隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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ジャミーさん有能

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 ※※※

「……」

 1機のドローンがミークのうなじを撮影し、そしてそれを見ても居ないのに、ジャミーが奥から持って来た筆と紙を用い、左手が器用に魔法陣を描いていく。その不可思議な様子を呆然と見ているジャミー。

「もう何が何だか意味不明過ぎて、これ夢なのかしら? って思ってしまうわ」

 先程奴隷魔法の解除方法を伝えたジャミーは、眼の前のミークに起こっている現象について良く分からないといった表情で見ている。因みにその間もずっとミークは「外に出て」と繰り返している。

 奴隷魔法の解除方法、それは身体に描かれた魔法陣に対し、正確に左右線対称に描いた魔法陣との事だった。だが魔法陣はそもそも人の手で書かれており、しかも人体に描かれている為少し凹凸がある。正確に左右線対称に描くのは相当至難の業なのである。なので一度奴隷紋を付けられると、基本一生奴隷の状態から逃れられない、というのが通例なのである。

 だがどうやら、ミークに描かれた魔法陣の線対称の描写はうまく出来た様である。しかもものの数分で出来上がった。ジャミーは傍からその紙に描かれた魔法陣を覗き込むと、口に手を当て唖然とする。

「凄い精密だわ……。正直私も奴隷紋を見た経験は少ないけど、線対称のものをこんな正確に描くって到底無理ってのは分かるから、驚きしか無いわね」

 そして相変わらず「外に出て」を繰り返しているミークの左目が、またも映像で文字を壁に映し出す。

(次ハドウスレバ良イデスカ?)

 突如壁に文字が写り、唖然としていたジャミーはそれを見てハッとする。

「……あ、ああ、次ね? 次はえーっと確か、その線対称に描いた魔法陣を、うなじの奴隷紋に押し当てて魔素を流し込むのよ。だから奴隷紋の解除って魔法使いじゃないと出来ないわけ。仕方無いわ。私がやってあげるわよ」

 そう言ってジャミーはに線対称に描かれた魔法陣を、ミークのうなじに押し付け、魔素を流した。

 すると、パキィン、とガラスが割れる様な音がすると同時に、ミークのうなじに描かれた魔法陣と、紙の魔法陣両方がボゥ、と炎が立ち昇った様に消えた。するとミークは「外に出て」」と呟いていたのがピタ、と止まり、いきなりその場にうつ伏せにバッタリ倒れた。

「ちょっと! あんた大丈夫?」

 ジャミーが慌ててミークに近寄り支えようとする。だが、ミークは直ぐ自ら立ち上がる。

「……」

「ど、どう? 気分は悪くない?」

「……気持ち悪い」

「え?」

「気っもち悪ーーーーい! 何なのアイツ! 謝ってたし大人しかったから反省してたと思ったのにーー!! それより! それよりーー!!」

 突如大声で叫ぶミークにジャミーは驚きながら質問する。

「そ、それより? それよりなんなのよ?」

「私の髪触ったーーーー! お姫様抱っこもしやがったーーーー! 望仁にもやって貰った事無いのにーーーー! あーもうむかつくーーーー! 腹が立つーーーー!」

 ギャーギャー大声出しながら地団駄踏むミークに、ジャミーは傍から見て呆れる。

「い、いきなり大声出して何を言ってんのよ! ……ま、とりあえず、上手くいって良かったわ」

 こんなに感情を顕にするミークを見るのは初めてだったジャミー。呆れつつも奴隷紋の解除が上手くいった事にホッと胸を撫で下ろした。そしてどうやらミークは奴隷になっている間の記憶はあった様である。

「!」

 だが突然、ミークは何かに反応し外に目を向ける。そしていきなり左腕を音もなく切り離し、そのままドン、と何処かに飛ばした。そして片腕が無いままジャミーに向き直り、ペコリと頭を下げる。

「ジャミーさん、色々ありがとうございます。本当助かりました。でも私、ちょっと急がないといけないので行ってきます。あ、そうだ。彼等置いていきますのでお願いします」

「は? あんた急に何言ってるの?」

 意味が分からないジャミーの疑問に答えるより早く、ミークは異空間収納ポシェットから例のシュラフ2つと荷物を取り出した。そしてシュラフに左目で光を当てると、プシュー、と空気が抜ける音と共にシュラフが開いた。

「じゃ、後で」

 唖然としているジャミーにそう軽く挨拶した後、ミークは外に出て「身体能力5倍」とAIに指示をし、片腕が無いまま慌てて駆けて行った。

 ※※※

「油断してたよ。流石にAIも悪意までは気付けないもんね」

 静かに話すミークだが、その声色には明らかに怒気が孕んでいる。そして左腕を自身の傍らにふよふよ浮かばせながら、ギルドの中にゆっくり入っていくミーク。その先には四肢が全て肘膝から逆方向に向き、喉を潰され瀕死の状態の、余りの激痛で涙を流し失禁している金髪がいた。

 ミークは傍らで浮いていた左腕をバルバの元に移動させ、その金髪をグッと掴み持ち上げる。するとバルバ自身の重みでブチブチ、といくつか髪の毛が千切られるがミークは気にも止めない。その激痛に「……! ……!」と何か叫ぼうとしているが、喉をやられているので声が出せないズタボロのバルバ。

 それをミークはそのままポイ、とまるでゴミを投げ捨てるかの様にギルドの大広場にバルバを放り投げる。ドン、と地面に激突した際、バキ、と更にバルバの何処かの骨が折れてしまった。「……!」またもバルバは激痛に見舞われ、声にならない声を上げる。そして突然大広場に転がってきたその物体に、ミークが声掛けして集まっていた人達は驚いて、一斉にその物体、バルバの塊を中心に距離を取った。

 そしてミークはギルドの中から姿を表し、自身の身体左腕を戻してからバルバに向け、キュイィン、と白いビーム球を左手に生成する。だがそこで、一連の様子を固唾を飲んで見ていたラルがハッと気付く。

 ……不味い! ミークはバルバを殺す気だ!

「ま、待てミーク! 止めろ!」

 と、ギルドの中から慌てて飛び出し叫んだ。次いでネミルがギルド内から、服が破かれ肌がはだけているのも気にせずに、同じ様にギルドの外に飛び出しミークに向けて叫ぶ。

「そ、そうよ! 殺しちゃ駄目! ミーク!」

 そしてネミルはミークの元に駆けて行き、後ろからギュッと抱き締めた。

「そんな奴でもゴールドランクなの! 人族なの! 殺しちゃ面倒な事になるわ! 寧ろ生かして罪を償わせるべきよ!」

「ネミル……。酷い事されてたみたいなのに、それで良いの?」

「……正直物凄く腹が立ってるけど、それよりミークが大事なのよ」

「……」

 そんな2人の様子を激痛に喘ぎながら見ていたバルバは、息も絶え絶えながらも声が出ないので、ミークに目で必死に「殺さないでくれ」と訴えかける。

 ……この男は、私を陥れただけでなく、大事な友達、ネミルまでも襲った。しかもこうして意地汚く生きようとしてる。……本当に、許せない。

 涙目で命乞いをしているバルバを見れば見る程、腸が煮えくり返り怒りが増していく。

 元々ミークは穏やかな性格。そしてこれまでの人生で、それこそ地球に居た頃を含め、これ程の怒りを覚えたのは生まれて初めてだった。更にこれ程の悪意に出会った事も一度もない。なので今、初めて覚えるこの怒りの感情を自制するのに相当苦心している。

「……」

「ミ、ミーク?」

 未だしがみついているネミルが心配そうにミークを見る。ネミルから体温を感じる。その温かさに、必死になって自分の事を心配してくれている事を理解する。そう、本気で心配してくれているネミルを思いながら、ミークはふと空を見上げる。

 そして、すう、はあ、と大きな深呼吸をしてから、ずっとバルバに向け白い球を生成していたのをシュン、と消し去って、腕を下ろしグッと拳を握りしめた。

 それからミークはバルバに歩みを進めようとする。ネミルは行かせまい、とひっしとミークに縋り付くが、「大丈夫」と穏やかな笑顔でネミルを見つめ、優しく頭を撫でた後ゆっくり引き離し、バルバの元に歩み寄った。

 それからポシェットからポーションを取り出しバルバに飲ませる。すると徐々にバルバの喉が治っていった。

「グッ! ガ、ガハッ!」

 喉に溜まっていたであろう血を咳き込みながら吐き出すバルバ。少しして、バルバは少しずつ回復してきたからか、ひゅう、ひゅう、と歪な呼吸音を出し始め、「あ……、あう……」と声も出てくる様になった。

 そんなバルバをミークは冷たい目で見下ろしている。その視線に恐怖しながら、バルバはミークに声をかける。

「はあ、はあ……。な、何で……」

「何で奴隷紋が効いてないか、って言いたいの?」

「グハッ! そ、そう……だ……!」

「解除したからだよ」

「な……! そ、そんな、バ、馬鹿、な……! ど、どうやっ……って?」

「運が良かった。それだけ。因みにラミーとノライも元気だから」

「はあ……、はあ……。運が、良かった、だと?」

 ミークの返事にバルバは激痛に耐えながら眉をひそめる。そもそも奴隷紋はそう簡単に解除できない代物だと、バルバも知っていたからだ。

 だが確かにミークは幸運だった。バルバの命令でミークが各家に飛び込みジャミーの店に入り、そしてジャミーがミークの奴隷紋に気付いただけでなく、解除の方法まで知っていたからこそミークは助かったのだから。

 ポーションのお陰でバルバの四肢も少しずつ治りつつあるバルバ。それに気付いたミークは、ポシェットから2機のドローンを取り出し、そしてワイヤーを出す様指示すると、2機から細い超硬質ワイヤーが2本現れ、バルバの手と足を縛った。

「それ、ちょっとやちょっとじゃ絶対に切れないからね」

 そうバルバに釘を差した後、心配そうに見ているネミルに駆け寄り抱き締めるミーク。

「ごめんね。もっと早く助けたかった」

「何言ってるのよ。充分よ。それより奴隷紋って?」

 ネミルの疑問を聞いてミークはバルバに振り返りキッと睨む。バルバは視線に気付き、ビクっと怯える様に反応する。

「ギルドで説明するよ。他に報告しなきゃいけない事があるし」

 そう言ってミークはネミルと共にギルドに向かおうとすると、突如、バルバの辺りから膨大な魔素を感じ取った。驚いてミークは振り返る。

「今度は何?」

 すると、バルバの傍から徐々に何かしらの大きな影が広がっていく。途端、大広場に居た人達の悲鳴があちこちで上がる。

「な、何よあれ!」「キャーー! ま、魔物よーー!」「逃げろー! 町の中に魔物が現れたぞー!」

 そして町の人達は慌てて大広場から逃げ惑う。その大きな影の正体は、背丈10mはある大きな蜘蛛の魔物だった。
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