断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

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第22話:浮上する第一の容疑者

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ゼノン様から渡された調査報告のファイル。
私は、息をのんで、そのページをめくっていった。
そこには、この数ヶ月、彼の周りで起きた不審な事件の数々が、詳細に記録されていた。

アラン殿下の支持者たちの失脚。
シルヴァーグ公爵家の事業に対する、巧妙な妨害工作。
そして、王宮内に流れる、ゼノン様に関する、悪意に満ちた噂。

そのどれもが、個々に見れば、ただの不運や、政敵の嫌がらせに見える。
しかし、こうして一覧で見ると、その背後にある、明確な悪意と意図が、浮かび上がってくるようだった。

「…酷い、ですわね」

「ああ」

私が呟くと、隣で書類仕事をしていたゼノン様が、短く相槌をうった。

「敵は、相当な手練れだ。決して、尻尾を出さない」

「黒幕について、何か、見当はついているのですか?」

私の問いに、彼は、少しだけ、間を置いた。

「…候補は、三人いる」

「三人…」

「そのうちの、最も有力な容疑者が、現宰相、オーギュスト・ド・ロシュフォール公爵だ」

ロシュフォール公爵。
その名前に、私は、ゲームの記憶を呼び起こした。
彼は、攻略対象者の一人である、優等生タイプの騎士、ジュリアン・ド・ロシュフォールの父親だ。

ゲームの中での宰相は、厳格で、融通の利かない、典型的な保守派の貴族として描かれていた。
そして、ルートによっては、シルヴァーグ家の力を危険視し、ゼノン様と対立するイベントがあったはずだ。

「なぜ、宰相が…?」

「あの男は、古くからの王権至上主義者だ。王家の血を引かぬ者が、王家を凌ぐ力を持つことを、極端に嫌う」

ゼノン様は、冷ややかに言った。

「特に、俺の父…先代のシルヴァーグ公爵が、その強大な魔力で、先王の信頼を一身に受けていたことを、酷く妬んでいたらしい」

「…つまり、昔からの、因縁、というわけですのね」

「ああ。そして、その息子である俺が、父以上の魔力を持って生まれてきた。奴にとっては、面白くないだろうな。目の上の、巨大なこぶ、といったところか」

なるほど。動機としては、十分すぎる。
強くなりすぎたシルヴァーグ家を、国の安定のため、という大義名分のもと、潰そうとしているのかもしれない。

「ですが、宰相ともあろう方が、リリアナ様のような、平民の少女を使って、このような回りくどいことをするでしょうか?」

「そこが、腑に落ちない点だ」

ゼノン様も、私の疑問に同意した。

「奴は、もっと正攻法を好む男だと思っていた。陰謀を巡らせるような、小物ではない、と」

「では、宰相ではない、と…?」

「いや、断定はできん。人が、権力や嫉妬に目が眩んだ時、どれほど愚かな行動に出るか、わからんからな」

彼の言葉には、重みがあった。
彼自身、多くの人間の、醜い部分を見てきたのだろう。

「何か、証拠はあるのですか? 宰相が、黒幕であるという」

「ない」

彼は、きっぱりと首を横に振った。

「だから、泳がせている。奴が、必ず、ボロを出す瞬間を、待っているんだ」

それが、彼のやり方なのだ。
静かに、待ち、敵が油断した瞬間を、一撃で仕留める。
まるで、獲物を狙う、孤高の獣のようだ。

私は、ファイルに目を戻した。
黒幕の候補、あと二人。
その名前は、まだ、伏せられている。

『聞いても、今は教えてくれないでしょうね…』

彼は、まだ、私のことを、完全には信用していないのだ。
それは、当然のことだろう。
つい先日まで、私は、彼の敵であるアラン殿下と、手を組んでいたのだから。

でも、それでいい。
今は、一歩ずつ、信頼を積み重ねていくしかないのだ。

「あの、ゼノン様」

「なんだ」

「宰相の息子である、ジュリアン様は…彼も、父君の計画に、関わっているのでしょうか?」

ゲームの中の彼は、真面目で、正義感の強い、好青年だった。
父親の陰謀に、加担するようには、とても思えない。

私の問いに、ゼノン様は、少しだけ、表情を和らげた。

「…さあな。だが、あの男は、父親とは違う。少なくとも、俺はそう信じたい」

その言葉に、私は、少しだけ、安堵した。
彼も、ジュリアン様のことは、認めているのだ。

第一の容疑者、ロシュフォール宰相。
彼が、本当に、すべての元凶なのか。
それとも、彼もまた、真の黒幕に踊らされている、駒の一人に過ぎないのか。

謎は、まだ、深い霧の中に包まれていた。
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