断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

文字の大きさ
8 / 60

第8話:一筋の光、第二王子

しおりを挟む
ゼノン様による「ヒロイン撃退(物理的に)」計画を、なんとか阻止してから数日。
私の学園生活は、針の筵(むしろ)そのものだった。

リリアナは、私を見るたびに怨嗟の籠った視線を送ってくるし、彼女を取り巻く攻略対象者たち――騎士団長の息子や宰相の息子――も、私を「リリアナ様をいじめる悪女」として、遠巻きに非難している。

そして何より、ゼノン様の過保護…いや、監視が、日に日にエスカレートしていた。
休み時間ごとに教室に現れるのは当たり前。
私が誰かと話そうものなら、その相手を氷の視線で射殺さんばかりに睨みつける。

おかげで、私の周りからは誰もいなくなった。
完全に、孤立無援。

『もう、いっそ断罪された方が楽だったかもしれない…』

そんな風に、弱音を吐いてしまった、ある日の昼下がり。
私は、学園の図書館の奥、あまり人が来ない書架の陰で、一人ため息をついていた。

ゼノン様は今日、王宮での会議があるため、学園には来ていない。
束の間の、平和な時間。
…まあ、私の護衛と称して、シルヴァーグ公爵家の屈強な騎士たちが、図書館の入り口を固めているのだけれど。

「はぁ…」

もう一度、重いため息をついた、その時だった。

「おや? こんな場所で、麗しのご令嬢がため息とは。何か悩み事かな?」

明るく、軽やかな声が頭上から降ってきた。

驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは、見覚えのある人物だった。

輝くような金髪に、空を映したような青い瞳。
人懐っこい笑みを浮かべた、優美な顔立ち。

「…アラン殿下」

この国の第二王子、アラン・フォン・エルクハルト。
彼もまた、『聖女と騎士たちのラプソディ』の攻略対象者の一人だった。
ゲームでの彼は、誰にでも優しい、いわゆる「キラキラ王子様」キャラだ。

「俺の顔を覚えていてくれたなんて、光栄だな。ヴァレンシュタイン公爵令嬢、イザベラ嬢」

彼は優雅に微笑むと、私の隣の椅子に、ごく自然に腰を下ろした。

「ひっ…!」

近すぎる!
思わず、身を固くする私を見て、アラン殿下はくすくすと笑った。

「そんなに警戒しないでほしいな。ただ、君があまりにも美しい薔薇のようだったから、つい声をかけてしまっただけさ」

「は、はぁ…」

さらり、と口説き文句を告げる彼。
ゼノン様とは、正反対のタイプだ。
太陽と氷。光と影。

「それにしても、君の婚約者殿はいないのか? いつも、君の隣にぴったりとくっついているというのに」

「ええ、本日は公務で…」

「そうか。それは、好都合だ」

アラン殿下は、にっこりと笑う。
その笑顔は、どこか悪戯っぽい響きを帯びていた。

「少し、君と話がしてみたかったんだ」

「…私と、ですか?」

「ああ。君は、いつもつまらなそうな顔をしているからね。あの氷の公爵と一緒にいて、本当に楽しいのかい?」

ストレートな物言いに、私は言葉に詰まる。
楽しいわけがない。毎日がサバイバルだ。

私の表情から何かを察したのか、アラン殿下は同情するように眉を下げた。

「…大変だな、君も」

「え…」

「政略結婚とはいえ、相手があれでは、心も休まらないだろう。シルヴァーグ公爵は、有能だが、いかんせん人間味というものが欠けているからな」

まるで、私の心の中を見透かしたような言葉。
初めてだった。
私のこの状況を、理解してくれる人に出会ったのは。

「あ、あの…」

思わず、何かが込み上げてくる。
ずっと一人で抱えてきた不安や恐怖が、彼の優しさに触れて、少しだけ溶けていくような気がした。

「俺でよければ、話くらいは聞くよ? 溜め込んでいると、毒だからね」

彼はそう言うと、私の手を、そっと取った。

「君のような美しい花が、萎れてしまうのは見たくない」

その温かい手に、涙が出そうになる。
この人は、私の味方になってくれるかもしれない。
この地獄のような状況から、私を救い出してくれる、一筋の光かもしれない。

私が、縋るような思いで彼を見つめ返した、その時だった。

ゴオォォッ…

どこからか、凄まじい冷気が流れてきた。
図書館の中なのに、まるで真冬の屋外にいるかのような、肌を刺す寒気。

そして。

「――その汚い手を、俺のイザベラから離せ」

地獄の底から響いてくるような、低い、低い声。

振り返るまでもない。
この声の主は、一人しかいない。

会議で、王宮にいるはずの、ゼノン・シルヴァーグ公爵が。
そのアイスブルーの瞳に、燃え盛る嫉妬の炎を宿して、そこに立っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

処理中です...