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住処
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その顔でじっと見つめられ続けていたら、衝動的に抱き締めてしまいそうで、俺は音芽の顔を隠すようにわざと鼻をつまむことで危機を回避した。
そうして、気がついたらまたしても彼女を傷つけるようなひどい言葉を投げかけていて、内心結構な自己嫌悪。
売り言葉に買い言葉で音芽からも懸命な応戦があったのは確かだけれど、実のところ俺はそこいらあたりのやり取りをあんまし覚えていないのだ。
ふと視線を転じると、音芽が買ってきたと思しき荷物が、買い物袋から飛び出して道に散乱していた。
プリンや果物やお菓子を拾い集めて、横倒しになったままの袋に入れようとして――、中に牛乳と野菜ジュースが入っているのを見つけた俺は、思わず溜め息を吐きそうになる。
小さくて華奢で非力なくせに、……なんでこんな水ものを一気に買うんだよ。重てぇだろーが。こんなのは俺と一緒の時に買えばいいのに、何で俺を利用しない?
音芽のそばにズッシリと重い買い物袋を置きながら、――俺は無性にイライラしてきてしまう。
「音芽、いつまでもそんなところに座り込んでたら通行の邪魔だ。――立て」
本音では手を差し出して助け起こしたいくせに、突き放すような言葉が出てしまったのはそのせいだ。
瞬間音芽が大きく瞳を見開いて、彼女を見下ろす俺を見上げたのが分かった。
「アンタこそ名前は温和とか優しそうだけど、ホント、ただのドSじゃん!」
俺が音芽と素直に向き合えなくなって以来、しょっちゅうお互いに投げ続けてきた、名前にまつわる他愛もない応酬。
それを、キッと睨みつけられながら言われたのは覚えている。
俺の言葉に急かされるようにして、音芽がのろのろと立ち上がる。
その、どこかぎこちない様子から、もしかして怪我でもしたか?と思ったけれど本人が何も言わないのにこちらが何か言うのも気が引けて、俺は言葉を飲み込んだ。
でも、やっぱり声、かけとくべきだったんだ。
音芽が、俺が彼女の傍らに置いた荷物を取り上げようとする姿を見て、「重いから持って?」とか言えねぇのかよと再度苛立ちがこみ上げてくる。
持ってやるから貸せ、と言おうと一歩踏み出した瞬間、「ひゃっ」と悲鳴をあげて音芽がよろめいたことに驚いた。
「この……バカがっ」
舌打ちとともに、俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。
音芽がよろめいたときに、スカートの膝のところに血が滲んでいるのが一瞬見えて、俺は彼女の怪我に配慮できなかった自分に心底腹が立った。
ぶつかって好きな女に怪我をさせるとか……俺、何やってるんだよっ!
こんなんなら音芽一人で行き帰りしたほうがよっどマシだったじゃねぇか。
何にしても、痛くてよろけるぐらいだ。これ以上歩かせるわけにはいかない。
そう思った俺は、無言で音芽を横抱きに抱き上げた。
音芽の柔らかい身体が自分の腕の中にあると思うと、不謹慎にもドキドキして変な気分になってくる。
音芽から香ってくる女の子らしい甘い香りも、その思いに拍車をかける。
こいつ、もしかして風呂上りか?
思いながらも、俺は努めて平静を装ったフリをした。
でも、音芽の方はそうはいかなかったらしい。
そうして、気がついたらまたしても彼女を傷つけるようなひどい言葉を投げかけていて、内心結構な自己嫌悪。
売り言葉に買い言葉で音芽からも懸命な応戦があったのは確かだけれど、実のところ俺はそこいらあたりのやり取りをあんまし覚えていないのだ。
ふと視線を転じると、音芽が買ってきたと思しき荷物が、買い物袋から飛び出して道に散乱していた。
プリンや果物やお菓子を拾い集めて、横倒しになったままの袋に入れようとして――、中に牛乳と野菜ジュースが入っているのを見つけた俺は、思わず溜め息を吐きそうになる。
小さくて華奢で非力なくせに、……なんでこんな水ものを一気に買うんだよ。重てぇだろーが。こんなのは俺と一緒の時に買えばいいのに、何で俺を利用しない?
音芽のそばにズッシリと重い買い物袋を置きながら、――俺は無性にイライラしてきてしまう。
「音芽、いつまでもそんなところに座り込んでたら通行の邪魔だ。――立て」
本音では手を差し出して助け起こしたいくせに、突き放すような言葉が出てしまったのはそのせいだ。
瞬間音芽が大きく瞳を見開いて、彼女を見下ろす俺を見上げたのが分かった。
「アンタこそ名前は温和とか優しそうだけど、ホント、ただのドSじゃん!」
俺が音芽と素直に向き合えなくなって以来、しょっちゅうお互いに投げ続けてきた、名前にまつわる他愛もない応酬。
それを、キッと睨みつけられながら言われたのは覚えている。
俺の言葉に急かされるようにして、音芽がのろのろと立ち上がる。
その、どこかぎこちない様子から、もしかして怪我でもしたか?と思ったけれど本人が何も言わないのにこちらが何か言うのも気が引けて、俺は言葉を飲み込んだ。
でも、やっぱり声、かけとくべきだったんだ。
音芽が、俺が彼女の傍らに置いた荷物を取り上げようとする姿を見て、「重いから持って?」とか言えねぇのかよと再度苛立ちがこみ上げてくる。
持ってやるから貸せ、と言おうと一歩踏み出した瞬間、「ひゃっ」と悲鳴をあげて音芽がよろめいたことに驚いた。
「この……バカがっ」
舌打ちとともに、俺は慌てて彼女の腕を掴んだ。
音芽がよろめいたときに、スカートの膝のところに血が滲んでいるのが一瞬見えて、俺は彼女の怪我に配慮できなかった自分に心底腹が立った。
ぶつかって好きな女に怪我をさせるとか……俺、何やってるんだよっ!
こんなんなら音芽一人で行き帰りしたほうがよっどマシだったじゃねぇか。
何にしても、痛くてよろけるぐらいだ。これ以上歩かせるわけにはいかない。
そう思った俺は、無言で音芽を横抱きに抱き上げた。
音芽の柔らかい身体が自分の腕の中にあると思うと、不謹慎にもドキドキして変な気分になってくる。
音芽から香ってくる女の子らしい甘い香りも、その思いに拍車をかける。
こいつ、もしかして風呂上りか?
思いながらも、俺は努めて平静を装ったフリをした。
でも、音芽の方はそうはいかなかったらしい。
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