50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十一章 混沌の使徒

第211話 俺の答え

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 王宮から屋敷へと戻った後、俺たちはそれぞれの時間を過ごしていた。

 レオナルドとセリスは黙々と剣の手入れを。
 エルンは静かにハーブ湯を淹れ、ルナはその隣で、買ってもらったお菓子を大事そうに食べている。
 カズエルは窓の外の闇を眺めながら、何かを深く思考していた。

 王への報告を終え、王国という強大な後ろ盾を得た。だが、俺たちの心は決して晴れやかではなかった。
 敵の正体とその思想の根深さを知れば知るほど、この戦いの意味が重くのしかかってくるからだ。
 暖炉の薪がパチリと爆ぜる音が、静寂を際立たせる。
 俺はその沈黙を破るように、自身の胸の内でくすぶっていた想いを口にした。

「……なあ、皆」

 仲間たちの視線が一斉に俺へと集まる。

「この世界に来てから、ずっと、ざわつき続けている。エルフの森でも、王都でも、魔族領でも。何が正しくて、何が間違っているのか、正直、時々分からなくなる」

 俺の独白を、仲間たちは、ただ黙って聞いてくれている。

「『混沌の使徒』……筆頭神官セイオンは『世界の進化のため』だと言った。奴らのやっていることには、奴らなりの『正義』があるのかもしれない。俺がやっていることも、見方を変えれば、ただの世界の秩序を乱す『異物』の行動なのかもしれない」

 俺は、そこで一度、言葉を切った。そして、拳を握りしめ、言葉をぐ。

「……けれどな。どんなに立派な理屈を並べたところで、人の心をもてあそんでまで、自分たちの思想を押し付ける神官は、この世界にいない方がいい。それが、今の俺の素直な気持ちだ」

 それは賢者としてではなく、かつて平和な世界で生きた一人の人間――竹内悟志としての、偽らざる本音だった。

「俺にとっての『混沌』とは進化じゃない。ただの理不尽な暴力だ。……だから俺はあいつらを否定する。どんな高尚な理屈で飾ろうとも、俺の大事な仲間や、この世界の平穏を脅かす害悪がいあくとして、徹底的に叩き潰す」

 俺の言葉に真っ先に反応したのはレオナルドだった。彼は手入れを終えた双剣を、ガチリと鞘に収めた。

「同感だ。戦いとは、守るべきもののために振るわれる最後の手段であるべきだ。だが奴らは、戦いそのものを目的とし、命を数字のように扱う。……それは森の掟に背く行為であり、戦士の誇りを汚す冒涜だ。我が双剣にかけて、そのような『混沌』が蔓延はびこることは許さん」

 続いて、セリスが凛とした瞳で俺を見つめた。

「私は王都を守る騎士として、人々の安寧を願って剣を振るってきました。奴らの言う『混沌』は、その人々のささやかな幸せを踏みにじるものです。涙の上に築かれる進化など、私は断じて認めません。この『百閃ひゃくせん』の剣は、理不尽な悪意を断つためにあります」

 エルンが、湯気の立つカップを置き、静かに語り始める。

「精霊たちは言っています。世界は本来、互いに支え合い、調和することで巡っていくものだと。無理やりに歪められ、悲鳴を上げる魂たちを救うこと……それが精霊に愛された私の使命です。心を壊す『混沌』を私は決して許しはしません」

 窓辺にいたカズエルが、肩をすくめながら振り返った。その口元には冷ややかだが確かな闘志を秘めた笑みがあった。

「奴らのやり方は論理的ではあっても、合理的ではない。無用な犠牲と混乱を生むだけの欠陥システムだ。修正ではなく、削除が妥当だな」

「ルナも!」

 最後にルナが、勢いよく立ち上がった。

「難しいことはわかんないけど、あいつらのやり方はキライ! みんなを悲しませる嫌な感じがするの! だからルナが、カインと一緒にやっつける!」

 仲間たちの言葉が、俺の心に、熱く、深く沁み渡っていく。
 六人それぞれの想い。だが、その切っ先は、たった一つの敵へと向けられていた。

 俺はテーブルの上に広げられた、『学術都市アーカイメリア』の地図を見つめた。

「……決まりだな。準備ができ次第、出発する。今度こそ、決着をつけるぞ」

 俺の言葉に仲間たちの力強いうなずきが返ってくる。
 王都での激戦と、共有した怒りは、俺たちの結束をより一層、固く、そして鋼のように強くした。

 次なる戦いの地、学術都市アーカイメリアへ。俺たちの反撃が、ここから始まる。

第十一章・完
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