50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十六章 生命の理と世界の天秤

第278話 竜の遺産と森の呼び声

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 案内されたボルンの工房は彼の名が示す通り、鋼鉄の意志そのもので満ちていた。

 グレンダの工房よりも遥かに巨大なその場所には、山のような巨体を持つ竜の素材を解体するための特大の魔力炉と、分厚い作業台が鎮座している。壁はあらゆる衝撃や熱に耐えうるよう、黒鉄と特殊な耐熱煉瓦れんがで幾重にも補強されていた。

「……ふん。これほどの素材を前にして、たかぶらねえ職人がいるもんかい」

 ボルンは目の前に山と積まれたマグナ・イグニスの亡骸――黒曜石のように硬い鱗、しなやかで強靭な皮、そして未だに微かな熱を帯びる骨――を前にして、職人としての腕を鳴らした。

 彼の指示のもと防具の制作が始まった。

 まずは、セリスの盾だ。ボルンは竜の背中で最も硬く、美しい紋様を持つ鱗を寸分の狂いもなく選別した。魔力炉の超高熱でわずかに赤みを帯びるまで熱し、巨大な万力で固定すると、渾身の力で鉄槌を振り下ろす。

 カンッ! と、地を揺るがすほどの重い音が工房に響き渡る。数えきれないほどの槌打と冷却を繰り返すことで、鱗は奇跡的な硬度としなやかさを両立させた、完璧な盾へと生まれ変わっていった。

 次に、俺とレオナルドの防具。竜の腹部の、比較的柔らかいが鋼鉄以上の強度を持つ皮が素材として使われた。ボルンはその皮を特殊な薬液でなめし、竜の骨を砕いた粉末を丹念にすり込んでいく。そうして出来上がったのは、刃を通さない頑丈さを持ちながらも、動きを一切阻害しない第二の皮膚のような軽量鎧と籠手こてだった。

 そして最後に、一行全員のためのマント。それは竜の翼を支えていた、薄く強靭な皮膜から作られた。ドワーフ秘伝の技法で編み上げられ、深紅に染め上げられたそのマントは驚くほど軽く、そして竜のブレスの熱にさえ耐えうる絶対的な耐火性を秘めていた。

 ***

 数日後。全ての防具が完成した。

「……これが、竜の力……」

 セリスは完成した盾を構え、その絶対的な防御力に息を呑んだ。鱗の表面にはマグナ・イグニスが生きていた証である自然の紋様が美しく力強く浮かび上がっている。

「ああ。これほどの守りがあれば、いかなる攻撃も恐るるに足らん」

 レオナルドもまた、再生された腕に新たな籠手を装着し、その完璧なフィット感と頑丈さに満足げに頷いた。

 俺も新しい鎧に腕を通し、その確かな感触を確かめる。まるで竜そのものが俺たちを守ってくれているかのようだった。

「わーい! あったかーい!」

 ルナは深紅のマントを羽織り、その場でくるくると嬉しそうに回っている。その姿に、俺たちの間にもようやく笑みがこぼれた。

 新たな装備。それは失われたものへの手向たむけであり、次なる戦いへの揺るぎない覚悟の証だった。

 俺たちがその新たな力を確かめ合っていた、その時だった。
 窓から飛び込んできた一羽の小鳥が、エルンの肩にふわりと舞い降りた。風の精霊に導かれた緊急の精霊通信だ。

「……ミラネから?」

 エルンは小鳥の足に結ばれた羊皮紙を解き、その文字に目を通した瞬間、表情をこわばらせた。

「どうした、エルン」

「……カイン。大変です」

 彼女は震える声で、その信じがたい内容を読み上げた。

「――失踪していたヴィンドール様とその一派が森に姿を現しました。そして……あなたに直接、話がある、と」

 あまりにも唐突な報せに、工房の空気は一瞬にして凍りついた。

 ヴィンドール。俺を追放し、森に混乱を招いた因縁の相手。その彼が、なぜ今になって。

「……罠、かもしれません」

 セリスが警戒を露わにする。

 だが、俺の心はすでに決まっていた。

「……行こう。エルフェンリートの森へ」

 俺は新たに手に入れた竜の籠手を強く握りしめた。

 これもまた、セイオンが仕掛けた混沌の一つなのかもしれない。だが、俺はもう逃げないと決めたのだ。

 過去との決着をつけるため、そして森の未来をこの手で切り拓くために。
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