隻腕のミーク ※近未来サイボーグ、SF技術を駆使し異世界のトラブルに立ち向かう

やまたけ

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女の魔族

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※※※

 デムバックの町を覆う、薄い紫の結界の上空に浮かぶ1つの影。大柄な女の身姿のそれは、大きな蝙蝠の羽をはためかせ空中で留まりながら、町のギルド前で起こっている戦闘を先程から眺め唖然としていた。

「何なのだ……。あの規格外の強さは? しかも魔法ではない、だと?」

 この薄紫の結界は魔素の感知を阻害する。よってヴァルドー達の会話を聞いた上での判断ではあるものの、確かに魔法とは違う攻撃を繰り出している。

「……ファリスの森であやつが一方的にやられていたのは、何も子蜘蛛に変身していたからでは無かったのか。そう言えば逃す際何か言いたげではあったが。しかしたかが人族1匹が魔族を圧倒するなど、想像にも及ばないのだから、あやつの話を聞かなかったのは仕方なかったのだ」

 独り言で言い訳を呟きながら戦闘を見つめる女の魔族。そしてヴァルドーがいよいよ本気で、その見た目麗しい化け物、黒髪の片目が紅い女に攻撃を仕掛け始める。だがそれを一笑に付すかの様にやり返し、更にヴァルドーの四肢が不可思議な白い光で切断されたところを見て、もはやこれまで、と深い溜息を吐きながら、女の魔族は徐ろに町を覆う結界を解いたのである。

 バサ、バサ、と大きな翼をはためかせ地上にゆっくり降りる女の魔族。身長2mもの長身だが、身に着けている紺のハイレグのレオタードの様な衣装のせいか、見事なプロポーションが一層際立っている。腰辺りからは先端がハート型になった尻尾がゆらゆらと伸びていて、露出された肌は全身紫色でその瞳も紫色。

 その姿を見たミークは「あんた、蜘蛛男を逃がした魔族でしょ?」と問いかける。

 ミークの問いに女魔族は無表情で「そうだ」と答えた。

「それよりお前は一体何なのだ? 魔素を一切保有しておらんから同胞でも無い。なのにその全ての生物を超越した様な強さ。お前の様な化け物がこの世にいれば、多少噂になっていてもおかしくは無い筈だ」

 何やら納得がいかない、という表情で女魔族はミークにそう問いかけると、ミークは「それ説明してもどうせ分かんないよ」と答える。

「ていうか、ずっと前から戦ってるの見てたよね?」

「……気付いてたのか」

「まあね」

「……どうして判るのだ? お前は魔素を持っておらぬではないか」

「だからどうせ説明したところで分かんないってきっと」

 しつこいなあ、と半ば不満気に答えながら、「そもそもそこに転がってるヴァルドーとどういう関係?」と今度は女魔族に質問するミーク。

「魔族と王族が知り合いって、ちょっと普通じゃないよね?」

 何気ないミークの言葉に、女魔族は突如「フッ」と呆れた様に笑う。

「私から溢れる魔素は、魔素を持たぬ者でさえ微量に感知し恐怖を感じる程の物の筈。だがお前はどうやら平気な様だな」

 そう言われてふとラミーを振り返る。すると女魔族の言う通り、ラミーはヴァルドーの時より更に顔が青ざめガタガタと震えてきた。

「……あ、あれは……、相手にしては……、いけない……。怪物よ……」

「そう?」

 当然ミークの左眼は女魔族の魔素を感知している。確かにあの蜘蛛男よりも数値は高い様だが、ミークはさして気にしていない。

 まあとりあえず色んな謎がこれで一気に解明するんじゃ? ミークはそう思いこの女魔族を倒してしまおう、と後ろにいるラミーから正面に振り返った途端、

 ドン、と突然強烈なダメージを左頬に受け、そのまま吹き飛びドガーン、とギルドの壁を突き破った。

「うわあ!?」

 左頬に強烈な痛みを感じながら驚くミーク。そしてドン、ダン、と床にバウンドしながら叩きつけられた。

「ぐっ、油断した……! 何とかスウェーしてダメージは軽減したけど、っと!」

 更に女魔族はギルド内に飛び込んで来る。ミークは口の中を切った様で血の味を感じながらグイと口から溢れる血を拭き取ると同時に、女魔族が殴打を浴びせかけた。

 ドドドドド、と壮絶なラッシュがミークを襲う。だがそれをミークは何とか避ける。避けた先の壁が女魔族の拳の風圧でドン、ドンと凹んでいく。

「ちょっといきなり過ぎない?」

「お前の様な化け物に遠慮する必要は無い」

 その言葉に嘘偽りは一切無い様で、女魔族は当に本気の攻撃をミークに仕掛けていく。

「……身体能力6倍」

 ーー了解。身体能力6倍ーー

 AIの返答が脳内に聞こえた瞬間、皮膚を避ける程ギリギリ躱していた女魔族の拳が、蹴りが、急に空を切る様になる。明らかにミークのスピードが上がったからだ。

 そこで女魔族はスッと急に攻撃を止めた。

「何をした? 何故急に動きが良くなったのだ?」

「へぇ気付くんだ? まあまあ凄いじゃん」

 ペッと口の中に溜まっていた血を地面に吐き出したミークがファイティングポーズを取るも、女魔族は腕をだらりと下ろしたまま戦闘態勢を取らない。

「ん? やらないの?」

 ミークが怪訝な顔で女魔族を見ると、今いるギルドの1階広場の2階をじっと見つめている。ミークはハッと気付き「不味い」と呟く。2階にはエイリーとニャリル達がいる。

 それを聞いた女魔族はミークをニタァと一瞥すると、次に上を見上げ口からハア~、と紫色の煙を吐き出した。

 嫌な予感がしたミークは慌ててAIに指示をする。

「AI! あの煙の分析! ドローン! 空気も通さないプロテクションシールドを構築! 4人を守って!」

 ーー了解。女魔族が吐き出した気体を分析します……。過去地球、日本に生息していたマムシという蛇の神経毒に酷似。但し魔素を含んでおり、当該気体のコントロールが可能の様です。……2階へ当該気体到達前にプロテクションシールド構築完了。毒を含む一切の気体をシャットアウトしましたーー

 当然ミークの一連の行動が分からない女魔族は、2階に居る4人をこれで苦しめ人質に出来た、と喜色満面。

「ハハハハ! この息はどんな者でもたちまち死に至らしめる強烈な毒だ! 2階に居る連中は無事で居られる可能性は無きに等しいだろう! 大人しくしておれば上の4人は助けてやっても良いぞ?」

 だが既に対策済みのミークはふう、と大きく息を吐き安堵の表情。

「危なー。そういう姑息な事するんだ」

 女魔族は怪訝な顔でミークを見る。

「聞いていたのか? 私が吐いたこの魔毒は……」

「神経がやられるだけでなく血液が凝固して心臓に血が回らなくなる毒でしょ? 上の4人はもう既に毒が届かないようにしたっての」

「……はっ?」

 ミークの説明に女魔族は再び天井を見上げる。確かに床の隙間から紫の煙、魔毒は染み込み2階へ上がり、部屋中を魔毒が充満しているのを確認出来ている。そして毒に侵されると苦しみ悶える人間の声が聞こえる筈なのだが。

「……物音がしない、だと?」

 音が一切聞こえないのは、4人をドローンによるプロテクションシールドで覆ったからであるが、先程まで確かに居た筈の人間共の物音が一切しない事に、女魔族は混乱している。

 そんな様子に、ミークは再度、はあ、と溜息を吐く。

「そういう卑怯な事も平気でやるんだ。まあでも、そのお蔭でこっちも遠慮なくやれるよ。見た目女の人だし、ちょっと気使っちゃってたからね」

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