どこかで見たような異世界物語

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第十一章

第276話 『獣の爪』

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 先を行く龍之介の後を追うような形で、声の聞こえてきた方へ駆けていく『サムライトラベラーズ』。
 T字路を右に曲がると、通路の先には先ほどの声の持ち主であろう冒険者たちが魔物と交戦していた。

 彼らは完全に人族以外の種族で構成されており、パッと見てわかるほどに魔物相手に苦戦しているようだった。
 どうやらこのエリアで一番厄介な毒に苦しめられているようで、メンバーは一様に顔色が悪い。

 いくら戦闘中とはいえ、後衛職ですらその状態のまま戦っているという事は、解毒ポーションやヒーラーのMPが尽きているのかもしれない。
 よく見れば、彼らは毒のダメージや魔物からの傷とは別に、大分疲れ果てているようだ。


 通路を曲がるなり目に飛び込んできた、冒険者たちの死屍累々な状況に、龍之介はチッと舌打ちを鳴らす。
 ダンジョン内での冒険者同士の接触は、知り合い同士でもない限りはなるべく避けるべき。

 その事は龍之介の頭の中にもきちんと入っていたのだが、今にも瓦解しそうな冒険者を見回していた龍之介は、一人の男の姿を見ると、全速力で駆けだしていった。


(アイツはッ!!)


 そのダッシュが功を奏したのか、注目した獣人の男に魔物の攻撃が襲い掛かる直前に、背後からの強力な龍之介の一撃が決まった。

「手助けするッ!」

 助けられた虎の獣人と思われる男は、一瞬何があったのか理解が及ばなかったようだが、すぐに状況を理解すると感謝の言葉を述べた。

「スマン、助かる!」

 そう言って仲間を庇える位置にまで下がる獣人の男。
 すでに彼の仲間は二人ほど意識を失って地面に倒れており、その近くでは鹿の獣人の男が二人を必死に守っていた。
 そこに虎の獣人の男も加わり、守りは一先ず問題はなくなったようだ。

「ここは一気に片づけるぜ」

 いつもとはどこか様子の違う龍之介は、そう言って闘技秘技スキル"風舞剣"を発動させ、先ほど攻撃をしかけてきた魔物とは別の、無傷の魔物へと襲い掛かる。

 先ほど龍之介が切り付けた相手はノーマルトロールであり、皮膚の肩さと再生能力が厄介ではあるが、ランクとしてはEランクの魔物だ。
 不意打ち出来たとはいえ最初の一撃では倒しきるには至らなかったが、それなりに大きなダメージを与えることは出来ていた。

 そんな雑魚よりも、無傷のトロールの方が厄介だった。
 そいつは只のトロールではなく、Dランクのトロールウォリアーだったのだ。
 龍之介は心中の焦りもあって、ほぼノータイムでトロールウォリアーへの全力攻撃を選択する。

 龍之介が闘技スキルを発動させると、トロールウォリアーの周辺に不自然な風の流れが巻き起こった。
 その流れに合わせるかのように、龍之介が剣を素早く何度も打ち付けていくと、切り付けた場所とは別の場所にも切り傷が生まれる。

 一つ一つの傷は深くはないものの、トロールウォリアーの硬い皮膚もしっかりと中まで通るほどの切れ味は有している。
 それが四方八方から襲い掛かりつつ、更に龍之介自身の剣の攻撃もプラスされる。

 トロールウォリアーも一番厄介な龍之介自身の繰り出す攻撃に注意を払い、体の硬い部分で受けようとしたりして耐えてはいるが、見えない攻撃――風属性のカッターのような攻撃によって、足の筋や首元などにも切り傷が刻まれていく。

「くたばれデカブツが!」

 付属する風の刃の攻撃によって、完全に動きを止められたトロールウォリアーの首筋に向けて、龍之介の〈ウィンドソード〉の刃が払われる。
 身長差のあるトロールウォリアーに対し、龍之介は地を蹴って飛び上がりつつ、剣を逆袈裟で払うようにして切り付ける。

 グラリ……と体がぐらつくと、頭部を失ったまま地面へと倒れるトロールウォリアー。
 いかに"再生"のスキルがあろうと、頭部を切り離されてしまっては生きてはいけない。
 数秒後にはトロールウォリアーは光の粒子となって消えていく。

「す、凄い……」

 一連の様子を見ていた虎の獣人は、毒に侵され体力も大分削れている中、それを一瞬忘れるほど龍之介の動きに見入っていた。

「ハァ……。それで、リューノスケがすでに手を出しちゃったみたいだけど、どうするの? リーダー」

「仕方あるまい。あのパーティーの援護に入る。細川さん、彼らの治療を頼む。他は適当に加勢してくれぃ」

 北条はそう言って龍之介達の方へと〈サラマンダル〉を手に突貫していく。どうやら魔法ではなく武器での戦闘を行うようだ。
 メアリーは前衛としても戦えるようになっているので、躊躇なく単身で負傷している獣人パーティーの下へと駆け寄っていく。
 残る三人は北条に指示された通り、めいめいに行動を開始する。

「…………」

 そういった北条たちの動きを観察している虎獣人の男は、まだ完全に北条らの事を信じた訳ではなかったが、一先ずは魔物にやられて死ぬ事だけは避けられそうだと安堵する。

「皆さん、毒に侵されているのですね。まずはそちらから治療致します」

 獣人らの下に駆け付けたメアリーが、早速【解毒】の魔法を順にかけていく。
 幸いな事に、意識を失って倒れてる者はいたが、死者はまだいないようだった。

 続いて【癒しの群光】を使って獣人らをまとめて回復させる。 
 この魔法は効果範囲をパーティーメンバーに指定する以外に、発動場所を指定してそこを中心に範囲回復させる事も出来る。
 今回使用したのは後者の範囲タイプの方だ。

 "神聖魔法"の【キュアオール】は完全にパーティーメンバーにしか効果がないので、範囲回復が出来る分、使い勝手は【癒しの群光】の方が良い。
 これは"回復魔法"という、回復を専門に扱う魔法だからだろう。

 メアリーは更に、毒も傷も癒えて一命を取り留めた彼らに対し、【疲労回復】の魔法をも使用していく。
 彼らのパーティーにも"神聖魔法"の使い手はいたようだが、"回復魔法"を使用されたのは初めてだったようで、範囲回復や疲労回復の魔法に驚きの表情を見せていた。

「治癒魔法、感謝する」

 仲間を守っていた鹿獣人の男が短く、それでいて気持ちが伝わってくるような声で礼の言葉を述べると、他の意識あるメンバーも口々にメアリーに礼をしていく。

 彼らがこうも悠長なやり取りをしているのは、ひとえに加勢にきた龍之介と北条が魔物を次々と蹴散らしていったからだ。
 無論、楓や慶介やアーシアなども援護攻撃を加えていて、そのたびに魔物は数を減らしていく。



「ま、こんなもんかぁ?」

 数分後には魔物の姿は完全になくなり、すべて光の粒子となって消え去っていた。
 今回は他所のパーティーに割り込んだ形になっているので、ドロップの回収はまだ行っていない。
 どこか手持無沙汰な様子で北条が獣人らを観察していると、真っ先に飛び出していった龍之介が、改めて彼らに話しかける。

「うー、あー……、無事だったようで何よりだ」

「……助勢感謝するよ。俺は『獣の爪』のリーダー、キカンスだ」

「あ、オレはプラネット……じゃなかった。『サムライトラベラーズ』の龍之介だ」

「……ッ!? そうか、君たちが……」

 どうやらキカンスは『サムライトラベラーズ』の名に聞き覚えがあるようで、納得の表情と共に、どこか戸惑った様子を覗かせた。

 現在、《ジャガー町》で活動する冒険者の中で、『プラネットアース』と『サムライトラベラーズ』の名前は様々な噂と共に広まっていた。
 そうした噂の中には両パーティーを悪く伝えるものもある。

 だがその噂のお陰で、変に絡んでくる連中も減っていたので、北条は特に噂を是正しようという動きはしていない。
 まあ、逆に噂を聞いて絡んでくる奴も若干はいたのだが……。

 キカンスはそれらの噂については話半分に聞いており、実際に自分の目で確かめるまでは評価は保留していた。
 そして実際に会って感じた事はただ一つ。

(彼らには逆らわないほうがいい……)

 という事だけだった。
 動物的直感というか、とにかく下手な態度をして機嫌を損ねられでもしたら、どうなるか分からない。
 そういった印象をキカンスは感じ取った。
 ……といっても、それは『サムライトラベラーズ』というパーティーにではなく、北条という一人の人物を見ての判断だ。


 冒険者……、それも迷宮を探索する冒険者たちにとって、同業者の動向を気にするのは重要である。
 ダンジョンの中でうっかり出くわした時などに、他の冒険者の知識があるとないとでは、生死を分ける事すらありえる。
 低ランク冒険者ならまだしも、初心者の皮が剥けたEランク辺りの冒険者ともなれば、特に用がなくともギルドに通って情報を集めたりするものだ。

「それで、その……。謝礼についてなんだけど……」

 キカンスはギルドで聞いた、『サムライトラベラーズ』についての情報を改めて脳裏に浮かべつつ、緊張した面持ちで謝礼についての話を持ち掛けるのだった。



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