どこかで見たような異世界物語

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第十二章

第325話 堅白同異

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「それで、この度はどのような要件で参られたのだ?」

 アウラの凛とした声が応接室に響く。
 室内に設置されたソファーにはアウラの他に、訪問客であるアレクシオス・ブールデル準男爵と、ダニエレ = アンドレオッツィ子爵が席についている。

 三人が座っている場所の背後には、それぞれの従者や護衛の姿もあった。
 アウラの傍には家宰のアランと、従者のカレン。それから護衛としてマデリーネ。アンドレオッツィ子爵の背後には鋭い目つきをした中年の男と、文官らしき部下の老齢の男性が。そしてブールデル準男爵の傍には『勇者』シルヴァーノがそれぞれ控えている。

「うむ。私がこの町を訪れたのにも理由がありましてな。その理由を話す前に、ひとつ確認したい事がある。この地にダンジョンが発見されて以来、グリーク辺境伯はこの町に大分力を注いでいると聞いているが、相違ないか?」

「いかにも。父はダンジョンの重要性を考慮し、早急に神殿関係者や冒険者ギルド。そして商会などと連携を取り、この地の開発に力を注いでおります」

「ふむ、理由というのは実はその事なのだ」

「と、言いますと?」

「私も隣領に身を置く準貴族として、周辺地域の情報の収集を行っている。そうして得た情報から思うに、この町の管理に対して疑問を抱いてな」

「……どういう事でしょう?」

 言いがかりをつけられ、険しい表情になるのを抑えられないアウラ。
 反対にブールデル準男爵は余裕に満ちた表情をしている。

「まず一つ。この町……当時はまだ村だったが、以前に吸血鬼騒動が起こりましたな?」

「……その問題については既に解決している」

「それは勿論知っているとも。今の町の状況を見れば明らかであるしな」

 饒舌に語り続けるブールデル準男爵。
 なお同席しているアンドレオッツィ子爵は、最初に挨拶を交わしてからは口を挟むことなく、アウラとブールデル準男爵のやり取りを聞いている。

「では何故この話を持ち出したのだ?」

「それなのだが、私の調べではその事件には"吸血鬼"など存在せず、実際は"魅了"の能力を持つ能力者によるものだという報告を受けている」

「…………」

「ふむ、その様子だと間違いはなさそうですな。おっと、そういえばアウラ卿はその敵の手に落ちて拐かされたんでしたな。この事を知らない筈はなかった」

「その件は未遂に終わっている! アウラ様は敵のアジトに連れ去られる前に、無事救出されたのだ!」

「マデリーネ!」

「……ハッ、申し訳ありません。つい声を荒げてしまいました」

 激高して声を荒げたマデリーネに対し、客人である両貴族の護衛は大きな反応を見せていない。
 彼らは屋敷に入る際に武器を預けてはいるが、最低限の護身用の短剣の所持は許されているので、いざとなれば主を守る事は可能だ。

 Aランク冒険者であるシルヴァーノは勿論として、アンドレオッツィ子爵の護衛の男も、マデリーネが激高した事に対して特に危機意識を持っていないようだ。
 単純に、我を忘れて斬りかかって来る事などないと読み切っていたのか、自分の実力なら襲われても問題ないと思っているのか。シルヴァーノの場合は間違いなく後者であろう。

「話の腰を折って申し訳ない。彼女は私の忠実な部下なので、抑えきれなかったようだ」

「いやいや。それだけ忠誠心が高いという事。気にする事はない」

(フンッ、キャンキャン吠える犬のようだな。シルヴァーノならば、拐かされる前に敵を皆殺しにしているわ)

 口ではそう言いつつも、内心ではアウラやマデリーネを見下しているブールデル準男爵。
 本人は隠し通しているつもりであるが、表情には微かに本心が見え隠れしていた。

「話を戻そう。それでですな、当時の《ジャガー村》の村長やアウラ殿まで拐かそうとしたこの事件。どうにも私の中で引っかかるものを感じましてな」

「引っかかる事とは?」

「うむ。私も何が気にかかっているのか、最初は分からなんでな。部下に色々と調べさせたのだよ」

「……わざわざ他領の村の事をか?」

「左様。他領とはいえ、同じ王国に所属している事は変わらぬ。そして、当時は一介の村だったとはいえ、大規模ダンジョンという財産を抱えた重要な地。逆に何もせずに問題が起こってしまったら、後悔してもしきれぬ」

 拳を握り、力説しているブールデル準男爵であるが、お世辞にも演技の才能があるようには見えない。
 しかし当人は名演技をしているつもりのようで、声だけはやたらと勢いがあった。

「然して、私の懸念は間違っていなかった。部下が持ち帰った情報によると、"魅了の魔眼"を持つ冒険者『ナガイ』は、どうやら帝国の間者だったようなのだ」

「……なにっ?」

「驚かれるのも無理はない。しかしこれは事実なのだ。これが部下が寄越した報告書だ」

 そう言って、ブールデル準男爵は手荷物から数枚の書類を取り出す。
 アウラがその報告書に目を通すと、そこにはナガイがかつて帝国の方で活動していた事や、その後"魅了"の能力に目を付けた帝国の貴族が、ナガイを囲ったという事が書かれてあった。

「その報告を見て私は思ったのだ。今回は寸での所で外患を排除する事は出来たが、次も上手くいくとは限らぬ。何せ当時の村長と、後に町長になる両名が一挙に攫われるような事件が起こったのだ」

「……それで?」

「本人を目の前にして伝えるのも憚られるが、王国に忠誠を誓う身として、敢えて言わせていただこう。アウラ卿、其方ではこの町を治めるのに能力的に問題があると言わざるを得ん。一介の農村だった頃ならばともかく、大規模ダンジョンを抱えるとあっては、しかるべき者に管理を委ねるべきだ」

「何を仰られる。このグリークの地は、始祖『ドーン・ルディマス・グリーク』によって、何もなかった場所を一から築き上げた地。王国は未開地の開拓に成功した場合、その土地を所領として貴族に任ぜられるは自明の理。ダンジョンが見つかったとて、それを一々取り上げる道理はない」

「無論、通常であるなら卿の言い分は正しい。しかし、もしあのまま帝国の手の者に拐かされていたら、今頃この町はどうなっていたことか……」

 左手を顔にあて、下を向くブールデル準男爵だが、芋臭い演技も相まってとても見てられるものではなかった。
 実際、上手くいっていると思っているブールデル準男爵は、下を向いて嘆いている演技をしつつ、口元はにやけたままだ。

「しかし、私はベネティス領に名を連ねる者。隣領の私があれこれ言っても、グリーク辺境伯は聞き入れてはもらえないだろう。そこで私は、同じく王国の将来を憂いている、アンドレオッツィ子爵のお力を借りる事にしたのだ」

 ブールデル準男爵が気持ちよさそうに口上を述べると、これまで黙って話を聞いていたアンドレオッツィ子爵が口を開く。

「ほっほっほ。見ての通り、ブールデル準男爵の熱い説得に、ワシも心を動かされましてな。私としてもこの話は捨ててはおけないと思い、伝手を頼り裏を取ってみたところ、確かに怪しいと思える所がありましてな」

「……それでは伺いたいのですが、怪しいとはどの辺りの部分の事ですか?」

「なあに、ブールデル準男爵の語った事とそう違いはなかったはず」

「では、首謀者であるナガイが帝国で活動していたというのも事実だったという事ですか?」

 アウラはこの異世界ティルリンティの住人の中では、異邦人と多く接してきている方だ。
 その為、信也らがでっち上げた、この土地に来るまでの架空の経緯についても聞き及んでいた。

 ……実際の所はその話はでっち上げたものであるので、何も知らないアウラ目線から言えば帝国で活動していた過去があったとしても、否定しきれるものではない。

 それでもアウラは北条らの事を、以前危ない所を救ってもらった事もあって信頼していた。
 仮に帝国で活動していたというのが事実だったとしても、帝国の間者であるなどとは微塵も信じてはいない。

「それは――」

 アウラの問いに対し、アンドレオッツィ子爵が何か答えようとしたのとほぼ同時に、ブールデル準男爵が口を開く。
 そして声だけは威勢のいいブールデル準男爵によって、アンドレオッツィ子爵の返答は有耶無耶にかき消される。


「私の部下の調査能力を疑っておるのか? それなら心配はいらぬ。我がベネティス領では、諜報に関しては力を入れておる故、専用に訓練された者達の持ってくる情報は信用に値するのだ」

 『どこかの情報駄々洩れな領とは違ってな』

 口にこそ出していないが、ブールデル準男爵の態度を見れば、そのような事を考えているのが丸わかりだった。
 こうした機微に疎いアウラですら、それを感じられる程だ。

「という訳でだ。私がこの町を訪れた理由は、この事を直々に伝える為。そして協力をお願いした、アンドレオッツィ子爵をお迎えする為だったのだ。協力だけ呼び掛けておいて、本人である私が自領に引っ込んでいる訳にもいかぬのでな」


 ドヤ顔で宣言するブールデル準男爵は、もはや顔面の筋肉を操作・維持する事が出来なくなっているらしく、下卑た笑顔を浮かべている。
 それは背後で黙って話を聞いていたシルヴァーノも同様で、互いに相手を見下しているブールデル準男爵とシルヴァーノであったが、こういった部分では似たような性格をしていた。
 ……だからこそ、同族嫌悪によって余計毛嫌いしていたのかもしれないが。

 一方、言いがかりをつけられっぱなしのアウラサイドは、マデリーネが顔を真っ赤にして悔しそうな表情を浮かべている以外は、大きな態度の変化を見せている者はいない。
 しかしアウラの内心は烈火のごとく燃えていた。

「では確認したいのだが……」

 その燃える心に流されぬよう自制をしつつ、アウラは反撃の糸口を掴もうと口を開いた。



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