セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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 登極に際して、シリルの血筋の正統性があきらかにされたことは言うまでもない。しかし、強い不信感を募らせた民心を納得させることは容易ではなかった。王位継承者が定まらぬまま身罷った先王の後釜に、ふてぶてしくおさまった市井しせい上がりの恥知らずな成り上がり者。一度定着したマイナスの印象は、払拭することが難しかった。それゆえ、新国王に対する世間の批判と反撥はとどまることを知らず、過去の経歴を持ち出して騒ぎ立て、廃位を求める声が即位後も長らくあがりつづけた。

 シリルがそれらの声に過敏に反応し、廃位運動を煽動する者たちを個人的感情で罰したことは一度もない。自分ですら胡散臭く感じる経歴を、一国の君主たる人間が持ち合わせることに不快を感じ、不満を抱くのも無理はない。憤る側近たちを逆にそのようになだめ、首謀者らに関しては、無関係な者たちを巻きこんでの暴動になりかねない危険行為を諫めるにとどまった。
 いまる国王としての立場は、成すべきことがあるから受け容れた地位であり、シリル自身、なんら執着もなく、思い入れすらなかった。むしろ、国王として立つことそのものに、ほかでもない自分こそが違和感をおぼえつづけていた。しかし、淡泊を極めるその態度とは裏腹に、積み上げられていく実績と歴代君主をも凌ぐ英邁な資質、判断力、主動力の高さに、批判の声は次第に薄れ、小さくなっていった。

 絶大なる支持と根強く残る強い反撥。シリルの評価は現在でもなお、見事なまでに両極に分かれている。シリルは、それでかまわないと思っていた。それらをすべて受け容れたうえで、内容の如何を問わず、民衆の声を遮断せずに可能なかぎり耳を傾ける。そのような姿勢を保ちつづけた。
 明君であろうなどとは思わない。自分がそんな器ではないことは、シリル自身が承知していた。ただ、望まずして得た地位でなにかができるのであれば、それがかなわない相手にかわって、その力を振るうぐらいの労力は惜しむべきではない。そう考えるだけのことだった。それゆえ、寄せられた苦情がシリルの耳に入ることは、そう珍しいことではなかった。


 シリルにうながされたベルンシュタインは、居ずまいを正すと重々しく口を開いた。

「じつは、過日、陛下と取り交わしたお約束を、いまだ守っていただけないのはどういうことかと直訴しに参った不届きな者がおりまして」
「約束?」
「はい。ご多忙であらせられる陛下のお耳に、このような些末なことをお入れするのも憚られることではございましたが、どうしても直接お目にかかって訴えたいと強硬に言い張っておるものでございますから」

 よほどごねて手こずらされたのだろう。ベルンシュタインの口調にも表情にも、ほとほと困り果てた様子がありありとしていた。
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