どこかで見たような異世界物語

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第八章

第184話 白昼の犯行

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「まずは村長んとこに顔出すか」

 そう独り言ちた北条が村長宅への進路を取って歩き始めると、前方に見覚えのある人影をふたつ発見した。

(あれは……、アウラの部下の二人か)

 その二人の人物は、アウラの従者であるマデリーネと、同じく従者であるアリッサの二人だった。
 北条とは顔見知りである二人だったが、マデリーネが北条の事を毛嫌いしている事を本人も把握していた為、そのまま気づかぬ振りで過ぎ去ろうとする。

 しかし、そんな北条に目ざとく気づいたマデリーネが話しかけてきた。

「む、貴様はホージョー! こんな所で何をしているのだ!?」

「こんな所って言っても、別にありふれた通りだろう……。別にお前たちに用がある訳じゃあないから、俺ぁここで……」

 のっけからケンカ腰のマデリーネに、辟易とする北条。
 そう言って二人の脇を通り過ぎようとしたのだが、ふとある事に気づく。

(……そういやぁ、こいつらの主は村長と一緒にいる事が多い……。って事は、こいつらの行く先も村長宅か?)

 彼女たちは、柵の外に拡張された区画ではなく、旧村区画へと続く道を進んでいるように見えた。
 このままいけば、北条とも目的地は被る可能性は高い。
 仕方なく追い越すのを止め、少し会話をしてみる事にした北条。

「……ちょいと村長に用事があって、今から向かうところだぁ。そっちも目的地は同じかぁ?」

「貴様にそんなことを言う必要は、無いっ!」

「ええー、ちょっとマディちゃーん。自分から話しかけといて、それはないんじゃなーいのお?」

 マデリーネのあまりにかたくなな態度に、アリッサも口を挟んでくる。
 しかしマデリーネは質問に答える様子はなく、代わりにアリッサが口を開いた。

「はあい。ワタシたちもお、村長さんの所に向かう所なんですよお」

 アリッサが目的地を明かしたことで、マデリーネは顔を若干顰めたものの、その事に対しわざわざ苦言を入れることもなかった。
 そして北条は、「ここが話の切り時だ!」と、滑り込むようにして別れの挨拶を述べようとする。

「そうかぁ。それじゃあ、また――」

「あ、そうだあ。目的地が同じならあ、いっしょにいきませんかあ?」

「え、あ、ああ……」

 しかし、北条は先にアリッサに回り込まれてしまった!

 おっとりとした口調の割に、絶妙のタイミングで割り込まれてしまった北条は、よくわからないまま、つい勢いで返事をしてしまう。

 結局このまま三人で村長宅へと向かう事になったのだが、基本アリッサが一人話すだけで、北条とマデリーネは相槌を打つだけ。
 アリッサを挟む形で北条とマデリーネが並んで歩いているが、お互いに話しかける事もないまま時が過ぎていく。
 この時、三人の後をつける人影があったのだが、三人とも気づいていないのか、誰も指摘することはなかった。

 村長宅に向かう間に始終続いていた、かみ合わない会話による奇妙な空気。
 しかしそれも村長宅に近づくにつれ、徐々に漂い始めた不穏な空気・・・・・によって、少しずつ塗り替えられていく。



「……お前たち、気をつけろよぉ」

 突然の北条の忠告に、反射的に何か言い返そうとしたマデリーネだったが、すぐに彼女も何か様子がおかしいことに気づいた。

「護衛についているハズの冒険者の姿がない、な……」

 マデリーネの話によると、本来、村長宅の入り口と勝手口には、ナイルズが派遣した冒険者たちが護衛についているらしい。
 現にマデリーネ達が出かける前は、むさくるしい筋肉を見せられながら挨拶をされていたのだ。

 しかし今、村長宅の正面ドアが見える位置にまで来ても、護衛の冒険者の姿は見えなかった。
 北条達三人は無言のまま目を合わせると、静かに建物へと近づいていく。


 キイィィッっと、正面ドアを開ける音がする。

 一瞬、建物内に向け声を掛けるか迷ったマデリーネだったが、北条が無
言のままソーッとドアを開けるのを見て、その行動を取りやめる。
 そして北条を先頭に、一行はそのまま建物内へと侵入していく。

 建物の中はシーンと静まり返っており、人のいる気配は微塵と感じられない。
 なるべく音を立てないように移動をする三人だが、スキルを覚えている訳でもないので、静かな空間に彼女たちの足音だけが妙に高く響き渡る。

 やがて応接室やダイニングなどをマデリーネの主導で見回っていくも、どこにも村長やアウラの姿は見当たらない。
 しかし、気になる点は一つ見つかった。
 キッチンにある勝手口の扉が、開いたままになっていたのだ。

「アウラ様っ!」

 思わず声を上げてしまったマデリーネが、その扉から外に飛び出していくが、見渡す範囲にアウラらしき姿は見当たらない。

「何をしているアリッサ! 二人で手分けして、アウラ様を探すぞっ!」

 何か理由があって、この勝手口からアウラ様が出ていったんだ! そう思ったマデリーネは、未だキッチンにいるアリッサに慌ててそう声を掛ける。
 しかし、アリッサはマデリーネの声にもキッチンから出てくる事はなく、北条の側で様子を窺っていた。

「アリッサっ!!」

「マディちゃん。少し落ち着いてえ」

 鬼気迫るといった形相で、再びキッチンまで戻ってきたマデリーネに、いつもの口調でアリッサが宥める。
 一見この場にそぐわない、ノンビリとしたアリッサの口調だったが、幼い頃から付き合いのあるマデリーネはハッと気づく。

 それは、いつものノンビリとした口調とは僅かに違い、彼女が真面目に話す時の口調であるという事に。

 見ればアリッサは北条の動向に注目しているようで、その北条はといえば、何やら目を閉じて精神を集中しているようであった。

「いったい何を……」

 しているんだ? とマデリーネが問いかけ終わる前に、北条はキッチンにあるもう一つの扉――地下食糧庫へと通じる扉をゆっくりと開いた。
 すると、そこには――、


「か、カレンッ!?」

「……カレンちゃん?」

 地下へと続く、少しこう配の急な階段の途中に、左手を壁によりかかるようにして、荒い息を吐いている女性の姿があった。
 それはかつて、どん底の生活をしていた頃にアウラに拾われ、以降は使用人として奉公していたカレンであった。

 それともう一人。
 暗くてよくは見えないが、階段の一番下の部分に倒れている人影が見える。
 しかしそちらはピクリとも動く様子がない。

「ウ、ウゥゥ……」

 急に指してきた、明るい光に眩しそうにしながらも、眩しさとは別の原因によるうめき声をあげるカレン。
 最初は暗くてよく見えなかったのだが、カレンの右手は腹部を抑えており、そこからは血が大量に滲んでいた。

「オラッ、どいたどいたぁ」

 カレンの負傷に気づいた北条は、彼女を抱きかかえ、薄暗い階段からキッチンの方へとカレンを運ぶ。
 マデリーネはその間、階下で倒れていた人物を確認する。
 その人物は、すでに死亡しているのが目に見えて明らかで、首元には刃物で刺されたような傷跡が、くっきりと残っている。

 気にはなったマデリーネだが、見覚えのない人物でもあったため、ひとまずは保留として、運ばれたカレンの後を追った。

 一方北条は、運んできたカレンを床に寝かせ、抑えていた右手を除ける。
 そして、傷口を確認した北条は顔を顰めた。

 短剣か何かで刺されたような傷口は、確かに痛々しそうであった。
 見れば、他にも手足にいくつか切り傷のようなものがあり、そちらからも血が滲んでいるのが確認できる。

 しかし、それ以上に北条がマズイと思ったのは、それら傷口周辺が妙に紫色に変色しているのが見えたからだ。

「チッ……。毒、か」

 そう言うと、北条は腰に下げた袋から、薄い黄色の液体が入った試験管のような容器を取り出し、半分を腹部の傷口にかけ、残り半分を手足の傷口へとかけていく。
 それから更にもう一つ同じものを取り出すと、それをカレンの口に含ませた。

「お次はこれだぁ」

 更に北条は、同じように薄い赤色の液体が入った瓶を二本取り出し、黄色の液体と同じように、傷口に振りかけたりカレンに飲ませたりさせる。

「解毒ポーションに、レッドポーションまで……。感謝する!」

 これにはさしもの北条嫌いのマデリーネでも、素直に感謝の言葉が口に出る。

「等級の高いポーションでもないから、とりあえずの応急だぁ。そう気にしなくてもいい」

 北条達はダンジョンに潜って以来、幾つもの宝箱を開けた事があり、ポーションに関しては幾つも確保してあった。
 そして、探索中の負傷については、基本は咲良の"神聖魔法"で負傷を治している。
 そもそも、緊急な治療が必要なほどの負傷を負う事もそう多くはないので、ポーション類は地味に溜まっていく一方だった。


「あー、それで無理はしないでいいんだがぁ……、話は出来そうかぁ?」

 先ほどの死相が見えていた時に比べ、顔色もよくなっているカレンであったが、それでも未だに苦しそうなのは誰の目にも明らかだった。
 しかし、目の前で主を攫われて、忸怩たる思いを感じているカレンは、無理を押して首を縦に振る。

「は、はい……」

 そして、カレンは、マデリーネとアリッサが出て行った後の事を、順に話し始めるのだった。


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