42 / 60
第42話:悪女と聖女の、ティータイム
しおりを挟む
宰相の城――王宮の一角に、与えられた、私の部屋は、皮肉なほどに、豪華だった。
天蓋付きのベッド、上等な、調度品の数々。
しかし、扉の外には、常に、二人の、見張りが立ち、窓は、魔法で、固く、閉ざされている。
美しい、鳥かご。
ただ、飼い主が、ゼノン様から、宰相に、変わっただけのことだ。
この城での、私の生活は、ひと言で、言って、退屈だった。
宰相は、私に、何も、命じない。
ただ、生かさず、殺さず、泳がせているだけ。
私が、ボロを出すのを、待っているのだろう。
そして、その、退屈な、日々に、彩り(という名のストレス)を、加えてくれるのが、リリアナの、存在だった。
彼女は、毎日、必ず、私の部屋へ、やってくる。
もちろん、仲良く、おしゃべりをするため、ではない。
「ごきげんよう、イザベラさん。今日も、息をしているようですわね」
今日も、今日とて、彼女は、嫌味を、言うためだけに、やってきた。
手には、高級な、ティーセット。
これから、二人だけの、優雅な、ティータイムの、始まりだ。
「ええ、おかげさまで。あなたこそ、まだ、お父様の、操り人形で、いらっしゃるのね。お可哀そうに」
「なんですって!?」
私は、扇子で、口元を、仰ぎながら、優雅に、言い返す。
悪役令嬢の、スキルが、こんなところで、役に立つとは。
リリアナは、悔しそうに、顔を、歪めたが、すぐに、いつもの、聖女の微笑みを、貼り付けた。
「あら、操り人形ですって? 心外ですわ。わたくしは、お父様の、大いなる、理想を、実現するための、大切な、パートナーですもの。あなたのように、誰からも、見捨てられた、負け犬とは、違いますわ」
「負け犬…?」
「ええ。だって、そうでしょう? あれほど、愛していると、思っていた、ゼノン様にも、あっさり、捨てられて。その、ゼノン様は、今頃、新しい、婚約者でも、探しているのでは、ありませんこと?」
彼女の言葉が、チクリ、と、胸に刺さる。
もちろん、ゼノン様が、そんなことをするはずがないと、頭では、わかっている。
でも、そうやって、不安を、煽ってくるのだ。
彼女の、得意な、やり方で。
「…そうかもしれませんわね」
私は、あえて、彼女の言葉に、乗ってみせた。
悲しそうに、瞳を、伏せてみる。
「でも、わたくし、もう、決めたのです。男に、媚びて、生きるのは、もう、おしまい。これからは、自分の、力だけで、生きていく、と。そのために、宰相閣下の、お力を、お借りしているのですわ」
「ふん、その、宰相閣下も、あなたのことなど、信用しては、おりませんけれど」
「ええ、存じておりますわ。ですが、いずれ、わたくしの、有能さを、認めてくださるはず。あなたのように、ただ、父親の、威光を、笠に着ているだけの、お飾りとは、違いますから」
「なっ…! この、負け犬風情が…!」
ついに、リリアナの、化けの皮が、剥がれた。
彼女は、ティーカップを、ガシャン!と、乱暴に、ソーサーに、置くと、ヒステリックに、叫んだ。
「いい気にならないでちょうだい! あなたなんて、お父様の手のひらの上で、転がされているだけなのよ! いつでも、潰せる、虫けら同然だということを、忘れないことね!」
「あら、怖い。聖女様が、そんな、お言葉遣いを、なさるなんて。神様が、お嘆きになりますわよ?」
「う、うるさい! うるさい、うるさい!」
彼女は、子供のように、駄々をこねると、そのまま、部屋を、出て行ってしまった。
後に残されたのは、冷めきった、紅茶だけ。
「…ふぅ」
私は、一人になると、大きく、息を、吐いた。
疲れる。
毎日、毎日、この、不毛な、舌戦を、繰り広げるのは、精神的に、かなり、疲弊する。
でも、これも、作戦の、一環だ。
リリアナを、苛立たせ、油断させる。
そうすれば、いずれ、彼女が、何か、重要な情報を、ポロリと、漏らすかもしれない。
『負けないわ…』
私は、冷めた紅茶を、一気に、飲み干した。
悪役令嬢の、プライドにかけて。
あの、偽りの聖女に、負けるわけには、いかないのだ。
この、心理戦、必ず、私が、制してみせる。
そう、固く、心に、誓うのだった。
天蓋付きのベッド、上等な、調度品の数々。
しかし、扉の外には、常に、二人の、見張りが立ち、窓は、魔法で、固く、閉ざされている。
美しい、鳥かご。
ただ、飼い主が、ゼノン様から、宰相に、変わっただけのことだ。
この城での、私の生活は、ひと言で、言って、退屈だった。
宰相は、私に、何も、命じない。
ただ、生かさず、殺さず、泳がせているだけ。
私が、ボロを出すのを、待っているのだろう。
そして、その、退屈な、日々に、彩り(という名のストレス)を、加えてくれるのが、リリアナの、存在だった。
彼女は、毎日、必ず、私の部屋へ、やってくる。
もちろん、仲良く、おしゃべりをするため、ではない。
「ごきげんよう、イザベラさん。今日も、息をしているようですわね」
今日も、今日とて、彼女は、嫌味を、言うためだけに、やってきた。
手には、高級な、ティーセット。
これから、二人だけの、優雅な、ティータイムの、始まりだ。
「ええ、おかげさまで。あなたこそ、まだ、お父様の、操り人形で、いらっしゃるのね。お可哀そうに」
「なんですって!?」
私は、扇子で、口元を、仰ぎながら、優雅に、言い返す。
悪役令嬢の、スキルが、こんなところで、役に立つとは。
リリアナは、悔しそうに、顔を、歪めたが、すぐに、いつもの、聖女の微笑みを、貼り付けた。
「あら、操り人形ですって? 心外ですわ。わたくしは、お父様の、大いなる、理想を、実現するための、大切な、パートナーですもの。あなたのように、誰からも、見捨てられた、負け犬とは、違いますわ」
「負け犬…?」
「ええ。だって、そうでしょう? あれほど、愛していると、思っていた、ゼノン様にも、あっさり、捨てられて。その、ゼノン様は、今頃、新しい、婚約者でも、探しているのでは、ありませんこと?」
彼女の言葉が、チクリ、と、胸に刺さる。
もちろん、ゼノン様が、そんなことをするはずがないと、頭では、わかっている。
でも、そうやって、不安を、煽ってくるのだ。
彼女の、得意な、やり方で。
「…そうかもしれませんわね」
私は、あえて、彼女の言葉に、乗ってみせた。
悲しそうに、瞳を、伏せてみる。
「でも、わたくし、もう、決めたのです。男に、媚びて、生きるのは、もう、おしまい。これからは、自分の、力だけで、生きていく、と。そのために、宰相閣下の、お力を、お借りしているのですわ」
「ふん、その、宰相閣下も、あなたのことなど、信用しては、おりませんけれど」
「ええ、存じておりますわ。ですが、いずれ、わたくしの、有能さを、認めてくださるはず。あなたのように、ただ、父親の、威光を、笠に着ているだけの、お飾りとは、違いますから」
「なっ…! この、負け犬風情が…!」
ついに、リリアナの、化けの皮が、剥がれた。
彼女は、ティーカップを、ガシャン!と、乱暴に、ソーサーに、置くと、ヒステリックに、叫んだ。
「いい気にならないでちょうだい! あなたなんて、お父様の手のひらの上で、転がされているだけなのよ! いつでも、潰せる、虫けら同然だということを、忘れないことね!」
「あら、怖い。聖女様が、そんな、お言葉遣いを、なさるなんて。神様が、お嘆きになりますわよ?」
「う、うるさい! うるさい、うるさい!」
彼女は、子供のように、駄々をこねると、そのまま、部屋を、出て行ってしまった。
後に残されたのは、冷めきった、紅茶だけ。
「…ふぅ」
私は、一人になると、大きく、息を、吐いた。
疲れる。
毎日、毎日、この、不毛な、舌戦を、繰り広げるのは、精神的に、かなり、疲弊する。
でも、これも、作戦の、一環だ。
リリアナを、苛立たせ、油断させる。
そうすれば、いずれ、彼女が、何か、重要な情報を、ポロリと、漏らすかもしれない。
『負けないわ…』
私は、冷めた紅茶を、一気に、飲み干した。
悪役令嬢の、プライドにかけて。
あの、偽りの聖女に、負けるわけには、いかないのだ。
この、心理戦、必ず、私が、制してみせる。
そう、固く、心に、誓うのだった。
23
あなたにおすすめの小説
地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!
日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」
学園のアイドル、マルスからの突然の告白。
憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。
「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」
親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。
「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」
【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
さこの
恋愛
婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。
そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。
それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。
あくまで架空のゆる設定です。
ホットランキング入りしました。ありがとうございます!!
2021/08/29
*全三十話です。執筆済みです
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。
「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」
エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
時間を戻した元悪女は、私を捨てた王太子と、なぜか私に夢中の騎士団長から逃げられません
腐ったバナナ
恋愛
王太子アルベルトの婚約者であったユミリアは、前世で悪女の汚名を着せられ、騎士団長ギルバートによって処刑された。
しかし、目を覚ますと、処刑直前の自分に時間が戻っていた。
ユミリアは、静かに追放されることを目標に、悪女の振る舞いをやめ、王太子から距離を置く。
しかし、なぜか冷酷非情なはずの騎士団長ギルバートが、「貴殿は私の光だ」と異常な執着を見せ、彼女を絶対的に独占し始める。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
私の欲する愛を独占している双子に嫉妬して入れ替わったら、妹への恨み辛みを一身に受けましたが、欲しかったものは手にできました
珠宮さくら
恋愛
双子の姉妹として生まれた2人は、成長するにつれてお互いにないものねだりをしていた事に気づかないまま、片方は嫉妬し、片方は殺意を持って、お互いが入れ替わることになる。
そんな2人に振り回されたと怒り狂う人が現れたり、それこそ双子のことを振り回した人たちも大勢いたが、謝罪されても伝わることのない未来が訪れるとは思いもしなかった。
それでも、頑張っていた分の願いは叶ったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる