ?」と後ろの部下達に大声を上げるのが聞こえた。
「こりゃあ、フォレストウルフ? 1、2……、10体ありますぜ?」
「頭を何かが貫通して即死っぽいす」
「弓? にしてもこんな小さな穴な訳ねーしな」
「おいゴルガ。何か心当たりあるか?」
ゴルガの名前が聞こえた3人が驚いた顔をして見合わせる。そして別の角度から覗き込むと、確かにゴルガの姿がそこにあった。
「ゴルガ、盗賊になったのか?」
「いやこれ、報告しないといけないんじゃ?」
「それにはまず、ここから逃げないとな。あーあ、ゲットしたの魔石1個だけかよ」
魔石を取り出した1人が小声でそう言いながらポケットから出す。すると滑って落としてしまい、不運にも下の石に当たり、カコーン、と音が響いた。
それを聞き逃さなかったゴルガが、「あ? 何だ?」と3人が隠れている大木の幹に近づいてくる。やばい、でもきっと逃げても使ってしまう。そう思って3人は揃って息も漏らさない様口を抑え、ゴルガがこちらを覗かない事を願いながらじっと固まった。
だがゴルガは迷う事なく大木の幹に向かってくる。ザッザッとゴルガの足音が近づいて来る。これはもうどうしようもない。と思った3人はお互い口を抑えながらコクリと頷き、覚悟を決め、ゴルガが覗いた瞬間、一斉に攻撃を仕掛けてやろう、と固唾を呑んで武器をしっかと握った。
ところが、幹に近づく前にゴルガの足音がピタリと止まる。
「……てめぇ。よくものこのこと」
何やら怒りを滲ませたゴルガの声が。3人は不思議に思って覗こうとしたところで、バシ、バシ、バシ、と首筋に強烈な痛みを感じ、そのまま気絶してしまった。
※※※
「はあ。全く。私が行かなくても腕だけでも良かったんだけどね。でもあのままだとあの3人見つかっちゃうから、私が囮にならないと間に合わなかったし、仕方ないよね」
ため息混じりで愚痴るミーク。
センサーの反応からしてまたも3人に危機が迫っている事を悟ったミークは、面倒臭いと思いつつも、とある事を思いつき、腕だけで処理せず自分がその場所に行く事に決めた。
そして身体能力3倍で森の中を駆け、約3分程でやって来たのである。
一方眼の前に突如現れたミークを見たゴルガは、前にギルド前で投げられた時同様、自分の事を全く怖がらず気にもしていないその不遜な態度に、怒りでわなわなと震えこめかみに血管が浮いている。
何故ここにミークが突然現れたか、疑問に思う事もしない程、怒っている模様。
「てめぇ! 何ごちゃごちゃ訳分かんねぇ事言ってんだ! お前のせいで俺は町から出る羽目になったんだ!
「あーうっさい。声でかい。こんな近いのにそんな大きい声必要? てか、そうなったのはあんたのせいでしょ」
ゴルガが「何だと!?」と更に何か言おうとしたところで、「まあまあちょっと待て」と盗賊頭のボングがゴルガの肩に手を置いて落ち着かせ出てきた。
「よお。空飛ぶ女。俺ら覚えてるか? 今日こそお前を捕まえてたっぷり楽しませて貰うぜ」
「覚えたくないけど覚えちゃってる。てか、どうやって捕まえんの?」
ボングがニヤリと笑ったところで、いきなり木の上から一斉に網がミークに向かって投げられた。バサァ、とそれがミークに覆い被さる。
「よし、お前らあ! 被されぇー!」
おおー! と4人の盗賊達が一斉に更にミークに覆い被さった。
「ほぉら捕まえてやったぜ! 飛ぶって分かってんなら飛ばさなきゃ良い。因みにその網は普通の網じゃねえ。キラースパイダーの糸に鋼鉄を編み込んだ、滅茶苦茶頑丈な網だ。ドラゴンでも中々破れない優れもの。へへ、お前みたいな上玉そうそう出会わねぇからなあ。昨日コケにされた分、たっぷり遊んでやるからなあ」
「へへへ。頭の後は俺が頂きますぜぇ」「何言ってんだ俺だ」「いや俺だ」「いや……って、何か様子おかしくねぇか?」
覆いかぶさっていた男の1人が違和感に気付き、網の中を見てみる。するともぬけの殻だった。
「え? あ、網が切れてる!」
「はあ? んな訳あるか!」
「で、でも……」
そう言って恐る恐る部下が網を見せる。確かに網の上部が綺麗パックリ切れていた。それを見たボングが「く、くそ! どうやって切ったんだ?」とキョロキョロあたりを見回す。
それをミークは彼らの上空20m辺りでホバリングしながら「ふわ~あ~あ」と退屈そうに欠伸をしながら見ている。
「ていうか、前も空飛んで逃げたんだから、私が何処に居るか想像つきそうなんだけど」
きっとアホなんだな、と必死にあちこち探している様子を見下ろしながら、「あ、あいつらが探し回ってる間に、あの3人見つかるかも知れない」と思い、早く何とかしないと、と思案した結果、もう一度盗賊達の前に姿を表す事にした。
スッと空からボングの眼の前に降りてきたミーク。それに気付いたボングは「こいつ! また空に逃げてやがったのか! 次こそは逃さねぇ!」と掴みかかって来た。
だがミークはそれを半身で躱す。「うわ!」そのまま転けそうになるところで、首に手刀を入れ気絶させた。
他の連中が呆気に取られている間、ミークはそれぞれ素早く背後に周り、それぞれ首筋に手刀を入れバタバタと気絶させていく。まるで旋風の様に移動し倒してくいくミークを見ながら、ゴルガは固唾を呑む。
「な、何だこの女……。強すぎる」
「そお? まだ全然本気出してないけど」
パンパン、と手を払いゴルガの独り言に答えると、「さて、後はあんただけだね」と無造作にゴルガに近づいていく。さらり、とミークの黒髪が風に流れ颯爽と歩く様は、当に絵画の如く美しさ。だがその美貌とは反する様な強さに、ゴルガは身動きが出来ない。
ミークが近づいて来たところで、ゴルガはとある事に気付く。
「あ、あれ? お前その左目、何だ?」
「ああ。これが私の本来の目けどね。それより聞きたい事あるんだけど」
「な、何だ?」
「盗賊って殺しても良いの?」
無表情で質問する超絶美女。何故か紅色の瞳は生気を感じない。その歪な美しさだからこそ、底知れない恐ろしさを感じるゴルガ。
……こいつはきっと、躊躇い無く人を殺せる。そして今自分も盗賊だ。だから当然、自分も同様に殺される。
そう思ったゴルガは、
「と、盗賊は殺すより連行した方が良い! 何でかって、こいつらはアジトにこれまで奪った財宝とかを隠してるからだ! 盗まれた品を取り返すなら、生きたまま連れ帰って、情報聞き出さないといけないからな!」
必死に語るゴルガに、ミークは成る程、と少し思案する。
「じゃああんたも眠って貰った方が良いね」
ミークがそう呟くと同時に、ゴルガの視界が暗くなった。
※※※
「おーい、起きて」
「ん……、う~ん。んふふ、ネミルちゃ~ん」
「ネミルって言った。ネミル知ってるんだ。そしてきっと気持ち悪い夢見てる。それはともかく、起きろ」
ゴン、と軽く頭を蹴る。「痛ってーなあ! 誰だよ良い夢見てたのに……」と叫んだところで男は固まる。
黒髪で顔の整った、黒茶色の瞳にスッと通った鼻筋、やや小さめの唇は小顔に収まっている。自分を起こした女性の余りの美しさに男は息を呑む。
「あ、起きたね。お願いがあるんだけど」
「は、はい! なんでござましょう!」
「そんな慌てなくて良いんだけど。ほらあそこ。どうやら盗賊と魔物がやり合って同士討ちみたいになっちゃってる。あれ報告しといて貰って良い?」
「え?」
起き上がって見てみると、確かにフォレストウルフの死体と、ボング達盗賊、そしてゴルガが転がっていた。盗賊達はどうやら全員気絶しているだけで死んではいない模様。
「え? あれ? いやでも……、あれれ?」
「どうかした?」
「い、いやだって、フォレストウルフ達は確か、腕? が1本やって来て、何か倒した筈なんだけど」
それを聞いたミークがわざとらしく大きな声でアハハと笑う。
「何それ? 腕が? 夢でも見てたんじゃないの?」
「そ、そうか、な? いやでも……、そ、そうか。確かにおかしいもんな……って、君は何者?」
「ああ。私は森の入口で木の実取ってたんだけど、声が聞こえてきたから様子見に来て、そしたらアレ見つけた。しかもあなた達3人共ここで寝てるし。私はもう戻りたいから、報告お願いね」
そう言い残してミークはさっさとその場から立ち去る。
「あ、ああ。あ、ちょっと待って! 君、名前は?」
起きた1人が森の外へ向かっていくミークに慌てて声をかけ引き留めようとするが、ミークは聞こえないフリをしてそのまま駆けていった。
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身体能力3倍はそのままなので、時速40km近くのスピードで森の中を駆けていくミーク。数分程で森の外、元々薬草を採取していた場所に出た。
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