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大誤算
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「お兄ちゃん……じゃ……ダメ、なの?」
音芽が俺の腕の中でそう聞いてきた時、やっぱり聞こえていたか、と絶望的な気持ちになった。
それと同時に、バレちまったんなら逆に気持ちを伝えるのに好都合なんじゃないかとも思ったりして。
微かに震える音芽を腕に抱きとめたまま、俺はこのあとどう彼女にリアクションを取るのが正解だろうか?とフル回転で考えを巡らせる。
本当なら優しく抱きしめ直して「好きな女に兄貴扱いされて嬉しい男はいないんだよ、バカ音芽」と、愛らしい彼女の耳朶に吹き込んでやりたい。
そうした時の音芽の反応を考えると、怖くもあり……楽しみでもあり。
だって、もしかしたら俺の気持ちに応えてくれるかもしれないとかバカな望みも捨て切れないだろ?
投げかけた質問に返せないままの俺に焦れたのか、音芽が身じろぐようにしてこちらを振り返った。
音芽の大きくて澄んだ瞳が、俺を捉えて放さない。
その視線に吸い込まれそうな錯覚のなか、音芽……って無意識に呼びかけそうになった、まさにその時――。
彼女の口から「ねぇ、ハルに……」という言葉が紡ぎ出されて。
俺はハル兄と呼ばれたくてお前のそばにいるわけじゃない。
いい加減兄貴って呼ぶの、やめろよ!
苛立ちと同時に、俺は思わず音芽の言葉ごと彼女の唇を塞いでいた。
音芽の口から、2度と俺のことを兄貴だとか、まるっきり恋人と対局にあるような呼び方で呼ばせてたまるかってんだ。
ギュッと音芽を抱く腕に力を込めて、お願いだから唇を離した後も、俺を「ハル兄」とか呼んでくれるなよ、と願わずにはいられない。
短く自分勝手な口付けの後、恐る恐る腕を緩めたら、音芽がよろめくようにして俺の腕からまろび出た。
そうして真っ赤な顔をして
「えっ、あ、あのっ……今の……っ」
って言うんだ。
唇に、そっと触れる音芽の仕草を見て、俺は心臓がドクンッと大きく跳ね上がるのを感じた。
その瞬間、勝算もないままにやってしまったバカな行動で、コイツを失いたくない、と痛切に願ってしまったんだ。
だったら、まだ絶対に俺の気持ちを気取られるわけにはいかない――。
時期尚早だ。
そう考えた俺は、咄嗟に「ザマァ見ろ」と音芽に告げて、意地悪く舌を突き出していた。
まるで腹いせにお前の唇を奪ってやったという体を取った俺を見て、音芽の瞳が戸惑いに揺れる。
俺はそんな彼女の様子に、上手く誤魔化せた、と内心ほくそ笑んだ。
それで、だろうな。
言わなくてもいいのに、適当についた嘘を、さらに周りからがっつりコンクリート詰めにでもするみたいに、要らないセリフが次々飛び出してきた。
「俺は出来の悪いお前の兄貴でいるのはうんざりなんだよ。いい加減分かれ、バカ音芽。今度ハル兄って呼んだら、もっと酷い目に遭わせてやるからな? ――覚悟しとけ」
とか……。
言い終わって音芽の方をふと見た俺は、一瞬にして血の気が引くのを感じた。
音芽、お前……なんでそんな傷ついた顔――。
そこまで考えて、ある結論に達した俺は、目端にじんわり涙を浮かべた音芽が、
「は、温和の、バカッ……! 私、初めて……だった、のにっ」
キッと俺を睨みつけてそう言った瞬間、完全に身動きが取れなくなってしまったんだ。
音芽の瞳から、堪えきれなくなった涙がポトリと床に染みを作ったのを見て、心がざわついてどうしようもなくなる。
なあ音芽。俺は、どうすればいい――?
音芽が俺の腕の中でそう聞いてきた時、やっぱり聞こえていたか、と絶望的な気持ちになった。
それと同時に、バレちまったんなら逆に気持ちを伝えるのに好都合なんじゃないかとも思ったりして。
微かに震える音芽を腕に抱きとめたまま、俺はこのあとどう彼女にリアクションを取るのが正解だろうか?とフル回転で考えを巡らせる。
本当なら優しく抱きしめ直して「好きな女に兄貴扱いされて嬉しい男はいないんだよ、バカ音芽」と、愛らしい彼女の耳朶に吹き込んでやりたい。
そうした時の音芽の反応を考えると、怖くもあり……楽しみでもあり。
だって、もしかしたら俺の気持ちに応えてくれるかもしれないとかバカな望みも捨て切れないだろ?
投げかけた質問に返せないままの俺に焦れたのか、音芽が身じろぐようにしてこちらを振り返った。
音芽の大きくて澄んだ瞳が、俺を捉えて放さない。
その視線に吸い込まれそうな錯覚のなか、音芽……って無意識に呼びかけそうになった、まさにその時――。
彼女の口から「ねぇ、ハルに……」という言葉が紡ぎ出されて。
俺はハル兄と呼ばれたくてお前のそばにいるわけじゃない。
いい加減兄貴って呼ぶの、やめろよ!
苛立ちと同時に、俺は思わず音芽の言葉ごと彼女の唇を塞いでいた。
音芽の口から、2度と俺のことを兄貴だとか、まるっきり恋人と対局にあるような呼び方で呼ばせてたまるかってんだ。
ギュッと音芽を抱く腕に力を込めて、お願いだから唇を離した後も、俺を「ハル兄」とか呼んでくれるなよ、と願わずにはいられない。
短く自分勝手な口付けの後、恐る恐る腕を緩めたら、音芽がよろめくようにして俺の腕からまろび出た。
そうして真っ赤な顔をして
「えっ、あ、あのっ……今の……っ」
って言うんだ。
唇に、そっと触れる音芽の仕草を見て、俺は心臓がドクンッと大きく跳ね上がるのを感じた。
その瞬間、勝算もないままにやってしまったバカな行動で、コイツを失いたくない、と痛切に願ってしまったんだ。
だったら、まだ絶対に俺の気持ちを気取られるわけにはいかない――。
時期尚早だ。
そう考えた俺は、咄嗟に「ザマァ見ろ」と音芽に告げて、意地悪く舌を突き出していた。
まるで腹いせにお前の唇を奪ってやったという体を取った俺を見て、音芽の瞳が戸惑いに揺れる。
俺はそんな彼女の様子に、上手く誤魔化せた、と内心ほくそ笑んだ。
それで、だろうな。
言わなくてもいいのに、適当についた嘘を、さらに周りからがっつりコンクリート詰めにでもするみたいに、要らないセリフが次々飛び出してきた。
「俺は出来の悪いお前の兄貴でいるのはうんざりなんだよ。いい加減分かれ、バカ音芽。今度ハル兄って呼んだら、もっと酷い目に遭わせてやるからな? ――覚悟しとけ」
とか……。
言い終わって音芽の方をふと見た俺は、一瞬にして血の気が引くのを感じた。
音芽、お前……なんでそんな傷ついた顔――。
そこまで考えて、ある結論に達した俺は、目端にじんわり涙を浮かべた音芽が、
「は、温和の、バカッ……! 私、初めて……だった、のにっ」
キッと俺を睨みつけてそう言った瞬間、完全に身動きが取れなくなってしまったんだ。
音芽の瞳から、堪えきれなくなった涙がポトリと床に染みを作ったのを見て、心がざわついてどうしようもなくなる。
なあ音芽。俺は、どうすればいい――?
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