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「おと、め……?」
音芽の反応にうろたえながら呼びかけてみたけれど、健闘虚しく背中を向けられてしまった。
ばかりか「帰るっ」と吐き捨てるようにつぶやかれて、ヨロヨロと歩き出されてしまう。
まだ足の治療も中途半端だというのに、音芽の後ろ姿からはっきりとした拒絶を感じて、俺は一瞬たじろいだ。
それでも自分を鼓舞して音芽の手を引っ張って止めると、「待てよ、音芽っ」と声をかける。
なのに俺の手を振りほどこうとしながら、「離、して……!」と言われて。
放したら終わりだと直感して、自然、音芽の手を握る手に力がこもった。
「泣いてるの知ってて、そのまま帰せねぇだろ」
やっとの思いでそう告げたのに――。
「温和のそばにいるの……、しんどいの。……分かん、ない?」
音芽は俺の方を見ようともせずにそう言い返してきた。彼女の肩が小さく震えているのが分かって、いたたまれない気持ちになる。
「……だから、離して」
なのに、なおも俺を拒絶する言葉を重ねて、涙で潤んだ瞳を向けて、俺にそう懇願するんだ。
この状況で、はい、そうですかって手、放せねぇだろ。
俺は音芽の手をギュッと握ったまま、「分からねぇよ」と食い下がった。
音芽はそんな俺の手を引き剥がそうともがきながら、「温和っ、お願いだからっ……、これ以上、私を惨めな気持ちにさせないでっ!」と涙目で睨んできて。
足、痛いはずなのに必死に踏ん張って俺から逃げようとする様を見せられたら、さすがにそれ以上音芽を引き止めることはできなかった。
音芽の手を握る力を緩めると、彼女は俺の手を振り解くようにして、ノロノロと歩き出す
その背中に、「温和の側にはいたくないの」と書かれているように見えて、俺はその場から動けなかった。
***
しばらくの間、音芽が出て行った玄関扉をぼんやり見つめたまま、俺は放心状態だった。
ややして、隣の部屋から音芽のたてる小さな音が聞こえてきて、俺はやっと金縛りから解かれたように動き出す。
何とか……しねぇと。
停止寸前の脳味噌を鼓舞して考えた結果、俺が出した答えは――。
***
「奏芽、どうすればいい? 俺、音芽を傷つけちまった」
悪友で幼なじみで音芽の実兄――鳥飼奏芽に電話すると、開口一番情けない告白をした。
奏芽は俺が音芽のことを好きなことを随分昔から知っている。
多少不本意ながら、相談するのはコイツしかいない、と思ったんだ。
『あぁ? 音芽を傷つけたって……お前、とうとう襲ったのか』
奏芽の言葉に、危うくスマホを落としそうになる。
「ち、違っ」
否定しようとして、いや、違わないか、と思い直す。
「襲ってはいねぇけど……唇は……奪った」
言えば、『きゃー、ハルくん、童貞卒業おめでとう!』とクスクス笑い声が返る。
いや、俺、童貞じゃねぇし!
思いはしたものの、音芽に対しての俺の言動は、まるっきり未経験者のそれと大差ないな、と思い至って情けなくなる。
「おと、め……?」
音芽の反応にうろたえながら呼びかけてみたけれど、健闘虚しく背中を向けられてしまった。
ばかりか「帰るっ」と吐き捨てるようにつぶやかれて、ヨロヨロと歩き出されてしまう。
まだ足の治療も中途半端だというのに、音芽の後ろ姿からはっきりとした拒絶を感じて、俺は一瞬たじろいだ。
それでも自分を鼓舞して音芽の手を引っ張って止めると、「待てよ、音芽っ」と声をかける。
なのに俺の手を振りほどこうとしながら、「離、して……!」と言われて。
放したら終わりだと直感して、自然、音芽の手を握る手に力がこもった。
「泣いてるの知ってて、そのまま帰せねぇだろ」
やっとの思いでそう告げたのに――。
「温和のそばにいるの……、しんどいの。……分かん、ない?」
音芽は俺の方を見ようともせずにそう言い返してきた。彼女の肩が小さく震えているのが分かって、いたたまれない気持ちになる。
「……だから、離して」
なのに、なおも俺を拒絶する言葉を重ねて、涙で潤んだ瞳を向けて、俺にそう懇願するんだ。
この状況で、はい、そうですかって手、放せねぇだろ。
俺は音芽の手をギュッと握ったまま、「分からねぇよ」と食い下がった。
音芽はそんな俺の手を引き剥がそうともがきながら、「温和っ、お願いだからっ……、これ以上、私を惨めな気持ちにさせないでっ!」と涙目で睨んできて。
足、痛いはずなのに必死に踏ん張って俺から逃げようとする様を見せられたら、さすがにそれ以上音芽を引き止めることはできなかった。
音芽の手を握る力を緩めると、彼女は俺の手を振り解くようにして、ノロノロと歩き出す
その背中に、「温和の側にはいたくないの」と書かれているように見えて、俺はその場から動けなかった。
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しばらくの間、音芽が出て行った玄関扉をぼんやり見つめたまま、俺は放心状態だった。
ややして、隣の部屋から音芽のたてる小さな音が聞こえてきて、俺はやっと金縛りから解かれたように動き出す。
何とか……しねぇと。
停止寸前の脳味噌を鼓舞して考えた結果、俺が出した答えは――。
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「奏芽、どうすればいい? 俺、音芽を傷つけちまった」
悪友で幼なじみで音芽の実兄――鳥飼奏芽に電話すると、開口一番情けない告白をした。
奏芽は俺が音芽のことを好きなことを随分昔から知っている。
多少不本意ながら、相談するのはコイツしかいない、と思ったんだ。
『あぁ? 音芽を傷つけたって……お前、とうとう襲ったのか』
奏芽の言葉に、危うくスマホを落としそうになる。
「ち、違っ」
否定しようとして、いや、違わないか、と思い直す。
「襲ってはいねぇけど……唇は……奪った」
言えば、『きゃー、ハルくん、童貞卒業おめでとう!』とクスクス笑い声が返る。
いや、俺、童貞じゃねぇし!
思いはしたものの、音芽に対しての俺の言動は、まるっきり未経験者のそれと大差ないな、と思い至って情けなくなる。
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