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憂鬱な朝
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理不尽な俺の言い分に、音芽が黙って従う。
聞きたいことは山ほどあろうに、俺の言いつけ通り自室玄関扉に施錠する音芽を見て、我知らず吐息がもれた。
昨夜、電話で奏芽が「音芽はM気質だ」と話していたけれど、満更間違いではない気がする。
基本的に音芽は従順で御しやすいタイプだ。
でもそれは恐らく俺や奏芽に対してだけではなく、誰に対しても……なんじゃないかと俺は懸念していたりする。
もしも、俺たち以外の男が、音芽を押さえつける勢いで何かを言ったとしたら……。
考えただけでゾッとした。
つい考え事に没頭する余り、音芽を置いて結構先を歩いてしまっていた俺は、後ろからの慌てたような足音――でも乱れている――にハッとした。
努めて冷静な素振りで振り返ると、音芽が足を引き摺りながら一生懸命俺に追いつこうとしていて。
バカ音芽。
そんな足で追いかけてこなくていいんだよ。
「俺は先に荷物積んでくるから、お前はゆっくり降りてこい。……――急がなくて、いい」
なるべく命令口調にならない言葉を選んで、音芽にそう提言すると、やんわりと彼女の足を止めさせた。
足が痛いはずなのに、何で子犬みたいに俺の後を追いかけてこようとするんだよ。
そんなんされたら俺のこと、好きなんじゃないかと思って勘違いするだろ。
少しは考えろよ、バカ。
本音を言うと、照れ隠しにそんな悪態をつきたいけれど、音芽の不安げな顔を見たら憎まれ口なんて叩ける雰囲気ではなくて。
やたらソワソワした様子で俺を見つめる表情、可愛すぎんだろ。
マジでやめてくれ。
コクコクと俺の言葉にうなずく仕草が凶悪に可愛くて、思わずにやけそうになった俺は、慌てて二人分の荷物を手に取ると、小走りで階段を駆け降りた。
背中に音芽の視線を感じる気がするのは、気のせいだと思うことにした。
***
車の後部シートに荷物を置いて戻ると、音芽が手すりに掴まりながらえっちらおっちら歩いていて。
本音言うと物陰からずっと眺めていたいぐらい、その真剣な様子にそそられた俺だったが、さすがにそれは悪趣味だし音芽がしんどそうで可哀想だ。
俺は一度深呼吸をすると、音芽のそばまで歩み寄って背中を向けてしゃがみ込んだ。
正面向きのまま話すと頬が緩んでしまいそうだったから、俺的には結構苦肉の策だったんだけど。
肝心の音芽が、一向に負ぶさってくる気配がない。
仕方なく音芽のほうを見ないまま「何ボォーッと突っ立ってんだ、乗れよ」って声をかけた。
と、背後ですごく慌てた気配がして。
「あ……いっ、いいよ。週明け早々温和のスーツ、汚しちゃいけないし……」
しどろもどろに断ってくるところが、音芽らしくていじらしく、且つもどかしい。
その余りの可愛さにどうにかなってしまいそうで、そんな自分に思わずチッと舌打ちすると、
「仕事用のスーツだ。どうせチビどもに汚されるんだし、お前が汚すのも大差ねぇだろ。――しのごの言わずに早く負ぶされって。時間が惜しい」
俺はお前と違って職場で処理しなきゃいけないことが山積みなんだよ、とか何とか適当な言い訳をしながら音芽を急かした。
なぁ、音芽。
早く俺に負ぶさってこいよ。
どのみちお前には拒否権なんてないんだからさ。
聞きたいことは山ほどあろうに、俺の言いつけ通り自室玄関扉に施錠する音芽を見て、我知らず吐息がもれた。
昨夜、電話で奏芽が「音芽はM気質だ」と話していたけれど、満更間違いではない気がする。
基本的に音芽は従順で御しやすいタイプだ。
でもそれは恐らく俺や奏芽に対してだけではなく、誰に対しても……なんじゃないかと俺は懸念していたりする。
もしも、俺たち以外の男が、音芽を押さえつける勢いで何かを言ったとしたら……。
考えただけでゾッとした。
つい考え事に没頭する余り、音芽を置いて結構先を歩いてしまっていた俺は、後ろからの慌てたような足音――でも乱れている――にハッとした。
努めて冷静な素振りで振り返ると、音芽が足を引き摺りながら一生懸命俺に追いつこうとしていて。
バカ音芽。
そんな足で追いかけてこなくていいんだよ。
「俺は先に荷物積んでくるから、お前はゆっくり降りてこい。……――急がなくて、いい」
なるべく命令口調にならない言葉を選んで、音芽にそう提言すると、やんわりと彼女の足を止めさせた。
足が痛いはずなのに、何で子犬みたいに俺の後を追いかけてこようとするんだよ。
そんなんされたら俺のこと、好きなんじゃないかと思って勘違いするだろ。
少しは考えろよ、バカ。
本音を言うと、照れ隠しにそんな悪態をつきたいけれど、音芽の不安げな顔を見たら憎まれ口なんて叩ける雰囲気ではなくて。
やたらソワソワした様子で俺を見つめる表情、可愛すぎんだろ。
マジでやめてくれ。
コクコクと俺の言葉にうなずく仕草が凶悪に可愛くて、思わずにやけそうになった俺は、慌てて二人分の荷物を手に取ると、小走りで階段を駆け降りた。
背中に音芽の視線を感じる気がするのは、気のせいだと思うことにした。
***
車の後部シートに荷物を置いて戻ると、音芽が手すりに掴まりながらえっちらおっちら歩いていて。
本音言うと物陰からずっと眺めていたいぐらい、その真剣な様子にそそられた俺だったが、さすがにそれは悪趣味だし音芽がしんどそうで可哀想だ。
俺は一度深呼吸をすると、音芽のそばまで歩み寄って背中を向けてしゃがみ込んだ。
正面向きのまま話すと頬が緩んでしまいそうだったから、俺的には結構苦肉の策だったんだけど。
肝心の音芽が、一向に負ぶさってくる気配がない。
仕方なく音芽のほうを見ないまま「何ボォーッと突っ立ってんだ、乗れよ」って声をかけた。
と、背後ですごく慌てた気配がして。
「あ……いっ、いいよ。週明け早々温和のスーツ、汚しちゃいけないし……」
しどろもどろに断ってくるところが、音芽らしくていじらしく、且つもどかしい。
その余りの可愛さにどうにかなってしまいそうで、そんな自分に思わずチッと舌打ちすると、
「仕事用のスーツだ。どうせチビどもに汚されるんだし、お前が汚すのも大差ねぇだろ。――しのごの言わずに早く負ぶされって。時間が惜しい」
俺はお前と違って職場で処理しなきゃいけないことが山積みなんだよ、とか何とか適当な言い訳をしながら音芽を急かした。
なぁ、音芽。
早く俺に負ぶさってこいよ。
どのみちお前には拒否権なんてないんだからさ。
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