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第十五章 マグナ・イグニスの目覚め
第269話 底知れぬ混沌
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古竜の心臓――ドラグハート。
主を失った今もなお、尽きることのない生命力を宿し、力強く脈動する神話の遺産。それは失われた仲間たちの腕を取り戻すための唯一にして最後の希望だった。
だが、その希望を俺たちに示したのは、この悲劇のすべてを盤上の駒のように操っていた張本人、セイオンだった。
俺は竜の心臓から視線を外し、ゆっくりと彼に向き直った。
仲間を救えるかもしれないという安堵よりも、今はこの男への腹の底から湧き上がるような冷たい怒りの方が遥かに強かった。
「お前の真意は何だ」
俺の問いにセイオンは、ただ静かに微笑んでいる。
その、全てを見透かすような態度が俺の怒りにさらに火を注いだ。
「お前がしてきたことは許せない。いずれ必ず、お前を討つ」
それは賢者としてではなく、ただ一人の男としての揺るぎない誓い。
俺の明確な敵意が込められた言葉。
だが、セイオンはその宣言をまるで子供の癇癪でも聞くかのように、穏やかに受け流した。
「……賢者というには、いささか短慮だな、カイン」
彼の声には侮蔑も怒りもなかった。ただ、期待に応えられない教え子を見るかのような、深い失望の色だけが浮かんでいた。
「君が討つべきは私ではない。君自身の選択がもたらす、未来の混沌のはずだ。……それとも」
セイオンはその視線を地に伏せるレオナルドとセリスへ、ゆっくりと移した。
「私への復讐と仲間の命を天秤にかけるというのか? 今は私を睨むことより、一刻も早くその心臓を仲間に捧げるべきでは?」
その言葉は鋭利な刃となって俺の心を抉った。正論だ。あまりにも正しく、残酷な正論。
この男に今、怒りをぶつけたところで何の意味もない。
俺にはやるべきことがある。守るべき仲間がいる。
俺は奥歯が砕けるほどに強く唇を噛みしめ、それ以上、言葉を返すことができなかった。
「……賢明な判断だ」
セイオンは満足げにうなずくと、俺たちに興味を失ったように静かに背を向けた。
そしてそのまま、散歩でもするかのような足取りで歩み去っていく。
その無防備な背中に今すぐ剣を抜き、斬りかかりたい衝動が全身を駆け巡る。
だが、魔力も気力も尽き果てた今の俺では奴の衣の裾に触れることすら叶わないだろう。
レオナルドとセリスは腕を失い、エルンもカズエルも限界を超えている。
古竜の時間すら止めてみせた男を前に俺たちはあまりにも無力だった。
俺たちはただ、その忌むべき背中を見送ることしかできなかった。
勝利の証であるはずのドラグハートを手にしながら、俺の胸には泥を啜るような屈辱だけが重く沈殿していた。
主を失った今もなお、尽きることのない生命力を宿し、力強く脈動する神話の遺産。それは失われた仲間たちの腕を取り戻すための唯一にして最後の希望だった。
だが、その希望を俺たちに示したのは、この悲劇のすべてを盤上の駒のように操っていた張本人、セイオンだった。
俺は竜の心臓から視線を外し、ゆっくりと彼に向き直った。
仲間を救えるかもしれないという安堵よりも、今はこの男への腹の底から湧き上がるような冷たい怒りの方が遥かに強かった。
「お前の真意は何だ」
俺の問いにセイオンは、ただ静かに微笑んでいる。
その、全てを見透かすような態度が俺の怒りにさらに火を注いだ。
「お前がしてきたことは許せない。いずれ必ず、お前を討つ」
それは賢者としてではなく、ただ一人の男としての揺るぎない誓い。
俺の明確な敵意が込められた言葉。
だが、セイオンはその宣言をまるで子供の癇癪でも聞くかのように、穏やかに受け流した。
「……賢者というには、いささか短慮だな、カイン」
彼の声には侮蔑も怒りもなかった。ただ、期待に応えられない教え子を見るかのような、深い失望の色だけが浮かんでいた。
「君が討つべきは私ではない。君自身の選択がもたらす、未来の混沌のはずだ。……それとも」
セイオンはその視線を地に伏せるレオナルドとセリスへ、ゆっくりと移した。
「私への復讐と仲間の命を天秤にかけるというのか? 今は私を睨むことより、一刻も早くその心臓を仲間に捧げるべきでは?」
その言葉は鋭利な刃となって俺の心を抉った。正論だ。あまりにも正しく、残酷な正論。
この男に今、怒りをぶつけたところで何の意味もない。
俺にはやるべきことがある。守るべき仲間がいる。
俺は奥歯が砕けるほどに強く唇を噛みしめ、それ以上、言葉を返すことができなかった。
「……賢明な判断だ」
セイオンは満足げにうなずくと、俺たちに興味を失ったように静かに背を向けた。
そしてそのまま、散歩でもするかのような足取りで歩み去っていく。
その無防備な背中に今すぐ剣を抜き、斬りかかりたい衝動が全身を駆け巡る。
だが、魔力も気力も尽き果てた今の俺では奴の衣の裾に触れることすら叶わないだろう。
レオナルドとセリスは腕を失い、エルンもカズエルも限界を超えている。
古竜の時間すら止めてみせた男を前に俺たちはあまりにも無力だった。
俺たちはただ、その忌むべき背中を見送ることしかできなかった。
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